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読書日記。今村「近代性の構造」 レヴィ&中沢「サンタクロースの秘密」 - 2002年08月09日(金)

タフな(村上春樹風、今のわたしにぴったり)状況が続き、
二週間ほど間があいて、読んだ内容はどんどん忘却のかなたへ。
しかし、霧雨がちで、気温も低く、予定していた洗濯もできないので
残滓なりと。

「近代性の構造」 今村仁司 講談社選書メチエ1 1994

かたい文章の背後に人がらのようなもの(とてもいい人!!)が見えるので
この先生の書いたものに興味がある。
本書は1994刊と古いが、今の世界とわたしの現実にいちいちあてはまり、
(わたしには難しいところもあるが)面白く読んだ。
講義がもとになっているらしく、同じ著者の
「交易する人間」より平明。できのよい教科書的な読みやすさだ。

著者は1968「プラハの春」「パリの五月」により
第二近代は終焉を宣告され、第三近代への過渡期に入ったと言う。

わたしの個人的な文脈から笑うほどおもしろかったのが下記。
 
 けれども宣告は宣告でしかなく、
 我々の現実はまさに第二近代の最先端になっている。
 過渡期とは、前時代の勢力が絶頂に達する時期でもあるのだ。

思わず膝を打ってしまいました。
もちろん、例のニューヨークのテロを中心とする
世界や日本の現状にも、なのだが
現在わたしを息苦しくしている
仕事場の現実にあまりにもフィットするので。
なるほど、あれは第二近代の権化であったか。
そう言われると、
息苦しさにネガティヴに反応しているだけの段階から
次の段階にすっと移行できるような気がするから不思議だ。
哲学者の先生はえらい。
マクロもミクロもぴたりとあてる。
よくあたる占い師みたい。
今村先生にファンレターを書いてみたい。
先鋭化した第二近代について語るため、
仕事場のお友達にもついこの本をすすめてしまったことです。

著者の示す近代の特徴。

 「正確さ」というものに病的に取りつかれた時代。
 「企て」中心の方法主義。体系主義。純粋主義。
 直線時間。
 「未来」を先取りし、現在に取り込む「進歩」の理念。
 自然を、すべてを機械(メカニズム)としてとらえる態度。
 非人間を人間から差別し排除する構造。

それをのりこえるために著者は、
あいまいさを代価として支払い
エッセー的スタイルの思考をすることを提案する。

第五章 「排除」と「差別」の構造を超えて は
本書の中でもわたしにはもっともわかりやすかった。
目新しい考え方ではない。
どちらかと言えば、
昔からそれはわかってるよ、
というようなことがまとめられている。
自分が感じ、考えていたことが
間違いではなかったのだな、と確認する。

ただ、おおっと思ったのがラスト。
示した問題に対して
今村先生はどういう解決法をしめすのかなぁと、
興味シンシンで読み進めていくと、
「えーっ、それを言っちゃぁ反則じゃっ!?」
いや、否定するわけではないんですが…。

 人間中心主義は人間/非人間の切断線を立てるところには
 いつでも発生する。
 排除と差別の根絶への期待は絶望的だが、
 絶望的だと判断することが、まずは出発点になる。
 その判断については古来欺きの言説が多すぎたし、今もそうである。
 欺きのイデオロギーの正体をつきとめて、
 欺くことに加担しないことが必要だ。
 正義は、常に人間ではなく非人間のほうにある。
 差別と排除のメカニズムをのりこえるためには
 自分の中の「異者」に気づき、
 自ら「異者になること」だけがとるべき道である。

って、ねぇ。
そのようなカードをきっちゃってよいのでしょうか??
そりゃ、もう、宗教じゃないの…。でもいい人だ…。

注 わたしは、とくにいじめられっこではありません。
  どっちかというと潜在的にはいじめっこかな…。


「サンタクロースの秘密」 クロード・レヴィ=ストロース/中沢新一
             せりか書房 1995
レヴィ=ストロースの
「火あぶりにされたサンタクロース」中沢訳 と
中沢の「幸福の贈与」が入っている。読みやすくてかわいい本。
題名だけ見ると、講談社新書あたりの
サンタクロースに纏わる伝説や歴史や風俗を楽しくまとめた本みたい。
でもなかみはちょとちがう。
サンタクロースの原型「鞭打ちじいさん」の図版がコワイ。

1951、フランスでカトリックの司祭らが
サンタクロースを火あぶりにした事件の文明史的な意味。
彼らの行為が彼らの立場からいうと妥当なものだったこと。
しかし、結果は皮肉なものになったこと。

サンタクロース儀礼の元々のすがた。
子どもへの贈与は死者への贈与ということ。
偽王。

中沢の文章のさいごの
レヴィ=ストロースの構文による
「クリスマス・キャロル」の読み解きがきもちよくおもしろい。

この本を読みながら
わたしは萩尾望都の「偽王」という掌編(すごく昔)を思い出した。
とても好きだった作品。
そしてあらためて萩尾望都ってすごいなーと思った。

 








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