事務として入りなおした直後。 はげやほかの人間に、たてつかぬよう、自分の仕事の効率化を優先させた。 特に怒りを買った禿や大型ガス馬車御者あがりの所長、そしてくそじじい。この辺に対する対応はずっと困難だった。 二時間おきに目が覚め、体は壊れ、皮膚は荒れた。
自分で言うのもなんだが、この数年で強靭な精神力を手に入れたように思う。 家を出て、全く知らぬ人のすむ世界に入り、何の後ろ盾もないまま、自分の力だけで自分の存在を主張し、生きていかねばならない。
・●●の息子 ・●●の親戚 ・●●の友達 ・●●の…… etc
そういった肩書きをすべてなくし、単身『なん』という名前だけを持ち、群馬に乗り込んできた。 一度はマイナスにまで評価を下げ、もう一度立ち上がってきた。
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今、新しいガス馬車御者が入ろうとしている。 彼は、すぐ隣の営業所から移ってきたわけだが、やはりはげからの反発は多い。 隣のガス馬車会社が締め付けが厳しくなったから抜け落ちてきた。 そう思われたのだ。 彼は、「堕落した会社の人間と同じに見られるのはいやだ」と主張する。 そして、自分が乗せたお客に、新しいうちの会社のティッシュを配ることをし、うちの会社に呼び寄せている。 普通に考えたらありえない。しかし、大型ガス馬車御者上がりの所長に取り入るためか、それとも、手土産のつもりなのか、彼はそれをしている。
その評価ははっきりいって分かれるだろう。 常識知らずだといわれればそれまで。 会社のために動いているといわれてもそれまで。 客を呼び寄せる行為そのものは、それで終始するが、そこから与える印象は限りなく多岐にわたる。
彼は良かれと思ってしているその行為。 それが彼の首を絞めている。 彼に言われた。
「俺は、自分の行動に対して、同時期に両極端の評価を受けている。迷ってしまっている。導いてほしい」
いや、おいらに導くなんて高尚なことはできません。 ただ、愚痴は聞くよ。 こうしたらいいんじゃない? ってことはいえます。 ただ、それすらも正解じゃないってことだけは覚えておいてください。 あくまで指標に。よきにせよあしきにせよ。
そう答えた。 人間、年齢は関係なく、追い込まれればすがりたくなるものなのだろうね。 52の男に人生相談される、十八歳十一年目残りあとわずか。 不思議な感覚だ。
愚痴る側から愚痴られる側へ。 一年は長いようで短い。短いようで明らかに変化がある。 学生生活以上に、社会人生活の先輩というのは、後輩にとって大きな存在なのかも。
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