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2011年11月10日(木)
続・18歳未満差別!? 同人イベントにおけるレーティング・ゾーニングを考える

 先に記事を起こしました「18歳未満差別!? 同人イベントにおけるレーティング・ゾーニングを考える」で、取りこぼした事柄が有りましたのと、幸いにしてご意見もいただけましたので、返答も兼ねて、補足部分をまとめさせていただきます。こちらは補足ですので、前記事未読の方は、恐れ入りますが、一つ前に戻って、そちらから読み始めていただけますでしょうか。

 では、取りこぼし部分から。

・同人は「業者」なのか?
 まず、先に抜粋引用した青少年健全育成条例(京都府版)の内容を振り返りましょう。
 【 図書類取扱業者は、第1項の規定により指定された図書類又は第2項各号の規定に該当する図書類(以下「有害図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、貸し付け、閲覧させ、視聴させ、又は聴取させてはならない】(【】内、http://www.pref.kyoto.jp/seisho/resources/1300954947443.pdfより引用)
 「私たちは『趣味』の範疇でやってるんだから『業者』じゃないでしょ」という意見の方、おそらくいらっしゃると思います。しかし、この部分には不安要素が少なくとも二つ存在します。
 一つ、「『業者』でないものは免責する」という文が見当たらないのです。
 ルールが明確化されていない部分については、判定を下す側の胸先三寸に任せられる、という恐れがあります。そして、現在の社会情勢において、同人という文化はけして尊敬されたり好意的に見られたり優遇されたりするものではありません。比較的マシな認識で「何か変わったことする人達がいるみたいね」程度であり、一方でオタク嫌悪やオタクバッシングの風潮は未だ根強く残っています。この状況下での「胸先三寸」が、同人にとって好意的にはからわれるという期待は、私には持てません。
 二つ、現在の同人活動は100%素人の作り上げた文化とは言い難い状況になっています。
 「業者」は、同人活動のそこここに介在しています。印刷業者は言うに及ばず、一定規模以上の同人誌即売会の主催も「業者」の形態をとっているのです。例えば、代表的なイベント主催者であるコミックマーケット準備会は『有限会社』です。Cityの赤ブーブー通信社も企業ですね。今回リストバンドで物議を醸したイベント主催などは、『同人ショップ』の経営者です。大規模イベントでは歴とした「企業」が出品も行なっているわけですから、同人誌即売会は外部からは商業イベントのようにも見做され、実際に商業イベントとしての要素も兼ね備えてしまっています。もはや商業性を否定できない状態にあるのです。
 この状況で、各サークルが「『業者』ではない、『個人』だ」と主張できるでしょうか。
 私たちの認識においては、勿論「個人」です。しかし、部外者はそうは見ないのではないか、と危惧されます。
 各サークルが「販売業者の本を納品する個人事業主」と見做されるかもしれないのです。
 ここで更に大切なのは「判定を下すのは我々ではない」ということです。
 一つ事が起これば、同人の事情に無知な、同人に対して好意的でもない誰かの胸先三寸に任されてしまう恐れがあります。
 前記事の全体の流れにおいて、私は、同人作家・同人サークルが素人個人・素人団体であることに敢えて触れず、「業者」に課されたルールを強く意識するように促しました。何故、敢えて「素人」であることに触れなかったのか、上記の恐れが、私の中に、【前提】として存在するからです。
 理解したくない、納得いかない、かもしれません。けれども、このような視点があることは頭の片隅に置いていただけますでしょうか。

・ご意見に対して
 この項目の内容は、主にはいただいたご意見に対する返答です。
 失礼ながら、発言の前後関係を明確にする為に、URL記載、及び内容の転載をさせていただきます(不都合があればご連絡ください)。
 http://twitter.com/#!/honeyhoney13/status/134233135813627904
※以下転載
 「@ochagashidouzo 基本的におっしゃっていることはその通りだと思いますが、一点だけ。ご自分でおっしゃっているように「性描写が規定の割合を満たさないものは有害図書にはなりません」なので、「R18をつけたら即、有害図書認定される」ということではないです。そこだけご注意を。」
※転載終リ(@ochagashidouzoは私のアカウントです)

