○プラシーヴォ○
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朝、目を覚ますとシンガポールから母が帰ってきていた。
「はい、これハム男くんにおみやげ。今日会うの?」 「・・・ううん。会わない」
−もう2度と渡せないかもしれないよ− 心の中で母に言う。
電車に乗って、1番好きな街に散歩に行った。 日傘を通して紫外線が私を焼く。じりじりじり。 頭がボウッとする。
落ち込んでる時って、楽。 しゃべりたくないのも、やる気がないのも 落ち込んでるせい。
生きてるだけでせいいっぱいだと言い訳ができる。 海の底辺でどろんと寝転がってればいいんだもん。
元気で、恋愛もうまくいってる時が大変。 充実していると、さらに上のことを考えなくてはいけないから。 波間を、太陽をあびながら泳いでいかなくてはいけないから。 物事が見えすぎて、鮮やかすぎて辛い。
夕方、家に帰ると母が玄関に飛び出してきた。 父方の祖母が危篤で、今から横浜へ行くという。
夜、ひとりぼっちで寝る。 クーラーの音が怖い。 鳥の鳴き声が怖い。 冷蔵庫のモーター音が怖い。 怖い怖い。
ハム男の声が聞きたい。
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