| 2006年12月04日(月) |
ヤマアラシ・ジレンマと心のメンテナンス |
「 優れた人が優れているのは、失敗を通して
叡智にたどり着いたからである 」
ウイリアム・サローヤン ( アメリカの作家 )
Good people are good because they've come to wisdom through failure.
William Saroyan
毎年のように風邪はひくけれど、熱が出て寝込むことは滅多にない。
仮に寝込んでも、土日に悪化させて、月曜に回復する習慣ができている。
そんなわけで、この土日曜は、鼻水ズーズー、咳コンコンと、完璧に風邪の症状を示しながら、ほとんどの時間を布団の中で過ごした。
風邪をひいてしまう原因は、まず、仕事で人ごみに行った際に、既に風邪をひいている人から 「 感染する 」 ことが考えられる。
次には、このところ寒い日が続いたのに、暖房器具を一切使わず、冷えてきたら日本酒の熱燗で誤魔化していたのが、体に悪かったかもしれない。
セコイ話のようだが、エアコンで暖をとると電気代が高いし、石油ヒーターを引っ張り出してくるのは、それはそれで面倒臭い。
結局、風邪がひどくなってから、よっこらせと石油ヒーターを出すことになり、こんなことなら元気なうちにやっとけばよかったと、反省しきりである。
クローゼットの奥にしまいこんだ石油ヒーターを出すとき、ふと、頭の隅に 「 最後に使ったのは、いつだっけ? 」 という疑問がよぎった。
コンセントを挿し、スイッチを入れるが、まったく暖かくならない。
昨シーズン、収納する直前に灯油を使い果たし、すっかりと 「 ガス欠 」 になっているのを忘れていたので、仕方なく、車で灯油を買いに走る。
古い灯油が残っていると、不完全燃焼を起こしやすいので、毎年、最後は使い果たすようにしていたのだが、それをコロッと忘れていた。
便利な道具でも、燃料を入れ忘れていたり、機械の整備が悪くて動かないようでは、いざ、肝心なときに役に立たないのである。
最近、親が子供を虐待したり、実の子が親を殺したり、好きで恋愛結婚したはずなのに、妻が夫からひどい暴力を受けるなどの事件が多い。
こういった親しい関係、特に恋愛中の男女の関係において、お互いが相手を傷つけ合う心理状態の一つに、「 ヤマアラシ・ジレンマ 」 がある。
ヤマアラシ・ジレンマとはショーペンハウアーの寓話で、ある寒い冬の朝に、二匹のヤマアラシが、お互いを暖めようとして身を寄せ合う話だ。
ところが、ご存知のようにヤマアラシという動物は、それぞれが体表に鋭いトゲを持っているため、近づきすぎるとお互いを傷つけ合ってしまう。
やがて二匹は、ある程度お互いを傷つけ、ある程度お互いを暖め合う適当な距離を発見したというのが、この話の結末である。
ヤマアラシ・ジレンマのように、ある程度の傷つき、怒り、憎しみが、たえず交錯するのが、人と人の関わり、つまり人間関係の基本だ。
お互いが身を寄せ合っていれば当然、傷つけ合うこともあるけれど、でも、それを許し合うことで、人間は愛を覚えていくのである。
ところが最近の日本人はもう、傷つけ合うことが嫌いになり、価値観が違う相手とは、語り合う必要も、共に暮らす必要もないと考えはじめた。
また、資源のない国だから、古いヒーターでも大事に、大事に、メンテナンスして使う習慣が過去は主流だったが、使い捨ての時代になってきた。
傷つけ合うことを避けるようになった結果、許し合う機会までも失い、メンテナンスを欠いた日本人の暮らしがいま、寒々とした事件を生んでいる。
工場で働くベテランの作業員さんは、「 機械の声 」 を聴くという。
機械は調子が悪くなると、必ず 「 異音 」 を出すもので、その “ 声 ” を聞き逃さずに対処すると、大事には至らないそうである。
社会問題になっている 「 いじめ 」 を原因とした子供たちの自殺も、周囲がもっと日頃から気を配り、適切に対応すれば大半は防げただろう。
ぶつかり合って傷つけ合い、失敗を繰り返して許し合うこと、そんな修復とかメンテナンスの繰り返しがなくなったことで、様々な問題が起きている。
いじめ対策の 「 厳罰化 」 に異論を唱える人も出始めたが、私も同じ意見で、傷つけ合うことを避けるばかりでは、事態の解決など望めないだろう。
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