夢見る汗牛充棟
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2006年05月08日(月) 奔馬 豊饒の海(二) 三島由紀夫

新潮文庫

読了。

というわけで、極めて個人的な感想をうだうだと述べる。
次の巻へ進むための儀式みたいなものです。

個人的には、よくわからん純愛ものな一作目の春の海より興味深く読めた。
本田氏は、年齢的にも理性がちな性格も寄り添いやすい。
異次元の人にひかれてしまう気持ちもわかるような気がする。
三十八歳。
落ち着いたつもりでも、青春の香りを嗅ぐと何か目覚めて暴れるものが
あるんだろう……と思ったり。「まだだ。まだ終わらんよ」って感じ?

前の巻から周到に用意されていた転生の物語。そして次巻に続く訳で。
女は一代限り。女は未練を残さず、次世代の物語に現れず。
自己完結だろうがなんだろうが今生で愛を全うし、自分のなかですっぱり
決着をつける強かさが女の愛はあるのか。
男は自分に都合の良い物語を作って完結させることができず、したがって
思い切れずにいつまでも未練を残している。
それが男の可愛さと思うか否かは好みよるだろうけど。
男の愛と女の愛の差はこれだ! といわれているようで。むにゃむにゃ。
書く側は男の愛の重さ深さを主張してるのか?
女は燃えて無くなる肉を愛し、男は転生する魂を愛すのだと言いたいのか
と思ってしまう。……うぬう。

十八年も経て、たまたま出張で出かけた先の滝で水垢離ご一緒した
若者に黒子があったからとて。おお! 転生したのか! てえ思考。
いかに本多氏の頭に清顕がこびりついていたかわかるってもんです。
(健気親父理知的眼鏡with心に傷……ってんで立派にBLもの
で主役をはれるに違いないです)

このままだと本田氏は、次の転生者にも出会いそう。気の毒な人だ。
本人どう思ってるかは別として。
清顕の愛の迷宮から一生出られないんじゃないか。ラビリンス。
したら、もはや呪いです。とりつかれてます。
日記帳は間違いなく呪いのアイテム決定。お祓いして焼いた方が良かった
よなぁ……と思っちゃう私は多分情緒を解さないのだろう。

■今回の主人公の勲君について。
前作清顕君は宇宙人のように理解不能でしたが、彼はわかりやすかった。
前世でわかり難い心を持った人だったから、今生では単純な心で単純な生
を目指したのかな。わかりやすいと好き嫌いは別の問題。

結局、何かを正したい何かを変えたいというよりはむしろ、汚れた世界の
有り様によって己が汚れることが許容できないので美意識と己の美に折り
合いがつくうちにさっさと自分を滅したいという自分勝手な欲求の為に
動いていただけのように思える。
自分の美意識を全うするために世の不正を利用していているのであって、
目的主眼はいかに理想に沿って純粋に美しく死ぬのかにあり、しかも自分
自身を騙しきっているのでその卑怯を知らない。
視野の狭さと故の盲信、危うさが青年の美と捉えられ一種の魅力であると
いうのは否定しないけれど。風土のせいか私たちの魂の中には、ひたむきに
散り急ぐものをこそ美しいと感じる遺伝子が含まれている。
おそらくはかないものを惜しむ優しさがそこに必要以上の美の要素を見出す
のだろうけど。

世界の改善というのは、刹那的な手段から達成されるものではないし、
己が汚濁にまみれ、己自身も変容しながら変容を受け入れ、無意味徒労を
知りながら何度も世の有り様に力を加えるたゆみない作業だと思う。
本当に改革をしたければ、薄汚れながら生き続けなければならない。
社会は結局絶えざる利害調整の成果でしかないように見えるし。

何を根拠にか悪人と定めた代表の幾たりかを斬って捨てたからとて、
その後により良い社会などという漠然とした化け物がのしのし歩いて
やってきてくれたりするものではないのに、こういう人たちはその後の
社会について何の責任も持たない。自分たちに続く者が出ればといいつつ
後の為に道を作るわけでない。
ただひたすら知ったこっちゃない感じなんだもんよ。

ある種の意図を持って書かれ出版された本に心酔している時点でもう
頭使ってないよなと。確信犯で判断を怠っているなと。頭いいのに。
強いて一つしか見ないなんてもったいない。
あそこまで狂信的になれたらそりゃ夜空に日輪の輝きだって見えるだろう。

……まぁいいや。多分本筋はそこじゃないだろうし。

一応清顕君はひ弱でややこしい人過ぎて幸せになりそこなったので
一つ強い肉体と単純で真っ直ぐな精神を持って生まれてみたのか。
それでも失敗して、女に生まれたら多分幸せになれると勲君は思った
らしいので、次は女の子に生まれるんでしょう。
どういう人間になったら幸せになれるのか試しているようなもんでしょか。
でもなー、こんな早々に自分の人生を見限ってばかりじゃ、何が良くなかっ
たのかわからないので何回生まれなおしても一緒なんじゃないかって気が
してしまうのだけど……この先どうなるんだろう。

涙なしには見られない本多氏は、次の転生者にも遭ってさらに道を踏み外し
てしまうのか。むしろそこが一番の気がかりです。
だって今度こそ救いたいと思ったのにその甲斐なく……ですもん。
どれほどがっくしきただろう。また救えなかったと思うなんて。
本多氏を主眼に置くとテーマは友人は良く選べになりそう。

さて、本多氏を気にかけつつ次の巻へ行きます。


恵 |MAIL