白虎草紙
『遙か』の白虎組についての四方山話、SSなどです。

2006年02月19日(日) 某公式本に寄せ 或る編集ミスの思い出

 
 
「『ミスを憎んで、人を憎まず』よ。

あなた自身のミスであってもだから、
そんなに自分を責めないで。

次、どうしたらいいかを一緒に考えましょ?」



私が、心から敬愛しているフリーの編集者の方に、
まだ駆け出しの頃に掛けて頂いた大切な言葉です。


当時、一校(原稿全体)を見るのに三ヶ月かかる校正刷り(ゲラ)を、
延々と校正・素読み・ファクトチェックをしていたのですが。

もうこのゲラはこれで文字校了できる!…と思い、
印刷所さんに返したゲラの、とあるミスを見逃していたのに
偶然あとで気付いたのです。


すべてのゲラは、複数の校正者の手を経たあと、
最終的に自分がダブルチェックして印刷所さんに入れていたので、
発生したミスはすべて校了責任者である自分の見逃しでありました。


言いのがれのできないミスを、
見逃してしまった自分が悔しくて、
何のために複数の編集者がいるのだ、何のために
ダブルチェック体制を敷いたのだ、と、
もう自分が情けなくてたまらず、


「……くっ……そおっ……」


思わずつぶやき、ゲラを抱えてその場にしゃがみこんでしまいました。



と、そのとき。

敬愛するその女性編集者の方が、
私の背中を叩いてくださり。


「ほらほら、そんな言葉口にしちゃだめよ?
乱暴な言葉を遣っているとそういう顔になっちゃうわ。

女の子なんだから、優しい言葉だけ遣いましょ?」


とにっこり笑って仰った上。

冒頭の言葉をあたたかに掛けて下さったのです。


「ミスは出るものよ。
教科書でさえ、
何人何十人の目を通ってもミスが残って、
刊行できなくなったりするんですもの。

どんなベテランの人でもミスは出すから、
私たちの仕事があるっていうもんじゃない?」



その方の、この言葉がその後、
自分にどれほど大きな影響を与えたろうと思います。


人の手による仕事ならばミスは出るもの。

ミスを出した人を責めるだけでは何ひとつ生まれはしない。

じゃあ、どうすればミスを防げるか考えよう。
このミスはどうしたら防げたのかを考えて、
ノウハウを蓄積してゆこう。


先日、某公式さまの刊行物で、
とあるキャラの名前の誤植がふっと目に入ったとき。

走馬灯のように昔のこの思い出が蘇りました。


もし、私が上長であったなら、
そしてその本の発売前にミスが発見されていたとしたら。

ミスを出した編集担当者にこう云っただろうと思います。


「確かに、申し開きのできないミスで、
読者の方もひとめでお気付きになるでしょうけど、
でも刷り直しはせず、この誤字は重版で修正しましょう。

「ひとめ」でわかるミス、っていうのは実は
ラッキーだったのよ?

読者の方はミスだってわかるのだから。

一番対応が必要な重大なミスは、
読者の方がミスと気付けず、
うのみにして覚え、
それで将来に関わるようなミス、
たとえば教科書の内容のミスや
問題集の正誤のミスなの。

だから、この人名ミスは、
公式としては恥ずかしいもので、
クレームをいただいたら真摯にお詫びを
しなければならないけれど。
云ったようなミスではないから、
まだ救われたのだと思って。

この先同じミスが出ないよう、
縦チェックや機械校正を工程に入れていこう。


それと、たぶん、ミスのあった箇所の著者は、
編集部のミスに傷ついていらっしゃるはずだから、
編集部の仕事に不信感を抱かずには
いられないでしょうから、
今度の原稿では、
あなたの手間は増えてしまうけど、
先方がいいと仰るなら、著者校正を、
校正ゲラの途中で見ていただく工程を、
入れさせていただく方法もあるよね」



はたして公式さまの編集部で、
どのようなやりとりがあったのかは不明でありますが。


公式さまは、けっこう刊行スケジュールを
きちんと守って出されるので、
編集の仕事のひとつである、
「スケジュール管理能力」についてはきっと
高いのだろうと思います。


けれど、編集者のそれに並ぶ大切な仕事は、
いただいた原稿を、
特に締め切りを守って提出された原稿ならなおさら、
どこまでミスをつぶせるか、
ミスがないよう質を上げる工程を組めるか。


ミスが出たときにはその失敗に学び、
今後に生かせるか。


そうした、「品質管理スキル」の蓄積・向上に
あるのではないかと思います。



公式の編集部によるお仕事は、
掛ける期間を考慮したならば、
基本的には丁寧・良心的でいらっしゃるなあと思います。


この、小さなミスを乗り越えて、
さらによいものを、
よい萌えを、
ぜひ具現化し続けてほしいなあとファンは思います。


 
 

 
 


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