○プラシーヴォ○
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ハム男の家のお風呂を洗い、 お湯をためて肩までつかる。 最近めっきり涼しくなってきたので、 暖かいお湯がとても気持ちいい。
ホカホカの体で、ベッドの上のハム男にしがみつく。 くるり、と ハム男が私の上に乗る。
え?と思う間に 挿入された
濡れてもないのに
以前にも一度こういうことがあって それがとても屈辱だった。 なのに、また。
パジャマの下だけ脱がされて まるでレイプのように
くやしくて 情けなくて 腹がたって 悲しくて
涙がでてくるのは当たり前だった
「…どうして泣いてるの?」 腰を揺らしながらハム男が驚いた声を出す
行為が終わっても涙がとまらなかった
ハム男が私の手をひき、風呂場へと連れていく 桶ですくったお湯で、私の体をそっと流す。 そして私を浴槽へ入れてから 自分の体をゴシゴシと洗い始めた。
まだ涙がとまらない私に、ハム男が言った。 「誰にも言ってないんだけど、 俺、1人で店に入って食事ができないんだ」
なんの事だと、ハム男の顔を見る。
18歳で九州からでてきて、大阪で働き始めたハム男。 バブル絶頂時代で、半端じゃない忙しさ。 初めての1人暮らし。 たまるストレス。
ある日、牛丼屋に1人で入った。 さあ、食べようと思った瞬間、
「店員や、お客さんが俺のことを見ている気がしたんだ」 実際はそんなことは無い。 だけどハム男は、店にいる人全員が 自分のことを笑ったり、バカにしていると思い始めてしまった。
「お箸が横に飛んでいってしまうぐらい 手が大きく震え出したんだ」
そして、一口も食べずに店を飛び出したのだという。
「それ以来10年間、一度も1人で店に入って食事をしてない 誰かといても、緊張する だけど、がちゃ子と食べると、ちっとも気にならない すごくおいしく御飯が食べれるよ」
体を洗い終えたハム男が、 窮屈そうに、私と向かい合わせで浴槽に体を沈めた。 いつのまにか私の涙はとまっていた。
自分の弱い部分を私に告白して、 それはハム男なりの謝罪なのだろうか。
そう思っていると、
「がちゃ子、どこにもいかないで」 と私の手を握って、自分の頬に押し当てている。
28歳の成人男性にしては そのしぐさは余りにも弱々しくて、 私はまたひとつ、ハム男の罪を無条件で許してしまった。
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