しゃぼん暮らし
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朝から陽ざしがつよい レイとふたり ひまわりミラーのある坂の下 つくりものの花びらでふちどられている標示ミラー
「とりにゆこう、とりにゆこう」
昨日 お兄ちゃん達がミラーと並ぶ木に登って実を山分けしているのを目撃したらしい 草ぼうぼうの斜面でちびを持ち上げようとしたが 難しい 休日のこんな朝から汗だらだらで木登りしてる母子って、うう・・・
登るのか、どうしても・・・
「あかい実、とりにゆこうよ!」
レイぐうぜん向日葵の花のプリントされたワンピースを着ていた 袖無しから出ているかっちりした腕 ガードレールのうえにでーんとのっかって 裸ではないがふんいきが はだか ちんまりぷっくりした足を木にかけて奇声をあげて(よいこは真似してはいけません)しがみついて手をのばして しかし 熟した実まではとおい それでも むらさきの実、かたいあかい実、 を袋にいれて持ちかえる わたしはシャツについた緑のねばねばや葉ををはらいながら 帰る はだかの女にはなにもついていないようだ 収穫にきぶんがいいらしい 鳩胸を空にむけて歩いてゆく
○ ○ ○
帰宅したら郵便受けに 本田瑞穂さんの歌集『すばらしい日々』が届いていた ああ できたんだあ、と思う 採集前からこの手に届くなんて、と じーんとする 包みをひらいて ふたたびじーんとする
去年のN市の夏を想いながら うたのこと歌集のことを話すほんださんの 表情を
沈殿しているきれいな色素を
思い出しながら
頁をめくりながら
でも そのうち それらは消えていて
言葉
「よかったね」ひとりのひとにむけられる言葉を聞いているひとがいる
巻き込んでしまう けれどもできるだけバスはカーブをちいさくまがる
八階の窓から見える艶のない街にコップの水をかけたい
絵葉書をポストにそっと落とすとき闇が一枚分だけ浮かぶ
のぞきこむようにライチをむいている答えがひとつまた閉じていく
すばらしい日々を半音ずつ上がり下がりしながらやがて忘れる
ぬけおちたまんなか抱えながら聴くあなたの生でやさしい声を
『すばらしい日々』(本田瑞穂)より
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