宿題

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2005年02月17日(木) 破壊と創造のサンバ 4/筒井康隆×町田康×中原昌也
筒井 「破壊」ということを考え始めたのは、つい最近のことで、それまでは「冒険」をやってるつもりだったんです。とにかく今までにないものを書くという意味でね。けれども、本当に意識して、小説を壊さなきゃ駄目じゃないかと思い始めたのはつい最近のことで、そういえば、大森望さんが雑誌の座談会で言ってたけど、今、SF界で僕に影響を受けた若い連中がやたらと冒険しているんだって。だけども、SF仲間のお遊びになってしまう。だから、やっぱり越境しなきゃ駄目っていうことですよ。SFから普通の文芸にいくことが越境を言えるかどうかわからないし、僕のことをSFをダメにした戦争犯罪人のひとりだと言う人もいるけど、少なくとも御二人は音楽から文学に越境している。むしろ音楽であれだけのことをやってるんだから、小説で何をやってもいいんだよ。
 
中原 そうですよ、文学は何をやってもいいんですよ!筒井さんの小説で、兵隊が一から十まで数えて十行稼ぐというのにすごく影響されまして、どうやったら文字数を稼げるかってことを常に考えていますね。

筒井 中原さんのこういう不真面目さって、真面目の裏返しなんだよ。僕は昔、真面目にふざける、なんてことを言ってたんだけれども、中原さんの場合どうなるんだ?ふざけることが真面目なのか、ふざけないのが不真面目なのかな。

町田 中原さんの場合は、真面目なことを言うのは相手に悪いと思っているから。

中原 なははは。

筒井 ああ、それはあるな。不真面目といえば、「介護入門」でこの前の芥川賞をとったモブ・ノリオって人は昔、僕のファンクラブの最年少会員で、受賞記者会見ではマイクに突っ込んだらしいけど、パフォーマンスは小説でやったほうがいいよ。

中原 なるほど。

筒井 介護していたお婆さんをめちゃくちゃにしちゃうとか。

中原 でも筒井さんは実は、そういう小説を既にお書きになっていると思いますよ。

町田 僕も何か思いついて、「ああ、これは筒井さんがやってたか」ということがよくあります。

筒井 それは僕だってありますよ。いくらいいアイデアだと思っても、必ず誰かやっている人がいる。それは、必ずいるんだ。H.G.ウェルズが『タイムマシン』を書いて、その次に最初にタイムマシン物を書いた人というのは相当な勇気がいったと思うよ。盗作だもんね。でも、その後いろいろな人が同じアイデアで書いたから「タイムマシン物」というジャンルができたわけで、盗作とそうでないものなんて紙一重なんだから、気にしなくていいんですよ。

町田 枠組みを壊す苦しさというのがあると思うんですよね。たとえばプロレスでも演芸でも、見るほうが枠組みがあると思って安心して見ているから、クレージーなことをやっても、笑ってもらえる。でも、その枠組みを破壊して物を作ると、キチガイ扱いされる。あんまり破壊しすぎると、何か空中に立っているみたいな苦しさがありますね。

中原 自由奔放にやるっていうのは大変だなぁ。やっぱり決められた安全地帯でやってるのが一番いいってことなんですかね。

筒井 こらっ!

町田 うわっ。

筒井 やっぱり、最終的な破壊というのは自分自身を破壊することだと思うんだよね。たとえば、中上健次がそうだったんじゃないかと僕は思うんだよ。『破壊せよ、とアイラーは言った』って彼の本があったけど、彼は実生活も破壊的だったけれど、小説のテーマも、文壇的に受け入れられるギリギリのところまで行った。劇画の原作まで書いて。これ以上は駄目なのかというんで、彼はよっぽどイライラしたんじゃないか。で、ついに自分を破壊しちゃった。彼のすごいところっていうのは、それじゃないかと思う。僕は御二人ともそういうところがあると思うんです。

町田 確かに、そういう感じはありますね。人生が徐々に破壊されていっているのかもしれません。

中原 僕は自分が書いたものより、現実のほうが破綻してますけどね。なはは。

町田 そういえば、鼎談をはじめる前にうかがいましたが、住む場所なくなって出版社を泊まり歩いたり、わざわざ信濃町(編集部注/創価学会の本部がある街)に引っ越したりしたのも、ネタにしようと思ってわざとやってるんですか?

中原 違いますよ!毎日が悲惨なだけですよ。昨日も寝てたら、子供の頃に死んだ飼い犬が夢に出てきて、起きたらサメザメと泣いてたんですから。年金を払う金もないし。あ、信濃町に越してから、すこしアイデアが浮かびましたけど。

筒井 どんなの?

中原 「踊る池×大作戦」(編集部注/映画『踊る大捜査線』にかけている)という、野蛮な第三文明をナパーム弾で焼き払う話なんですけど、編集部にそれは問題があるから他の作品にしてくれって言われて、じゃあ、「踊る池×小作戦」というのはどうでしょうか、と。第三文明を殲滅する妄想にかられた男が池×小学校にいって、最後は子供たちと仲良くする話ですって言ったら、もっとひどいから、絶対にやめてくれって。だから信濃町は越すことにしました。

町田 それは書く前に編集者に話すから駄目なんですよ。

中原 ペンネームも考えましたよ。オール大西巨人とか、オヨヨ健三郎とか。

町田 どんどんやったほうがいいですよ。

筒井 小林信彦が怒るよ〜。

町田 僕は最近、「公三と主税(ちから)」というタイトルを思いつきました。

中原 なはははは。

筒井 わはははは。バカなことを書くのはマトモなことをマトモに書く以上に体力がいる。すごい力技なんだよ。


★破壊と創造のサンバ 4◇新潮10月号/筒井康隆×町田康×中原昌也★

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