「もう、君の視野の狭さにコリゴリなんだよ! 一緒に居るとか、家を建てたいとか、将来ノーベル賞を取ってとか、子供が欲しいとか、そういうのがウンザリなんだ!!」
久しぶりに私の方を見てくれた、クリクリとした二重の瞳には深い怒りが燃え盛っていた。瞋恚(しんい)、と仏教で言うのを白髪の生え始めた彼から聞いたのだった。
彼はちょっと初めから可笑しかったことは可笑しかったけれど、こんなに目が爛々(らんらん)と輝くほどではなかった。
一緒に遊園地に行って笑いあったじゃない。夏の蒸し暑い海岸であなたの腕の中に包み込まれたじゃない。隠れた美味しいラーメン屋を2人で行ったじゃない。「大好きだよ。愛しているよ」と照れながらも言ってくれたじゃない。両方のご両親にも挨拶したじゃない。そりゃ〜「結婚します」とは宣言していないけれど。
そんなのずるいわ。
ずるいわ、ずるいわ、ずるいわ、ずるいわ。
もう、2年も付き合ったのよ。それにあなたのことはとっても大好きだわ。
だってこれまでの男って体目当てだけだったのに、下手糞で、屁も糞も臭かったわ。
自己の健康管理も出来ないみっともない男たちだったの、独りで生きられない男たちだったの、この世に存在する価値もないゴミのような存在だったの。
あなたは違ったわ。
あなたは全然違ったわ。あなたは全然格好良かったわ。あなたは全く完璧に見えたわ。あなたはどんなにも私自身を教えてくれたわ。
もう、2年も付き合ったのよ。女の年齢はただの年齢じゃないわ。タイムリミットなのよ。
だからあなたのその瞋恚な瞳は真っ平ごめんだわ。そんなあなたは一生見たくも無かったわ。
そうね、でも、その目を見たらもう良いのね。
分ったわ、もういいのよね、あなたは私に飽き飽きなのね。
わかったわ。
あなたとは逢えなくなるけれど、一生私のもので居る場所に入れてあげるね。
徹底的に批判して馬鹿にしていた近代西欧合理主義の権化のような砦にね。
ちゃんと病院、っていう名前が付いているから大丈夫よ安心して、体裁は国民国家が補償してくれるわ。
お見舞いと称してちゃんと私が秘密に手に入れたお薬を飲ませてあげるからね、対応はばっちりになるんだし。
場所は病院で不祥事は大嫌いな数少ない国民国家、日本だし、あなたは普段から社会不適合のような引きこもりのような生活をしているんだもの。
何なら私の全く知らない人たちにお金で証言してもらってもいいわ。
警察は誤認逮捕だけでニュースに流れて批判されるんだもん、人々はちかんなんて刑が確定していないのに社会生活の全てを失うんだもん。
ばっちりよね、正しい事なんて追求しない、富で堕落して倫理観も失って、老後を子供ではなく国家に頼っているそんな様悪(さもし)い大衆の集まりなんだもの。
これでやっとあなたの、そのクリクリとした二重の瞳から、燃えるような怒りが消え去るわ。
やっとあなたは私だけのものになってくれるのね。
あなたは私の生きる道を教えてくれた人、でもちょっとだけ寄り道をしてから、またあなたの教えてくれた素晴らしい道に戻るわ。
その時にはもう、あなたは野に咲く花になっているんでしょうけれど。
絶対あなたとは離れたくないんだもの。
他の女に渡すなんてまっぴらごめんよ。
あの目も眩(くら)み続けて天国に行ったような絶頂感はあなたと私だけのものにしておきたいの。
大好きよ。
大好きよ。大好きよ。大好きよ。大好きよ。
あなただけが大好きなの。大好きなの。大好きなの。
あなたに出逢えて本当に私、良かったわ。有り難う。神様仏様ほんとうに有り難う御座います。