 私からの返答は次の通りです。
 先生は同人活動に内情についてご理解があり、温情もおありですから、そのように仰ってくださるのでしょう。
 しかし、有害図書認定を行うのは先生ではありません。
 私でもありません。同人活動の内情をよく知る当事者ではまず有り得ないでしょう。
 有害図書認定を行うのは、十中八九「同人に対する知識の不足した部外者」となると推測されます。その「部外者」の目に『R18』の文字が印刷された図書はどう映るでしょうか。
 シミュレーションしていただけますでしょうか。「どうしてR18ってつけたの?」という問いに対して「18歳未満には有害な図書だと思ったからです」以外に部外者を納得させられる返答があるのかどうか。
 実際には「みんなやっているから」「流行りだし」「自分だけやらないのもなんだか悪いし」という気持ちから付けられているのが大部分でしょう。しかし、「みんなやってる」「流行り」などという気分的な言葉が言い訳として通用するとは、残念ながら思えません。
 有害図書認定をする人が、今まで既に有害指定された図書に対して「あ、これは過剰だったね」と、指定を取り下げたことがかつてあったでしょうか(寡聞にして存じません)。「作者・頒布者が自分で有害だと思うのなら有害なんだろう」で通ってしまう危険の方が高いです。
 前記事では包括指定に主に言及しましたが、例に挙げた条例ですら、包括指定のみを行なっているわけではありません。次の文言が条文の中に含まれます。
※以下抜粋
(1) 著しく青少年の性的感情を刺激し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
(2) 著しく青少年に粗暴性又は残虐性を生じさせ、又はこれを助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
(3) 著しく青少年の犯罪又は自殺を誘発し、又はこれを助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
※抜粋終リ

 非常に曖昧な基準です。拡大解釈可能です。包括指定に準じた方が事務的に処理できるから作業側も楽な方に流れているきらいがあるのではないかな、と、思われるのですが、指定して良さそうなものが目の前に飛び込んでくれば指定することを躊躇いはしないのではないでしょうか。
 包括指定の割合に満たなくても「上記3項に該当するんだね。作者がそう思ったのなら間違いない」と認識されてしまったらおしまいです。更には、自治体によっては有害図書を個別指定している地域もあります。その場所で「R18と書いてますけど、有害ではありません」と主張してそれが通るでしょうか?
 また具合の悪いことに、『R18』という指定表示は商業表現媒体の倫理指定の流用です。同人独自の表現ではないのです。同人独自の表現であり規定ならば「これは同人誌におけるローカルルールです」と、まだしも言い抜けられる余地もあったかもしれません。しかし、既存の倫理指定を流用してしまっているからには、同人当事者でない部外者の思考においても既存の倫理指定が流用されてしまう恐れは非常に大きくなると思われます。
 より恐ろしい事態として、そこから「これで有害指定していいなら、商業表現媒体に対する締め付けももっと厳しくしていいだろう」と、同人の萎縮が蟻の一穴となって表現の自由の堤防を瓦解させてしまう危険さえも想定し得るのです。
 この点、切にご理解願いたいのですが、私はR18同人誌の存在そのものを否定したいわけではありません。排斥したいわけではありません。無闇に糾弾する者ではありません。同人という存在に情愛があるからこそ警句を発しているのです。
 まるで『R18』のマークが、性表現を含む同人誌の「安全を保証する」ものであるかのような認識、その誤解を解きたいのです。同人活動がより自由となり、商業表現媒体の妨げとならない為にも、危険な誤解と幻想から、皆に目覚めていただきたいと願うものです。

 釈迦に説法になってしまう無礼をお赦しください。
 松文館裁判について先生はよくご存知のはずです。あの裁判は無茶苦茶でした。法律も業界倫理も被告の真っ当な倫理に従った努力も踏みにじって、「潰すと決めたらどんな無理を言っても潰す」と、本来無実であった人を処罰してしまいました。
 私たちが対峙しているのは、そういう危険な存在です。私たちの言い分に耳を傾け理解に努めてくれる優しい隣人ではないのです。
 私は、私達に攻撃をしかけてくるかもしれない人達の思考をシミュレーションして発言しています。かなりひどい事態までシミュレーションしています。理解のある優しい人の視点では危険を見逃すかもしれないからです。ここまでの文章の中には「どうしてここまで攻撃的になるのか」と思われる部分もあるかもしれません。しかし、私は同人を攻撃したくて書いているのではありません。守りたいのです。
 多々、失礼な発言があったことと存じます。まことに申し訳ありません。ですが、私は先生に反発したいわけでも攻撃したいわけでもないのです。頼りにさせていただいているからこそ、ここにいる一人の、同人の片隅で生きている人間の抱える不安を知っていただきたいのです。

