| 2004年04月15日(木) |
ガルシア・マルケス『百年の孤独』 |
「長い歳月が流れ銃殺隊の前に立つはめになったとき、おそらくアウレリャノ・ブエンディア大差は、父親のお供をして初めて氷というものを見た、あの遠い日の午後を思い出したにちがいない。」 表紙をめくり、ブエンディア一族の家系図が示されて、上記のように百年の長い物語は始まります。 誰の視点で時間軸のどの座標に立っているかもわからない表現。 冒頭でぐっと掴んで一気に引き込む、というような文章ではないです。
なんだかよくわからないけど、とりあえず読み始めてみようかなあ、と、手探りしながら読みすすめました。 途中で読むのをやめるとしても、とりあえず、読み始めておくのが、本を薦めてくれたカトリーナに対する誠意だよね。ぐらいの気持ちで。
だから、本当に不思議です。この不可解な物語にいつの間にかひきこまれてどんどんと読みすすめていったことが。 要するにブエンデイア一族の百年の物語なんです。それが、ごく平坦に、淡々と編年的に述べられていく、ただそれだけなのですが、不思議に読んでいて苦痛じゃないんです。 むしろ、単純に面白い。 こういうの、作品の力というのかなあ。
文学的な優劣が奇抜な設定や、登場人物の魅力によって決まるのではないんだなあ、と実感。
この長大な作品を私はどのように評していいのか言葉を持たなかったのですが、カトリーナがヒントを教えてくれました。
この物語の鍵は「歴史は繰り返す」というところにある、と。 そう言われてみると、思い当たる節が。ブエンディア家の二つの名、アウレリャノとアルカディオ、それぞれの名を持つものにそれぞれに現れる特徴がある。 また、ところどころでちらりと、つぶやかれるフレーズに垣間見ることもあります。
「曾祖母の声に気づいた彼はドアのほうを振り向き、笑顔を作りながら、無意識のうちに昔のウルスラの言葉をくり返した。 「仕方がないさ。時がたったんだもの」 つぶやくようなその声を聞いて、ウルスラは言った。「それもそうだけど。でも、そんなにたっちゃいないよ」 答えながら彼女は、死刑囚の独房にいたアウレリャノ・ブエンディア大佐と同じ返事をしていることに気づいた。たった今口にしたとおり、時は少しも流れず、ただ堂々めぐりをしているだけであることをあらためて知り、身震いした。」
作者、ガルシア・マルケスの文体はとっても簡素で、ありのままをありのままに書き記していくスタイルなんですが、あくまで歴史を記すという体裁でありながら、突然現実にはあり得ない出来事がさしはさまれたりして、現実と非現実が混在しています。 この文体は「マジカリアリズム」と呼ばれているんですって。
カトリーナと本にまつわる話をしていて、いろいろ教えてもらったりして、こういうつっこんだ趣味の話しができる友だちっていいなあ、と思いました。 私のつたない英語では伝えられることはほんのわずかなことなんですが、それでも、すごくわかりあえている感じがします。
言葉は通じるんだけど、気持ちの通じない人のいかに多いことか。
|