a Day in Our Life


2005年11月26日(土) ラブレター。(丸雛)


『追伸
  お元気ですか?無理はしてませんか?
 あなたは頑張り過ぎるから心配です。
  たまには気を緩めて、大きく息を吸って吐いて、空を見上げたらたぶん、季節が変わっていることに気付くはず。
  あなたの肌荒れを見るたびに、切ない気持ちになるけども…、変わってあげたいと思うのはたぶん、間違ってるんやろなぁ?
  でもそんな風に思ってる存在を、俺らっていう仲間を、思い出してくれたら少しは楽に…なれたらいいな、なんて思ってます。
 一日くらい筋トレを休めるようになって下さいね』



 「…ていうメールを送ろう思ってんけど、タイミング逃して送れず仕舞やってん」
 言って丸山に見せられた送信メールを見て、安田はがっくりと脱力感を覚えた。
 「いや…マル、これは送らんくて正解やと思うで」
 とは言えない安田は、「そうなんやぁ」と黙って笑みを浮かべる。「そうやねん」とニコニコ笑い顔になった丸山は、大事そうに未送信のメールを閉じた。
 安田にしてみれば、丸山の心配はよく分かったけれど、そのメールを送られた相手が黙ってありがとう、と言うとも思えない。それよりもあのデカい声で「マジでかー」と笑われないとも思えない。それとも後日談として、MCのネタにされるのがオチか。
 それは感謝がない、訳ではなくて。後輩に心配をされることに慣れないというか。それに関しておいそれと有難がってしまえば、先輩としての立場が揺らいでしまう。同じクループとはいえそういうことを考えそうな彼の、反応を想像する。
 「やっさん。今、送らんでよかったて思ったやろ」
 安田の顔色が分かりやすすぎたのか、それとも先回りした丸山が本音と建前を読んだのか。正確に安田の心証を言い当てた丸山が、でもな、と笑い顔になる。
 「村上くんは案外、分かってくれると思うねん」
 あなたを心配だと思うこと。一人の人間として慕う、その好意まで。自分にとっては聡いと思える彼には、お見通しなんじゃないかと思う。知られていると思うから素直に懐けるところもあって、だから丸山は、村上を好きだと思うことを隠そうとはしない。決して迷惑ではないのだと、村上の態度が教えるから。勝手に側にいて勝手に気懸かりで、そう出来ることが嬉しいと思う。
 「そぅか…そうやな」
 丸山の言わんとすることは、安田にも少し分かる。むしろ安田自身がよく人に「熱い」だの「重い」だの言われることがあって、だから丸山の事を言えた義理ではないのだ。人に対して必要以上に傾いてしまうから、メンバーの元気がなければ心配だし、何か声を掛けたいと思うし。それで引かれることもあるけれど、それは照れ易いメンバーのせいで、大事に思っているのだということだけでも伝わっていると思う。
 「…うん。マル、大丈夫やと思うわ。送ったらええよ」
 今からでも、と言った安田は何かを今、思い出したような顔をした。
 「やって今日はマルの誕生日やねんから、村上くんはきちんと返してくれると思う」
 こじつけのようだと思ったけれど、丸山はあっさりと笑って、そうする、と言った。



*****
丸ちゃんお誕生日おめでとう。

2005年11月17日(木) missing.(亮雛)


 「my Honey, I miss you」

 電話口の錦戸が開口一番、そう告げるのを聞いた村上は、一瞬言葉を失った。
 ぱちぱちと瞬きをしながらたっぷりと空いた間で、村上の不信感はダイレクトに伝わったのだろう。村上が何か言う前に、先回りして「ごめんなさい」と錦戸は謝ってきた。
 「…切ってもエエか?」
 「なんでそんな冷たいこと言うんですか」
 笑いながらやっと返した言葉には、笑いながら僅かばかりの不満が返って来る。おまえが急にそんなこと言うんが悪いんやんけ、と村上が言えば、やって寂しいんはホンマやもん、と真顔になった錦戸はそう言った。
 真顔になった、と言っても実際に側にいる訳ではないから、村上にとってそう思えた、という事だ。そういう声色になった錦戸が、たぶん電話の向こうで口を尖らせて、拗ねたような表情になっているのだと想像した。最近また忙しい錦戸とは比例して会う機会は減っていて、全く会わないということもないけれど、それでもゆっくりと顔を合わせる時間は確実に少なくなった。そのことを錦戸はふと「寂しい」と思ったらしい。
 「アイミスユー、て言うたでしょ?寂しくて、会いたくて、切ないんです」
 分かりますか?と錦戸は言った。
 切ない、という気持ちが村上に理解るだろうか、錦戸は思う。こんなにも相手を想う気持ち。恋しいと思う、この感情が。
 「分かるよ、…たぶん」
 彼にしては珍しく、呟くようだったその声に、村上にはきっと分からない、と錦戸は思った。
 だって今、側にはいないのに。
 …側にいたとしても。村上の考えていることは、村上にしか分からない。村上の全てを知っている訳じゃない。分かったような気になっても、本当の事なんて、本人にしか分からないのだ。
 それでもいい、と錦戸は思う。分かったような気になって、村上のことを。都合のいいように理解した彼を、こんなにも好きだと思うから。独り善がりだったとしても、この気持ちに嘘はないから。
 「会いたいです」
 例え届かなくてもいいと思ったけれど、村上は更に押し黙って、一人ごちるように「俺も、」と呟いた。



