管理人の想いの付くままに
瑳絵



 織られた言の葉(お題:24)

「千羽のラヴレター」番外編
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 織られた言の葉


 嬉しさと恥ずかしさ、それが今私の心に在る全てだ。
 部屋に散乱する色取り取りの色紙は、まるで逃げることを赦さないと主張しているかのようで、こんな面倒なことを考えた自分を恨みたくすら感じる。
『全国行けたら千羽上げる』
 なんて彼に告げたのは、更に逃げ道を無くすためだ。
 ”好き”の言葉を素直に言えない己の、精一杯の告白がしたくて、千羽鶴を織ることに決めた。一枚一枚に、好きの言葉を綴って。
 元々手先が余り器用ではないので、決して上手いとは言えない不恰好な鶴。
 今や、後悔の象徴でしかないその鶴を、一羽指先で弾く。


 彼は、またも全国への切符を、ほんの少しの所で逃してしまった。
 友人である剣道部のマネージャーに、どんなに落胆したかを聞かされて、自分の発言を呪った。
 我武者羅に練習する彼に、近付くことの出来ない自分が悔しい。
「……できた」
 最後の、千羽目の鶴。真っ赤なその鶴が、まるで彼のようだ。
 いや、ここにある全ての鶴が……。

 出来上がった鶴を、無造作に箱に詰める。紐を通すのは止めた。
 とにかく、彼に届けたかった。



 ドキドキと心臓が早鐘を打つ。前に一羽だけ届けた時よりも、更に早い心臓。一度、大きく深呼吸をした。
「どなたですか」
 出迎えたのはあの時と同じ彼で、違うのは、その表情に陰りが見えること。
 抱き締めたいと、心から思った。
 とにかく上がって、と言う彼の言葉に甘え、階段を上り部屋に入る。数分後、お盆にカップやお茶請けを乗せた彼が入って来る。
 降りる沈黙に、私は立ち上がった。
「どうかした?」
 訝しげに見上げる彼の背後に回り、私は箱の中の鶴を、彼の頭上からぶちまけた。
 鮮やかな鶴の雨。舞い落ちる鶴に、彼の顔は驚きしかない。
「これ、上げる」
「でも……オレ、」
 言いたいことは分かる。でも、この鶴たちの本当の意味は、
 私はそのまま背を向けて座り、彼の背中に寄りかかる。
「良いの、全国はただの口実。実際、千羽間に合わなかった言い訳だし」
 抱き締めたいけど背中合わせで、素直になりたいと思いながらもなりたくないと思う。折った鶴が憎らしいのに愛しいように……二律背反。
 矛盾した想いと、曖昧にしか伝わらない言の葉。

 普段、織ることの出来ない言の葉を、今この状態でなら織れるだろうか?

「ねぇ、好きだよ」
「……ありがとう」
 それで良い、これで良い。
 私達は、そんな矛盾した感情と、曖昧な言葉の中で生きてるんだから。
「来年こそは、頑張るから」
「うん、じゃぁ来年も折るよ」
 沢山の言葉を、想いを織り込んだ鶴を折ろう。
 唯一人、貴方の為に。



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「千羽のラヴレター」の番外編
24.矛盾した想いと、曖昧にしか伝わらない言の葉
を使用。県大会後の2人。
微妙にシリアスチックに仕上がりました(苦笑)
彼、負けちゃいました・・途中まで勝った設定だったのに・・。
ゴメンヨ、やっぱ人生そんなに甘くないと言うことで(脱兎)

お題2つ目vv書いてて楽しい♪

2004年02月17日(火)
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