つれづれ - 2006年10月29日(日) 自分の中でもちょっと落ち着いたかなって思うので、 マフィのことなど。 来週でマフィとしての活動は終わるので、 今日書いてもう1回書くか書かないかな、な感じです。 期間終盤で語られた情報を総合すると、 どう考えてもマフィのいちばんの願いは 通じそうにない感じではあったわけですが(遠い目) ストーリー的にやっぱりその願いは通じませんでした。 むー、もうちょっとやり方があったのかなぁ……。 ともあれ、一昨日の日記として上げました、 『輪廻天舞』で、マフィの2ヶ月間のエンディングです。 エピローグとして現在未来時間軸の物語を紡いでいる所なので、 完全に『輪廻天舞』な感じになるかどうかは分かりませんが。 (実際、魔導士団は解散して騎士団と共に王国軍として再編されましたし) とりあえず。 総括の所感としての第一声は 「……私のキャラって、何かどうもガネクロ……(悩)」 であります。 今回は絶対ガネクロじゃなくて 霜月はるかのほわほわ系のイメージソングで行こうと思ってたのに……。 木蓮は完全にガネクロに染まってるのですが、 マフィも同じですか(吐血) マフィがたどり着いた先はと言えば、 「Holy ground」です。 先の物語、『輪廻天舞』を書いているときにふと思い当たったので、 ラストあたりの記述は、完全に「Holy ground」をから頂戴しました。 「Holy ground」 見えるかなー? 2サビの部分、「深い傷よりも……」からラストの部分までなんか、 もうまるきりマフィです。 どうしようもなくマフィでどうしようかとっ! (どうもしなくていいんですけれど/苦笑) I'veの「Philosophy」なんかもちょっと近いかな。 でも「Philosophy」ほどに明るくなりきれては居ないんですよね。 今後の予定としては、 24歳までは、実家(商家)の手伝い・軍の仕事・文官の勉強(+猫のお母さん)と 首都でばりばり多忙な生活を送ってもらいます。 25歳の誕生日を機に地方へ転出し、 緑の未だ多く残るその地域の代官として勤め上げます。 数年後、地域の独立の際には主権の平和的委譲のため奔走し、 平和同盟のために大使のような立場へと職務移行。 その間に養い子を育て上げて首都の文官として送り出し、 また、職を辞した晩年は独立に尽力したその国に留まって首都へは戻らず、 戦災孤児のための孤児院を開いてたくさんの子供たちを育てるようになります。 生涯独身を貫きましたが、 その経歴ゆえに自然とその国の「母」とも呼ばれるようになりました。 ……ぶち上げすぎですか?(笑) マフィのエピローグで演出したいのは、 25歳の出立と、晩年の孤児院のシーンかなぁ。 晩年のシーンは行きすぎかもしれないのでまだ未定にすることとして。 あと、20歳くらいの、首都でバリバリ働く養い子を出そう。 マフィ15歳で長く遊ばせてもらったので、 成人キャラを動かしたい衝動にかられてますよー。 それも、余裕ばりばりでフッとか笑うようなお兄さん。 皆様が少年少女キャラ動かしてるのとは正反対(笑) シンくんは動かしたので、満足。 向日葵マフィも動かしてるので、おっけー。 ちなみに更にどうでもいい養い子の名前ですが、 アーク・アランス=ベイリーフといいます。 あーく→あるく→歩く あらんす→A LANCE→1本の槍 =一本槍歩太 ……更にお後がよろしいようで…… (素直に『翼』のマフィの養い子の名前にしないあたり捻くれてます) ... 『輪廻天舞』 - 2006年10月26日(木) その年の秋の暮れ、飼っていた猫が子供を産んだ。 エリイの初めての子供たちは全部で5匹も居て、 真っ白が1匹、白と黒の斑が2匹、真っ黒が2匹だった。 マフィの胸を騒がせたことに黒の1匹は青い目で、 まるで誰かを連想させるような色合いをしていた。 散々迷ってから、マフィはその猫に、いちばん大事な名前をつけるのを止めた。 (猫は猫、あのひとじゃない) それに猫の寿命は人よりもずっと短いのだ。 またその名前に置いて行かれることになったら、 今度こそきっと耐えられない。 この頃「少し落ち着いたね」とか「大人になったね」と言われるようになった。 髪が長くなったからだろうか。 子供の頃からずっと耳下の位置で揃えていた髪を、 あれから数ヶ月、切っていない。 たくさんたくさん、撫でてもらった髪。 