彼とはコロナが流行り始めるちょっと前に
しばらく会わないことに決めていた。

その一年後　わたしは　脳梗塞で入院した。
幸い後遺症もなく退院できた。

その間もコロナは蔓延し　彼とはこのままフェイドアウトかなと
思っていた。

わたしはスマホを変えた。
メアドも変わった。

こちらから連絡しなければ　彼からは永遠に来ない。

これでいいと。

ずっとそのままでいた。




ある日　“男友達”からラインが来た。


その友達とはお互いの彼氏彼女の話をする仲だった。





「彼とは会ってる？」

「いや、もう随分会ってないし、メールもやってないよ」




忘れていた彼の影が私の中で膨らんでいた。

4月　新しいメアドを送った。

彼は驚いていた。

一度　私にメールしたら　返ってきたので
もう終わりだと思っていたと。

また繋がれて嬉しがってるような　
振り回されてとまどってるような　

とはいえ　ちゃんと　私に向き合ってくれているメールだった。


わたしは　また　過ちを犯したのだろうか？

還暦を過ぎた。

白髪が目立ち　しわが増え　シミだらけの顔
だらけた肉体　脳の退化は明らかだ。

だが　それでも　私の人生は　まだ続いている。

平凡だけど　幸せな時間を過ごしてきた。

さらさらと手からこぼれる砂のように思い出が流れ落ちていく。
思い出を記憶にとどめたくて　何度も何度も　すくいあげるけど
なにも思い出せなくなっていた。

わたしは幸せだった。
幸せな時間を過ごしてきた。

それなのに
なにが欲しいの？　どうなりたいの？

どこで　どうなったとしても　寂しい心は埋まらない。



愛したい。


愛されたい。


埋まらない心　１ピースを探し続けて夜が更ける