夏撃波[暗黒武闘戦線・歌劇派]の独白

2002年04月06日(土) 君は、障害者プロレスを知っているか

 今日は、「障害者」をめぐる関係について言及しようと思う。
 数年前、乙武洋匡君の『五体不満足』という本がベストセラーになった。乙武君個人についてはきっとさわやかな青年だろうと想像するのだが、あの本については批判すべき点が多いと考えている。早い話が、あの本からは「障害者の今日おかれた状況」というものが見えてこない。まるで「障害者差別」など解決済みの問題であるかのような書かれ方がされている。現実に対する分析力、想像力に乏しく、物書きとしては失格だとすら思う。
 北島行徳氏の『無敵のハンディキャップ』(文春文庫)を読んでみれば、『五体不満足』がいかに薄っぺらな内容であるかが理解されるであろう。北島氏(健常者レスラー・アンチテーゼ北島)とは若干面識もあるのだが(彼らの名古屋興行のプロデュースをしたので)、障害者プロレス団体「ドッグレックス」(もともとは普通のボランティア団体だった)を旗揚げし、予定調和的な福祉の世界に常になぐり込みをかけている人物である。「ドッグレックス」では当初障害者同士の試合が組まれていたが、やがて「障害者対健常者」の試合も組み入れられるようになった。リング上でむき出しの体がぶつかり合う。健常者レスラーは障害者レスラーに対しても手加減はしない(ルールのうえでハンディを持たせるような工夫はなされているが)。そこでは目を覆わんばかりの容赦ない攻撃も見られる。それを見ている自分自身に居心地の悪さを覚えたりもする。いま目の前で起こっていることを傍観するだけの自分。リング上の光景が現実世界と二重写しになる。北島氏は著書のなかで、障害者レスラーたちの日常の姿についても語っている。それぞれが苦悩しながら現実の生活を送っている。例えば、障害ゆえに職業選択の幅が狭まったり、恋愛や結婚に悩み、日々の生活のなかであまりに多くの不安を抱え込んでしまう。依然として「障害者差別」は幅を利かせているのだ。
 「障害者プロレス」について話は尽きないが、レスラーたちがリング上で懸命に闘う姿は非常に感動的である。単にお涙頂戴ではない、素直に感動を呼び起こすだけの力が感じられるのだ。鑑賞にたえうるだけのなにかがそこにあるのだ。
 私たちの公演に関しても、観客の側に何かしら感動をもたらすことができたら、この上なき幸福である。


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夏撃波 [MAIL]