酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年06月16日(月) 仔羊の巣 坂木司

 僕、坂木司の友人・鳥井真一はひきこもりがち。生意気で口が悪いが本当は優しくとても繊細ないい奴。鳥井の全ての基準は僕にあり、僕に関することでおろおろとしてしまい子供のようにほろほろと泣いてしまうようなところがある。そんな鳥井は‘ひきこもり探偵’(安楽椅子探偵)。僕から聞く話のパーツを組み立ててするりと謎を解いてしまう。

 去年、前作の『青空の卵』は仲間内でこれはいいわぁ〜、と一気に広まったという優れもの。今回は、卵が巣となりふたりを取り巻く環境に広がりが出て、前作より一層素敵な物語たちに出会えます。その3つの章タイトルが私的にはかなりつぼ。内容にシンクロするお洒落なタイトルにも坂木司さんのセンスが伺えます。にこりv

「野生のチェシャ・キャット」
 風邪で寝込んでしまった鳥井に迷惑をかけまいとワトソン坂木が孤軍奮闘。でも結局は最後にホームズが本当は名探偵はこうだよとさらりと謎を解いてみせる。
 坂木司の同僚がふたり登場。わかりやすい体育会系・吉成くんとバリバリに仕事のできる美女・佐久間さん。外資系保険会社に勤務する三人だが、最近佐久間さんの様子がおかしいと吉成くんが心配し、ふたりで佐久間さんの身辺を探る(笑)。佐久間さんのおかしな様子の原因とは・・・。
 今回の新しいキャラクターたちもそれぞれに味があり、ふたりはいい出会いを重ねて育てていきます。他のふたつの物語りも微妙にリンクし、最後には3つを通して「仔羊の巣」という物語に集約されます。うう、うまい。

 前回も今回も「これってある意味ボブ(ボーイズラブ)だよなぁ」と感じてしまいました。でもそこは坂木司さんも前回でつっこまれまくったのか(大笑)、坂木と鳥井の関係とはなんぞや、というテーマも語られています。まぁそう落としたいのはわかりますが、やはりこれはもうある意味ボブとしか思えません。アハハ。
 坂木がいい奴すぎるのに対して、鳥井は腹が立つほど我侭に描かれています。それはきっと今はふたりでひとつで補い合っているからかなと思いました。この物語がいつまで続くのかわかりませんが、ふたりはきっと各々で輝く素敵な青年に成長していくことでしょう。卵から巣へ。巣から次はなにでしょう。とても楽しみです。
 未読の方には是非オススメです。『青空の卵』から読まれるべきだと思います。

「一度聞いておきたかったんだけどな。鳥井はともかく、お前はあいつと世界のたった一つの窓口でいることに、納得しているのか? それとも、誰にもなつかない動物のオンリー・ワンであることを、杖にしてすがってるのか?」

『仔羊の巣』 2003.5.15. 坂木司 東京創元社 



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