このごろ電車の中は、ネタの宝庫だ。
今日は、外の景色を見ていると、枯葉の落ちる雑木林風の場所で、父と息子が 枯れ木を手にし、ちゃんばらごっこをしていた。 それはそれは真剣な表情で。 健全な遊びだ。
もう、いくつかの批評を目にしてしまっているので、うまく書き残せるか わからないけど、どうしても書いておこうと思う。
よしもとばなな原作。 塚本晋也演出。 『哀しい予感』
わたしは猛烈なばなな好きなので、あれがどう視覚的に再現されるか、に ついてはちょっとの不安があった。 自分自身を思い出してみると、映像にして読んだことはなかったから。 Keyになる言葉(台詞?)があって、それを中心にイメージして読んでいた 気がする。 登場人物の顔かたちや身体の大きさ、声のトーンとかはまったく思い出せない。 もっと、身体の奥の方にある、その人の『核』とか『芯』として捉えていたんだ と思う。
とにかく好きだったのは、やっぱり加瀬亮。 好きだ好きだとは思っていたけれど、これほどとは、と思うほど。
映画で見る彼は、良くも悪くも映画のパッケージのひとつで、全体を為すために 光る“部分”だったのだと思う。 だけど、生だと、削ぎ落としきれない彼の素晴らしいオーラが漂ってしまって いて、「加瀬亮が演じる“哲夫”」がものすごい光を放ってしまっていた。 それはそれはもう押さえ込めないほどに。
後半、弥生に打ち明けるシーンでは、わたしが“芯”としてイメージしていた 哲夫が、そこに形を為しているようで、涙が止まらなかった。 愛しい人が突然目の前に現れて、血と肉が通った言葉たちを思う存分伝えられた ような気がした。
もうぼろぼろぼろと泣きに泣いた。 涙が熱いー、と思いながら泣いた。
そして、もうひとり大好きだったのは、“正彦”。
どうして“ゆきの”が好きなのかという存在理由を体現してしまっていた。 言葉にしなくても、彼の奥のほうにしっかりと存在しているので、それが 見えてしまって仕方ないのだ。 ゆきののエピソードを話すその度に、かつてゆきのを想ってちゃんと心が動いた 様子を滲ませることができるお芝居。 これぞ、ばなな!と思う。
その、正彦を見送った弥生と哲雄の手を振った姿が、「もう恋になっていますよ」 というふたりの関係性を表していて、これもまたばなな!と思った。
あとは、音響。 素晴らしかったなー。 あの物語には、ああいう音が響いていたんだ、と確信するような音の数々だった。
前に『Strawberry Short Cakes』を見た時に、あの物語をネタとしてお洒落な 感じとか、不全感がある感じとか、そういうものだけに惹かれて作ったんだなー と思ってがっかりしたことがあった。 本当に省いちゃいけない!っていう台詞がごろごろ抜け落ちていたから。
だけど、今回は、そういう台詞のひとつたりとも抜け落ちていなくて、あの 物語を為すのに忘れてはならないエッセンスが全て詰め込まれていた。 本当に、本当に好きなんだろうなー、わたしたち(FAN)と同じ目線で、 と思った。
行ってよかったー。
あまりに影響されて、お芝居が素敵だと思い過ぎて、会場の外で配っていた 劇団員募集に応募しようと思ってしまったほど。 単純。
そこから大急ぎで移動。
もう投げやり状態で見つめていた。 色んなことは、全然どうでもいいことに思えた。 わたしだけがナカマハズレにされて、勝手に進んでいくような気がした。
だけど、ふたりが出てきた時に、その空気がちょっと変わった。
何しろ、あの子のやりたいことが、それは痛いほどに、苦しいほどに伝わって きて、その全力な姿を見守らないわけに行かなかった。 何かを叶えようとして、そのことしか心にない人を見ているのは、気持ちがいい。 そういう人が、好き。
だから、不思議とあの人がぐーんと遠い人に思えた。 こんなに遠いと思うなんて、自分でも予想していなかった。
もうそれは勝負をつける前から決まっていたことで。 もはや当然の出来事。 決まっていたんだ。 哀しいとか悔しいとかそういう以前の話。 それをひっくり返すことができなかったあの人は、やっぱり負けていたのだと 思う。
結局、目が合って、笑い合って、手に触れただけで終わってしまったけれど、 その一瞬にわたしの言いたいことと、あの子の言いたいことがすべて詰まって いた気がする。 わたしの言いたいことはひとつだけ。 あの子もそうだったと思う。
意外と本人同士は、気持ちがいいものなのかもしれないけれど、わたしには たまったもんじゃない。 しばらく、というか金輪際遠慮したい。 苦しすぎて。
色んなことは何もなかったかのように、あの人と会う。 向こうも何もなかったように近づいてくる。 ひと言言ったその言葉は、きっとわたしにしか言わないことだったと思う。 そのトーンも。 わたしの中にあった、“やり過ごせない何か”も、うっかり融けてしまいそう になる。
夜中にやってきたメールは、そういうわたしの色んな事情を飲み込んだかのように シンプルだった…。
♪BGM/Saigenji AL.『la puerta』
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