.第5話:『GROWIN'UP』 

「オーディションの曲なんだけどさ、一曲は今までのレパートリーから一曲、もう一曲は新曲で行こうかと思うんだけどさ、絵里ちゃんがこないだ書いてた詞があったろ?あれに曲つけてバラードにしたいと思ってるんだけど、どうかな?」 
 オーディションへの参加が決まり、まずは一次のテープ審査に向けての選曲会議で、リーダーがそう言った。  
「あれだろ?三角関係のやつ。親友との友情を失うくらいなら自分は一生片想いでいい、って奴。あれなら俺、曲つけたいって思ってたんだよね」
 浅倉さんがその話に即座にのって、あたしの詞・浅倉さんの作曲&編曲で新曲を作ることになったものの、あたしは正直言って少し戸惑っていた。バンドのこれからがかかってるオーディションに、あたしの書いた詞を使っていいのか、ということと、楓が何と言うか、ということで。

 この詞を書いたのには、一つのエピソードがある。
 あたし・梢・楓・瞳子さん・美和子・麻衣は入学以来いつも6人でつるんでいた。だけど、それが壊れてしまいそうな事態が、この夏・起こってしまった。
 梢は、一年の時から同じクラスの富田夏樹とつきあっていた。彼と楓が同じ吹奏楽部で、楓が富田の情報を梢に流したりして二人の橋渡しをしたようなもんで、そのおかげで二人はつきあいはじめたわけだけど、そうしてるうちに楓も夏樹のことを好きになってしまったらしい。
 
 それでも、楓は沈黙を守り通した。決して自分の恋心を明かすことなく、友情の法を選ぼうとしていた。
 一度だけ、楓が自分の心を打ち明けたことがある。
 その日、楓・梢・夏樹の三人が放課後お茶してるとき、たまたま同じ店であたしはメンバーのみんなとミーティングをしていて、これから別行動するとかで、梢たちが先に店を出たとき、その後ろ姿を見送る楓の思いつめたような、一途に夏樹のほうへ向けられていた視線が気になって、数日後・楓と二人っきりになった時、こっそりと聞いてみた。
「・・・ひょっとして、富田のことが好きなの?」
 一瞬の沈黙。
「ばれてないと思ったんだけどなぁ・・・絵里にはばれてるんだね・・・」楓は苦笑いしつつも、素直にうなずいた。 
「だけどあたしは言うつもりはないの。もちろん梢ちゃんに負けないくらい夏樹君のこと好きだけど、梢ちゃんを苦しめることになるから今は言わない。だからお願い、みんなには黙ってて」   
「・・・あたしはもちろんそのつもりだけど、楓はそれでいいの?
梢は夏樹にべた惚れだし、夏樹もまんざらじゃないって感じだし。
このままじゃ楓の想いは報われないんだよ?辛い思いしてまであの二人といてもしょうがないじゃない。このまま言わないでおくつもり?」
 正直な話、あたしには楓の言葉が理解できなかった。女の子は、友情よりも恋を選ぶ生きものだと思っていたから。そんなあたしの思いに気がついたのか、楓はかすかに微笑んで、静かに語りはじめた。
「・・・夏樹くんと同じ位、梢ちゃんやみんなのことが大切なの、失いたくないの。
・・・あたしね、何でか女の子に嫌われるみたいで、中学の時に友達が一人もいなかったの。ほんの些細なことである女の子のグループに誤解されちゃって・・・誰も助けてくれなかった。友達だと思ってた子も手のひら返したように離れていっちゃったの。だから高校はみんなと一緒の高校に行きたくなくて、城山を選んだ。
やり直したかったの。誰もあたしのことを知ってる人がいないところで。だから、あの時梢ちゃんがあたしのことを誘ってくれてうれしかった。みんなの仲間に入れてうれしかったの・・・。だから失いたくない。
ありえない話だけど、もしもあたしの思いが夏樹くんに通じたとしても、どっちがいいかなんてあたしは選べない。それで梢ちゃんが泣く結果になるならあたしは自分から夏樹くんに言うことはないと思う。いい子ぶってる、ずるいって思われてもいい。でもこれがあたしの本当の気持ちなの。」

 その後、楓の言葉が忘れられなくて、あたしはこの詞を書いた。

 「♪好きになりたくなかった 泣くのはあたしだけでいい
   失いたくない その笑顔曇らせたくない
   恋よりも友情を守る 心からそう誓えるよ
   気持ち心に閉じ込めよう 恋心(おもい)は笑顔で隠してしまおう
   この心地よい空気の中で ずっと笑い合っていたかった
   ごめんね嘘をつきつづけるよ あたしにはそれが真実だから♪」
   

 だけど、梢と夏樹の仲は意外な方向に向かっていった。
 彼らの間に何があったのか知らないけれど、梢は自分から身を引いて、楓と夏樹をくっつけるという行動に出た。だけど、その後の梢を見ていて、決して夏樹を嫌いになってそうしたわけじゃないのがわかった。
「ばかよ、梢は・・・」そう言って、あの冷静な瞳子さんが泣いていた。
 楓もいたたまれなくなったのか、すこしずつあたしたちから離れていって、今じゃ同じ吹奏楽部の子と一緒に行動している。梢と楓、二人のことを思ったら、文句を言うことも、戻ってこいと説得することもできずに、そうしているうちに夏休みに突入した。
                    (「GROWIN'UP」イ紡海)

2002年06月23日(日)


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