スケートの紐むすぶ間も逸りつつ(山口誓子)



どころか、前の晩からうるさい姉妹
もう楽しみで楽しみで、はじめてのスケート
地下鉄のなかも
きゃあきゃあとうるさいこと

笑いながら
隣に座った見知らぬおばあさんが
袋の中から子供達にそっと渡してくれたものは

さしゃ、でした

たぶん正確には<紗々>
細かい線を織り込んだチョコレート

ポロポロ零れて

とても不思議

おばあさんの背中に
「ありがとう」と声をかけたけれど
聞こえなかったのか
聞こえなかったように
すうっと降りてしまわれた



新横浜プリンスのなかに
氷、あったんですね
わたしも実ははじめて

しろくてかたい氷はいいなあ

姉は

とにかく靴がダメで
あの靴の刃先が怖くて立てなくて
おびえて泣いて泣いて
すぐリタイア　見学組に


妹は

ひとりで勝手に
どんどんいってしまって
転んでも転んでもびしょびしょになりながら
一時間も滑っているとなんとかカタチになってきた
怖いもの知らず組

ひとりで
ふたりで
さんにんで

そして
さしゃをくれたひと

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