本日、お客さんがお茶とお饅頭を持ってきた。 以前、交通事故で怪我をして、保険会社の未収で乗ってたお客さんだ。 そのお客さんは看護婦だったせいもあって、出勤時間が不確定で、朝六時半に出勤したり、夜の十時半に迎えに行ったり、と結構時間が凄まじかった。 だからかもしれんが、御礼の品を持ってきたのだろう。
仕事。
確かに、言ってしまえばそうだ。 給料にならなきゃ、誰もやらん。 誰が自分のガソリン代使って、わざわざ見ず知らずの人間を運んだりするだろうか。 滅私奉公なんか嘘っぱちだ。
仕事。
しかし、仕事を通じて発生する人間関係というのは確かにある。 友達とは違う。しかし、人間独特のつながりがそこにある。 仕事という媒介を通して、お客さんとサービスを提供する側、という関係が成り立つ。 たまには、非常によくない関係が構築されてしまう場合もあるだろう。 しかし、双方がお互いのことを考え、その仕事(サービス)を円滑にこなせるようになれば、信頼関係が生まれる。 金を払ってるから、とか、お客さんだから、とか、そういうものを抜きにして、人と人とのつながりが確保できれば、そこには信頼が生まれる。
そして、今回のこの未収のお客さんは、そのよい例となった。
おいらは、ガス馬車御者会社に勤めている。 しかし、ガス馬車を駆ってるわけではない。今は。 つまり、花形ともいうべきガス馬車御者が、最前線でお客さんと向き合ってるときに、おいらは、帳簿上の名前しか知らないのだ。 今回、そのお客さんが来たときも、初めて見た。ほかのガス馬車御者は、みな顔を知っていたというのに。
凄く疎外感を感じた。 おいらは、帳簿上でしかお客さんのことを知らない……。 会って話して、人と人との関係が構築できない。 それが、なんか無性に寂しかった。
多分、こんなこと感じるのはおいらだけだろうし、そんなことをガス馬車御者の面々にいったら「固定給貰ってる奴がナニを寝言を!」といわれるのは目に見えてる。 けど、やはり疎外感は否めない。
品物を受け取って笑顔で頭を下げたものの、その笑顔はどこか空々しい。 おいらは、何もしていない。 少なくともあなたに対しては。
金の不安は無いが、同時に喜びもない。 人と人との繋がりがない。 なんともいえぬ不思議な、しかし苦い経験になりそうだ。
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