「隙 間」

2012年08月17日(金) 特別阿保列車〜道後温泉編その二〜

道後温泉を四国四県制覇の最終地に選んだのは、最後くらい温泉でのんびりしようじゃないか、という理由があった。

高知「よさこい祭り」
徳島「阿波おどり」
香川「こんぴらさん参り」

で汗かき回る毎日であったから、それらとこれまでの日常と旅のあれやこれやと一緒に、さっぱり洗い流そうと。

たかが温泉でそれらが洗い流せるわけではないが、気持ちの問題と、自己満足へのこじつけである。

わたしが温泉だけで一日じっとしてつぶせるわけがない。
とりあえず、松山城には行っておいた。

さて他に何があるかとなると、まったく思い付かない。

ホテルのチェックアウトが昼前なので、朝食の後、ホテルの今治タオルを首にぶら下げ「道後温泉本館」へ、湯に浸かりに行ったのである。

宮崎駿作品にあるとある湯屋のモデルとなったらしいが、それよりなにより、歴史的趣きある外観が、人だかりとなる理由がようくわかる。

入湯券を購入し、混雑を極力避けるために時間制限が設けられているのでもしや落ち着かないのではと危惧していたのであるが、なに、男のひとり湯である。

そんな危惧は杞憂である。

入れる湯によって三つのコースに別れているが、下のコースの湯に入ることができるので、迷ったら一番上の個室休憩所付きを選んでもよい。

しかし。

「建物の中に入りたい」というがためにだけ、そのコースを選ぶつもりでいた方がよい。

「道後温泉別館」がすぐ近くにあり、そちらは本館とまったく同じ湯をひいている。

しかも公衆浴場として地元の方たちにとっての銭湯のようなものであるから、入湯料が安い。

広い。

のんびり好きなだけ浸かれる。

しかも混んでいない。

表通りではないから、湯上がりの呆けた顔や、艶やかな色気たっぷりの顔を、ばしゃばしゃ写真におさめられる心配もない。

いいとこ尽くしである。

昨日湯屋に行く前に、そこで使うタオルを物色するのもよかろう、と、アーケードの店先をうろうろしたのである。

日本髪の浴衣美女が描かれた、いかにも昭和チックなタオルが並べられた店を発見したのである。

「温度で絵が変わる!」

と、お勧めのメッセージがやけに目を引いたので、わたしはしげしげと立ち止まって眺めていたのである。

「いらっしゃい。これは、面白いですよ」

人好きのする顔のおやじが、ほいほいと出てくる。

絵がね、お湯に浸けたり温めると消えるんですよ。

色んな絵柄を広げてみせる。

消えるんですか。真っ白に。

いやいや、と目尻をおかめさんのようにまるまると引き上げながら手のひらを左右に振る。

全部は、消えません。
服だけが、消えるんです。

ニタリ。

ほう、服だけが。
そう、服だけが。

「てことは、スッポンポン、てことですか?」

いやだなぁそうに決まってるじゃあないですか、とおやじはたらいで湯あみをしている女性をひらひらさせてみせる。

「会社の景品とか、まとめ買いされる方もいらっしゃいますよ」

なるほど。
もしもこれを、名古屋の友に土産だと送ったとしたら。
家族旅行の宿屋での風呂上がりに、部屋で合流した奥様に息子が、

「パパのタオル、はだかだったんだよ!」

と無邪気に報告する姿が目に浮かんだ。

そううまくはゆかないだろうが、面白いかもしれない。

昭和な土産も、度が過ぎてもはや貴重かもしれない。

「それじゃあ、おやじさん」

ひとつセットで、とは続かず、「面白そうなものが他に見つからなかったら、また来ます」と踏みとどまって店を出たのであった。

こうして友の父としての沽券は、本人がまったく預かり知らぬところでわたしによって勝手に危機にさらされ、勝手に守られたのである。

道後温泉本館には、もちろんそのタオルを買わずに、ホテルの今治タオルを借りて行ってきた。

たいそう人の好い湯婆婆たちが大勢で待ち受けていたのだが。

ああ。
また、足りなくなった。

続きはまた次回ということで、ここまでに。


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