「隙 間」

2012年06月10日(日) 「灼熱の魂」

大分経ってしまったが、わたしの日常世界であるギンレイへ。
なんだかふわふわと定まりきらないものを、地につけるため。

「灼熱の魂」

をギンレイにて。

中東からカナダへ移り住んでいた母が、遺言状で双子の姉弟に、

「あなたたちの父親と兄を探しだし、手紙を渡しなさい」

と遺す。
ふたりの父は内戦で死に、さらに兄などいないはずだった。

母の遺言を果たすため、父と兄の消息を追いはじめる。

しかしそれは、母が決して語ることがなかった母と自分たちの凄惨な歴史に直面させられる苛酷な旅路であった。



若かりし母は、難民の男との間に子どもを身籠ってしまう。

男は撃ち殺され、母は一族を汚したと子どもを生んだ直後に村を追放される。

「大学へ行き、知識を学びなさい。約束するなら、他の者に一族の恥をすすぐために殺されないよう、わたしが手配する」

祖母との約束。

やがて大学に入るが内戦が激化し、大学が閉鎖される。
我が子は生んだ直後に、南部の孤児院に預けられていた。
その南部が、激しい攻撃にあったと聞き、生まれたばかりの我が子にした約束を果たしに、現地へ単身で向かう。

「きっと、迎えにゆくから」

しかし孤児院はおろか、村もほとんど焼け野原と化していた。
子どもたちは、全員別の街に連れて行かれたらしい、と知らされる。

それはやがて洗脳し、戦士として育てられることになる。

母はその後、活動家として党の党首を暗殺し、投獄される。

「唄う女」

苦しくても辛くても歌を唄い、拷問に決して屈しない者として監獄でも有名になっていた。

そんな母に、とある拷問人があてられる。

男は母を数年間にわたり、レイプし続ける。
やがて男の子どもを孕ませられ、監獄内で双子を出産したのである。

「あなたたちの父と兄を探しなさい」

姉弟は父と兄を探してゆくうちに、これまでただ寡黙で変わり者だと思っていた母の過酷な過去と初めて直面してゆく。

そして父と兄の所在がついにわかる。
自分たちと同じように、カナダに移住してひっそりと暮らしていたのであった。

二通の手紙を渡し、無言で姉弟は立ち去る。

「息子よ、一日だってあなたを忘れたことなんなかない。
連れてゆかれた児童院に、すぐにでも連れ戻しにゆこうと思った。

何があっても、たとえ離ればなれのままであっても、私はあなたの母として、愛してます」

「私はあなたの罪を許しません。
しかし、あなたにもあなたを愛してくれた父と母がいるように、このふたりの子にとってあなたは父親です」

二通の手紙を続けて読む男。
男はただ苦しむしかなかった。

母は、息子と双子の父親が同一人物だとわかっていたのだろうか。

息子は出産後、目印になる入れ墨の点がいれられていた。
亡くなる直前、現在住んでいるカナダの近所のプールでその入れ墨の入ったかかとの男を、偶然、見つける。

だから、双子の子どもたちに「あなたたちの父親と兄を見つけて、この手紙を渡しなさい」と遺言を残した。

「それができなければ、私をうつ伏せに、墓碑銘には何も入れないで埋葬すること」

とまで、遺したのである。

復讐の念か、母の深き愛か。

いったいどちらなのだろう?

あらためて「灼熱の魂」という邦題が、チリチリと胸を焦がしてゆく。

わたしは親ではない。
ましてや母親でもない。

そもそも。
どちら、などと分けることが愚なのかもしれない。


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