十夜一夜...Marizo

 

 

雪ん子 - 2003年01月21日(火)

今日はお昼過ぎた途端に
なんだかすごい雪が降り始めて
静岡の浜松では 梅のつぼみが膨らんで
うぐいすも鳴いて もう春だっていうのに
オホーツクでは流氷の接岸が平年より早くて
まさしくここから いっそうの寒気に
身をさらさねばならない北海道って・・・


会社の窓から降りつづけた雪が
ピタっとやんだ 午後三時。
ふいに 最近「雪ん子」の姿を
見かけなくなったなって・・・・



昔 母が働いていたので ずっと鍵っ子だったのだけど
いや 別に全然 暗い家庭じゃなかったんだけど
ある冬の日 小学校2年生の私も4年生の姉も
二人して家の鍵を忘れた事があったんだ。
二人とも最初は元気に「帰ってくるまで
遊んでよう」なんて 玄関脇の雪山に
かまくら作ったりして遊んでいたんだけど
今日みたいに 急に暗くなった空から
大粒の雪が音も無く 小さな私達めがけて
覆い被さるように降り始めた時には
もう 寒くて心細くて二人とも
泣きそうになっちゃってたんだ。

その時 姉が意を決したように
「ママのところに行って来るから
 Marizoちゃんはここで待ってて」って
言ったんだ。
今思えば 姉は待ってる私にランドセルを
託しもせず そのまま背負って行ったぐらいだから
冷静さに欠けていたんだろうね。
だって10歳の女の子だもんね。


一人取り残された私は今のように
玄関フードなんてないから
帽子の上の雪を払いながら ひたすら
姉が早く帰ってきますようにって
玄関から道までの3メートルを行ったりきたりしていた。


突然 それまで降り続いていた雪がピタっと
止んだ午後三時。 作りかけの中途半端なかまくらから
雪ん子が出てきて こう言ったんだ。
「Marizoちゃん。鍵忘れちゃだめじゃない」

雪ん子に会ったのは その時が初めてだったけど
心細くて寂しくて もうちょっとで泣きそうだったので
恐いとか 嫌だとかそんな風には全然思わなかった。

同じクラスの男の子は なんか意地悪されたって言って
「おまえも気をつけろよ」なんて
大人びた口きいてたけど
全然 そんな感じじゃなくて 本当に
雪から生まれたって感じの子だった。


赤いちゃんちゃんこに藁のマントみたいなの羽織って
ほっぺが真っ赤で おかっぱの女の子。
手袋してなくて 指先が真っ赤になってたから
「手袋 ないの?」って聞いたら
「手袋って何?」って聞き返された。


雪ん子は 手袋や帽子がなくても平気だって事や
かまくらを作ってくれてありがとうってお礼言われたり
雪ん子も実は鍵っ子みたいに
家に帰っても誰もいないって事や
春の次の夏ってどんな匂い?って聞かれたり
意地悪したのは 男の子の方が先に
雪玉なげてきたからなんだとか
でも そんな話の合間合間に 何回も
「Marizoちゃん。鍵忘れちゃだめじゃない」って言われながら
玄関脇の雪山に作りかけの 中途半端な
かまくらの中で ずっと話をしていた。


姉が息を切らして坂を駆け下りて
来ている事を 知らせてくれた雪ん子は
かまくらを出る私の背中に もう一度
「Marizoちゃん。鍵忘れちゃだめじゃない」と言い
赤い指先の小さな手を振って 中途半端なかまくらの
雪の壁の中へ帰っていった。



その日の晩御飯は 雪ん子の話で盛り上がった。
北海道で生まれ育った母は知っているが
九州出身の父は いまだかつて一度も雪ん子には
会った事がなかったので その週末には
家の周りは 父が作ったかまくらだらけに
なってしまったのだった。


今日みたいなこんな日は どこか作りかけの
中途半端なかまくらで また「ねぇねぇ
春の次の夏ってどんな匂い?」って
聞いてるんだろうな。きっと。
Marizo





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