十夜一夜...Marizo

 

 

七夕の冒険 - 2004年08月07日(土)


ローソクだーせー だーせーよー
だーさーないっと かっちゃくぞー
おーまーけーに ひっかくぞー



七夕に近所の子供達が集まって
浴衣を着て 町内の一軒一軒の玄関の前で
この歌をうたう。
昔は本当に蝋燭をもらっていたようなのだが
最近は小分けしたお菓子を貰うのだ。



クルクルと捻じれたティッシュの中には
ペコちゃんのパラソルチョコと
イチゴミルク味の飴が一つずつ。
もう一つのティッシュには
キャラメルコーンが一掴み。

小さい子供がいない角っこの家のおばちゃんは

「あらあら 今日だったのかい。
なんも用意してなかったっしょや」と言って
裏の畑からもぎたてのトマトを一個ずつくれた。




もともと湿地帯だった場所が
新興住宅地として開発されたここは
郊外と言えば聞こえはいいが
実際には通勤にも通学にも大変不便で
土地代が安い以外に 何のメリットもない場所であり
だからこそ お金はないが体力はある
若い夫婦が多く その子供達はみな
本当にまだまだ小さい子供ばかりだった。

どこの家もほぼ同じ時期に引っ越してきており
子供達は みんな仲良く兄弟姉妹のように
毎日一緒に飛び跳ねて遊んでいた。





町内を一通り廻ったのだけれど
一軒だけどうしても行けない家があった。
おじいさんが一人で住んでいるというその家は
荒れた庭や家の壁をつたう何かの蔓で
遠くから見ると まるでそこだけ開発し忘れた
住宅街にポツンと残る森のようであった。



「森の家・・・どうする?」
「去年はどうしたっけ?」
「やだー。恐いもん」
「でもさー 犬とかいない筈だよ」



「仲間はずれは良くないよ」



この一言でみんなの心が大きく動いた。
つい先日の朝の会で 校長先生が
「お友達と仲良くしましょう」
「仲間はずれは良くない事です」
と言ったのを みんな思い出したのだ。


「そ、そうだよね」
「うん」
「仲間はずれは駄目って校長先生言ったもん」




悪く言えば お菓子をたかりに行くのに
仲間はずれの方が よっぽどいいだろうと
思うところだが その時は子供達の心に
自分勝手な正義感がムクムクと沸き上がり


「よし、じゃ行くか」



総勢8人の子供達は 森の家の玄関の前に立ち



ローソクだーせー だーせーよー
だーさーないっと かっちゃくぞー
おーまーけーに ひっかくぞー


二回歌い終わった後 物音一つしない森の家に
子供達はなぜかほっとして
三回目は一段と大きな声で
お互いの顔を見ては 笑いながら歌っていた。

一軒の家の前では 家人が居てもいなくても
三回歌い終わるまでに出てこなければ
次へいくのが約束なのだ。



お菓子はもらえないけれど
森の家を仲間はずれにはしなかった。

荒れ放題の庭で薄暗い玄関先で
今にも 鬼なのか フランケンシュタインなのか
はたまた 白い着物を着て頭に三角の布をあてた
足のすけてるおじいさんが出てきてもおかしくない
森の家を仲間はずれにはしなかった。



たったこれだけの事だったけれど
8人とも なんとも誇らしくて
こわごわ入ってきた時とは対照的に
胸をはって堂々と玄関を背に歩いていた。




結局 その年の雪が降る前に
森の家は壊されてしまったのだが
そのあとには ほんの少し面影が残る公園に姿をかえた。



七夕の度に 思い出す歌と森の家。


ローソクだーせー だーせーよー
だーさーないっと かっちゃくぞー
おーまーけーに ひっかくぞー
Marizo



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