酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年06月22日(日) 『うつくしい子ども』 石田衣良

 僕は中学2年生。ニックネームは‘ジャガ’。ごつごつしてざらざらしてジャガイモみたいだから。内心ちょっとショック。僕の弟と妹は母親似でとても<うつくしい子ども>なのに。要するに人間は生まれつき不平等にできている・・・。
 僕の住んでいる夢見ニュータウンで9歳の女の子が行方不明になっていたのだが、遺体で見つかった。妹の同級生。遺体は吊り下げられ、胸には噛んだ後が残っていた。そしてその犯人が・・・僕の弟、カズシだったんだ。
 僕の生活は一日ですべてが変わってしまった。しかし、僕は弟のためにできることをやってみようと思うんだ。

 この物語は、ちょうど3年前に読みました。『池袋ウエストゲートパーク』を書いた石田衣良さんが、どんな酒鬼薔薇聖斗事件を描くのか、とても興味があったことを記憶しています。今回、読み直して最初に読んだ時と自分の感想がかなり違っていることに驚きました。
 主人公のジャガは、殺人犯となった弟を<言ってはいけないことかもしれないけれど、殺人犯となった後も生きなければならないなんてかわいそう>と思います。そして殺人犯の家族であることを隠さず、弟の心の闇に迫ろうと努力をし、ある真相に辿り着きます。その真相をジャガは・・・。ここなのです。前回は、ジャガの心優しい決断に涙しました。でも今回は、ジャガの決断は間違っていると感じました。そして真相を知る唯一の大人、新聞記者・山崎の決断も。
 ジャガはそれでよかったかもしれない。でも本当のことを知る権利は被害者の家族にもあったのではないかと思う。たとえジャガが自力でその真相へ辿り着いたとは言え・・・。
 でもその感想の相違はあったものの、やはりこの『うつくしい子ども』が優れた物語であることに違いはありません。ジャガとジャガを取り巻く魅力的な仲間たちの存在がもうたまらないくらい素晴らしい。なにが起ころうと人生は捨てたものじゃない、そう思わせてくれるところが救いでした。
 高田理香さんのイラストはキュートで大好きですv

 ぼくの家が痛がっている。
 心のなかでごめんといって、ぼくは逃げた。近所の誰かに顔を見られないように。もしぼくに向かって、あんなにフラッシュをたかれたら、きっとおかしくなってしまうだろう。あんなに明るくて正しい光りに、とてもぼくは耐えられない。

『うつくしい子ども』 1999.5.10. 石田衣良 文藝春秋



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