・自主R18は誰のせい?
 私の同人活動は、仕事の都合で何年かのブランクをはさみ断続的です。
 私が初めて同人誌即売会に足を踏み入れたのは高校の頃でした。やおい本、いっぱいありました。R18のついた本などほとんど見かけませんでした。手にしたのは現在の即売会では殆どがR18を付けているだろう本でした。しかし、現在の商業表現媒体でもR18は付かないだろう程度の本でした。
 学生の頃をそうした本の中で過ごし、就職して同人どころでは一時なくなり、10年くらい前にまた戻ってきた頃には、まだR18が会場を席巻しているというようなことはありませんでした。
 しばらくネット同人として引き篭って、久しぶりに会場に足をはこんだら、そこら中にR18の文字が踊っていました。いったい何があったのでしょう。
 私の知るあるイベントでは、パンフレットで「猥褻物を頒布しない為の修正の入れ方」を丁寧にレクチャーしていました。R18頒布物の適切な展示・頒布の仕方についてもレクチャーがありました。しかし、修正を必要とするもの以外について特に「これをR18と指定してください」という表現は見えませんでした。「R15指定をしたいんですけれど」という質問に対しては「あなたの判断で行なってください。イベント側としては新たに指定枠を作る予定はありません」との返答が載っていました。つまり、裁量は殆どサークル参加者に任されていました。
 私の見る限りでは、少なくともそのイベントにおいては、「不当」に「過剰」にR18が強要されているようではありませんでした(「これはR18にしなくていいよ」という逆指示もありませんでしたけれど)。
 一方で、(内容的には別に指定要らないんじゃないの、という緩い本だったんですが)フリートークの中で「R18デビューしちゃった♪」みたいなはしゃいだ空気があって、これは流行? ファッション的な? R18がおしゃれだとか格好良いと思ってペタペタ付けてるの? と、ちょっと目眩がしてしまいました。
 前記事で私は、18歳未満の方に「18歳未満差別と叫ぶのは控えてください」と書きました。しかし、正直な気持ち、今の同人の世界には「18歳未満差別」が存在すると思っています。差別しているのは、同人作家であり、同人サークルです。「若い人は面倒くさいから」? 「親からクレーム来たらいやだし」? 「R18って付けないと仲間はずれにされるから」?
 そんな情緒的な理由で「本来は18歳未満が読んでも差し支えのない内容」の本にまで、ペタペタとR18マークを付けているんですか?
 若い人は面倒くさいって気持ちは私にもあります。保護者からのクレームなんて見たくもありません。仲間はずれにはなりたくありません。
 でも私は、アイタタだった高校生の頃、サークルの机の向こうにいらした先輩方の寛容と忍耐に受け止めていただいて、それとなくマナーも教えていただいて、少しはイタいのもマシになって、その時代の同人の世界に育てていただいたんです。
 自分ばかり恩恵を受けて、自分が若い人を受け止めなければならない側になったら「面倒だから」って拒否するって、ひどいじゃないですか。怠惰が過ぎるじゃないですか。
 過剰なまでのR18の濫発、無用なR18濫発は、一に同人そのものにとって危険であり、二に若い人達に対して不誠実だと感じます。
 18歳未満の方は、同人作家やサークルに対しては、「自分達が読んで差し支えない内容のものにまでR18マークを付けないで欲しい」と要求する権利があると思います(もう印刷済みのものについては、ルールの都合上、お渡しするわけにはいかないのですが)。
 頒布する側の「できれば何歳くらいから上に読んで欲しい」という気持ちも分からないではありません。でも、それは、危険な『R18』マークを付けるという形ではなく、「何歳以上推奨」という表示に置き換えるとか、できれば、何故推奨年齢を定めるか説明を提示するなど、18歳未満の人にも交渉の機会を与えていただけませんでしょうか。
 私のように18歳未満から同人を始めた人なら、年上の人から色々と指導していただき、面倒をみていただいた経験があると思います。どうか、そうした交流を自分たちの代で断絶させないでください。
 私は、私自身が描く人間で、書く人間でもあります。もう少し同人界が平和だった頃にはやおいを描いたこともあるんです。現在のような状況になってからは、自分の本にどうしてもR18って付けたくなくて(R18な内容ではないという確信もありましたし)でも現場の同調圧力が怖くて、やおいそのものを描くことも書くこともできなくなっていました。
 今後は、描いたり書く機会がありましたら「12歳以上推奨」や「15歳以上推奨」などという形で出していきたいと考えています。自らの怠惰な気持ちを戒めたいと思います。

※実際にR18が必要な創作物もあります。それについては前記事にて触れております。参照ください。

・蛇足的に…
 件の、一律年齢確認で物議をかもしたイベント主催について、どうも本業の同人ショップ業務の方でも芳しくない評判を聞きました。どちらかというと私は、この「業務がまともにできていない」状態の方に嫌な印象を受けます。
 業務がまともにできていない、ということは、スタッフの質が落ちているのではないかと推測できます。
 質の低いスタッフの運営するイベントというのは、年齢確認がどうのこうのを置いても、何か不始末が起こりそうで心配になります。
 地方では参加できるイベントの種別が少ないとも聞き及びますが、イベント参加は義務ではありません。イベントに行けないというデメリットよりも、危険を回避する、ということの重要性の方が或いは上回るかもしれません。

 最近はコミケも不定期にドサ回り的ミニイベントを開催したりしています。
 頑張ればコミケ以外も招致できるかもしれません(資金やスケジュールの問題や色々ありますが)。
 どうか、特定イベントに執着して気落ちしたり危険な目に遭ったりしないように、より良い同人ライフを送ってください。