ここだけの話、私は「ラヴェルこそオーケストラの醍醐味である」と思い続けてきたのであった。
ラヴェルこそ最高。中でも『ボレロ』は格別な曲であった。
この曲には、どう考えても不思議な魔法が閉じ込められているとしか思えないのである。
あのひたすら繰り返される旋律の中心には、ゆったりと旋回する渦があって、
私が感じるところ、その渦は、螺旋状のゆるやかな階段なのである。
そして、曲が進むにつれ、私たち奏者は、自然とその階段をのぼり始めてしまうのだが、
本当にいい演奏ができたときだけ、階段が万華鏡のような輝きを放つのであった。
◇
そもそも『ボレロ』なる曲は、魔法めいた「上昇の力」に支えられていて、
曲の中心で渦を巻く「ゆるやかな階段」が、曲の進行とともに、ひとり、
ふたりと奏者を巻き込み、その階段の果てにあるものを「見てみたい」と
思う気持ちに拍車をかけていく仕組みなのである。
ところが、しだいに大きな音で奏でられる旋律とは裏腹に、階段を歩む奏者の歩みは、
どこか軽やかであり、そのせいなのか、あと一歩というところで「階段」は夢に消え、
奏者たち皆、たちどころに元の地平に還されてしまうのであった。
★Bolero 奏者�供〕輯�せぬ出来事/吉田音★
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