宿題

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2003年12月26日(金) ニンゲン御破産/松尾スズキ
南北「あんた、聞けば、侍分を捨てたって話をしたな。

何かよほどのことがございましたな。あんた自身の話のほうが、おもしろそうだ。

この一両分の時間の中で、あんたというニンゲンの話を、

お金の匂いのする狂言にしたててくれよ」

◇

ムツ「三ですよ!おもしろは!七は怒ってんです」

◇

実ノ介「芝居という芝居が、実は、芝居という芝居のふりをした芝居であれば

いい芝居だなと思ってたんですが」

◇

実ノ介「ほんと、誰かに、いつか否定してほしいんだけどね、(しみじみ)命ってさ、

言いたくないけど、重い軽いがあるからね。(刀をチンとさやに収める)

俺は否定できないよ。ただの、くだらない侍だから。

ただあんまし痛くならないように、ヤットウだけは、ちゃんと稽古したからな。勘弁よ」

◇

南北「嘘か真か、命をはったガセ小判が二両。あんたの命の一かけ二かけと思って、

懐に抱きましょうか。ただし、これがガセだとわかれば、あたしも地獄行きだ。

それを覚悟に聞くだからして。こっから先のあんたの嘘に、これっぱかしも嘘が混じってたら、

いいかい、あんたも地獄に道連れだよ」

世阿弥「いいこと言いますね」

南北「…え?ごめん、今のそれ、批評?」

世阿弥「い、いやいや、……他意はないです。素直な、ほんと…ええ」

◇

実ノ介「掘れ、掘れ。もっと深く掘ってくれ。この穴は俺の夢だ。

家も国も捨てた俺の夢が、そんなに浅いわけがない。

なあ、なんか見えるか。見えたら教えてくれよ。

しかし、江戸ってところは、俺と相性がいい。

国じゃ基地外扱いされた俺が、こうして、なんとか生きてる。

だから、この町で、俺は書きてえんだ。書きたくてしょうがないんだけどよ、

じゃ、何が書きてえのかっていうと、おもしれえことに、書きたいことが何もねえんだ。

おもしれえこと思いついてもよ、世のなかのの方が、先におもしろくなっちまうんだ。

でもよ、空っぽのはずはねえじゃねえか。掘れ。掘れ深く掘れ。

なんかあるだろう!おーーーーーい!」

◇

灰次「…わからんが、とにかく、ふつうにしてろ」

お吉「(引き留める)ふつうって、何さ?」

灰次「お吉っぽくしてろ。おまえの持ってるお吉さしらを、あますところなく、醸し出してろ」

灰次、走り去る。

お吉「そんなの無理だよ!あんたがいうお吉って、どんなお吉さ?

そんなの、生まれてこの方、自分で決めさせてもらったことないもん!

わかんないよ、勝手なやつばっかだ。……ああ、嫌だ。もう、嫌だ」

◇

南北「盛り上がって、よかったじゃない!これ以上、何が必要だ!」

間。

実ノ介「ほめてほしい!」

南北・世阿弥「はあ?」

実ノ介「天下の鶴屋南北、河竹世阿弥にほめてほしい!

日本を変えるような大芝居を打ったのに、なんの評価もいただいてないんです!」

南北・世阿弥「すごかったね」

南北「さあ、口ずけをしよう」

実ノ介「たりねえ!たりねえ!」

世阿弥「お上に背を向けるわ、ほめられたいわ!どっちかにしろ!

この、ほめられ乞食!」

南北「なあ、俺たちに、さわろうとしてごらん」

実ノ介、南北たちにさわろうとするが、どうしてもさわれない。

世阿弥「さわれないでしょ、あんたはまだ、あたしたちと同じ板の上にいないからよ」

実ノ介「同じ板?」

世阿弥「ほめてほしくば、こっちゃきやれ」


★ニンゲン御破産/松尾スズキ★



■
南北◇松尾スズキ
世阿弥◇宮藤官九郎
実ノ介◇中村官九郎
ムツ◇片桐はいり
灰次◇阿部サダヲ
お吉◇田畑智子

マリ |MAIL






















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