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許されることならば抱き締めていたいのさ光の午後も星の夜もbaby

2005年11月05日(土) けもの道。(横雛)


 「久し振り」
 「おう、」

 挨拶をしながら交わった目線を、珍しく横山は逸らさなかった。いつもなら言葉だけ交わしても目線は合わさない。人の顔を見るのが苦手らしい横山の、それは照れとか性質の問題で、悪気がないと知っているので、そんなことを気にしたこともない。
 けれど今、じっと自分の顔を見つめてくる横山に、珍しいな、と思った。
 「何?」
 問えばいや、とは言ったものの、いまだ追いかけてくる視線は逸れることがない。受け手である村上も、それに物怖じするタイプではなかったので、黙って二人、見つめ合ったままだった。
 個人仕事やその他ちょこちょこした要因で、二人にしては珍しく、顔を合わせない日が続いた。もう4年だか5年だかになる週に一回のラジオがあったから、今までは少なくとも一週間に一度、会ってきたのだった。今思えばそれも結構な話だと思うのだが、今回、その週に一度のラジオに村上は来れず、そして重なった互いの仕事はすれ違いばかりで、とうとう丸々一週間、顔を合わすことがなかったのだった。
 だからかな、と村上は思った。寂しいだとかそういうことは絶対に言わないタイプだけれど、一週間も会わないということに驚いたのはお互いで、たった一週間、されど一週間。その間に変わったことと言えば、横山の鼻声が少しましになった(ような気がする)ことだとか、村上の肌荒れが悪化した(ような気がする)ことだとか。
 一週間振りの顔を、その分を取り戻すかのようにじっと見る横山が、不意に体を揺らした。かと思う間に思いのほか素早く手を引かれて、ベタな言い方になるけれども、気がつけばその腕の中。
 「…どないしたん?」
 顔を見ることに満足をしたなら、今度はその感触を確かめようと思ったのか。それは村上には分からなかったけれど。横山にしてみても、よく分からなかった。分からなかったけれど、何となく今、無性に村上を抱きしめたくなって。その体をぎゅっと抱きながら。

 それは今までだって、違ったことはないのだけれど。
 もう二度と離さない。そう思った。



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SPITZ JAMBOREE TOUR”あまったれ2005”

2005年11月02日(水) 桜援歌。(亮雛)


 「何でやろなぁ、桜見てるとめっちゃ切ななんねん」

 ぽつり、と呟いた村上を振り返った錦戸は、その唇にほんの僅か、笑みを浮かべた。
 「そう言って村上くんは、紅葉を見ても切ななるんでしょ?」
 心持ち顎を上げて、遥か見上げる村上の目線の先には、今は見えない桜の花びらが見えているのだろうか。分からなかったけれど今、その先にはほんのりと色づいた紅葉が、控えめに季節の移り変わりを知らせていた。そういえば最近は急に冷え込んで、さっそく渋谷と横山は風邪を引いていたっけ。
 「そうやって季節に敏感なのはええことやと思いますよ」
 「柄やないねんけどな、」
 珍しく、でも最近はないのだろうが、茶化すこともなく肯定をされて、村上は少しばかり照れたのかも知れない。自分でフォローした言葉に僅かに小首を傾げた錦戸は、ただ微笑っただけだった。
 「そぅでもない思いますけどね。村上くんは寂しがり屋やし、変なところ繊細なんやろな」
 変なところ、と言った錦戸に悪気はなかったに違いない。村上も改めて突っ込んだりはしなかった。タフでポジティブなだけではない自分を見透かされたようで、僅かばかり恥ずかしい気持ちにはなったけれど。
 「秋は好きですか?」
 ぽつ、と錦戸は問うた。なんとなく聞いてみた、そんな気安さで村上の答えを待つ。
 「好きやで?食いもんは美味いし、季節はええし、自然は綺麗し、…それに、」
 ふと思いついた村上は、一旦言葉を切る。それも含め好きだと思ったことに嘘はない、たぶん。
 「亮の誕生日もあるしな」

 言えばやや目を丸くした錦戸は、すぐに笑い顔になった。



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兄貴プレ誕生日。

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