弱い自分は折れそうな心を支える何かが必要で、 あの人が触れた場所をほんの欠片でも自分の身から離すことが出来ずに居る。 それは、きっと彼が知ることになれば重く感じるはずだと思うけれど、 いつか心丈夫になるまでは、この衝動を宥めるのは無理だ。 真夜中、不意にどうしようもないせつなさに駆られて、 毛布に包まって泣き暮れることがある間は。 枕には涙の染みがいくつもいくつも重なった。 朝、目を真っ赤にして起きてくる娘のことを、 両親がとても心配してくれているのは分かっていた。 けれど何を言うでもなく見守ってくれて、 どうしようもなく危うげな時にだけ抱きしめてくれる優しさが嬉しかった。 汲み立ての井戸水で十分に目元を冷やすために、 以前よりも随分と早起きになった。 化粧の仕方も覚えた。 ごく薄い化粧は、赤い目元を隠す手伝いをしてくれる。 当然、声を殺して泣き尽くした後だから化粧乗りは良いはずもなく、 ごく至近で会話をする人には誤魔化しきれないことは分かってるのだが、 すれ違う人にぎょっとされない程度の腕前にはなった。 何を食べても美味しいと感じられずにいた食事の味は、 この頃ほんの少しだけ戻ってきたような気がしている。 兄が何くれと無く、赴任先の名物を細々と送り続けてくれるせいかもしれない。 どこでどこまで聞き知ったのかは不明だが、 ――殊によると、最初から全部見ていた可能性もある。 何分、空間移動の不思議な力を持っており、物見高い性分のあの兄のことだ―― 欠片でも事態を知った兄は、妹が陥る状況を察したのだろう。 兄妹は、例え好みのものでなくても、人から貰った物を喜ばないのは 人として真心に欠けるとして躾けられてきた。 食べ物を送ってやれば、無碍に跳ね除けるようなことも出来まいと思ったに違いない。 そして口惜しいことにその意図は的の真ん中を射抜いた。 食事の問題に関していちばんの功労者は兄だった。 時間時間になれば僅かだが空腹を感じるようにもなっている。 数ヶ月前に衰弱死という言葉を脳裏にちらつかせた人々は、 きっと安堵しているはずだ。 少なくとも、今のマフィから死を思う人は居ないだろう。 「今度会うときは、きっとマフィもお母さんに……」 時折空耳を掠める、今際の言葉。 あの言葉の意味をずっと考えている。 素直に、マフィが母親になるくらい時が経てば会えるという言葉だったのか、 生まれ変わった彼の母親になれという意味は考えられるのか、 それとも早く大人になりなさいということを遠回しに言い換えたのか。 今はもう正解を尋ねることもできないけれど、 ちょっと酷い言葉と思ったりもする。 母親になるということは、他に人生を共にする人を見つけるということだ。 ほんの少しだけ恨み言を思おうにも、 お母さんという響きがあんまりにも優しいから逆にせつない。 そして、彼が未来のことを楽しそうに語る姿を見たのは この時が初めてだったから、思い出すだけで泣けてくる。 死の間際にようやく語られた晴れ晴れとした未来の光景。 そこまで思えば、泣ききってしまうまで涙は止まらない。 そもそも自分が母親になるなんて想像できないのだけれど、 せめて子守唄の練習でもしておこうかと思う。 子守唄ならたくさんたくさん知っている。 物悲しいものから慈愛に溢れたものまで、好みに合わせて選り取りみどりだ。 いっそベビーシッターに転職してみるのも良いかもしれない。 (しませんけれどね) 魔導士のマントは、結局事件以降も身につけ続けている。 茫然自失状態だったしばらくは休みもしたし、 この数ヶ月、何度となく首都を離れようと思ったこともある。 けれどそれを実行に移せなかったのは、 思い出に溢れすぎたこの街が悲しみを誘うと同時に、 愛しくあたたかく、かけがえのないものだという気持ちを思い出させるからだった。 マフィの中で、これ以上の輝きは無いまぶしさで光を放つ感情。 それは、彼が教えてくれたものだ。 世界の輝き、かけがえのなさ、愛し方。 それは忘れてはいけない、マフィに残された形見だ。 悲しみから逃げることは、そのまま形見を放り出すに等しい意味を持つ。 きちんと笑える日まで、笑えなくても受け止めて自分の足で歩いてゆける日が来るまで。 この場所から離れてはいけない。 逃げればマフィの生は意味を失うだろう。 それに、彼にとても良く似ている国王を放っておけるはずも無い。 この世界を守ろうとして非情な面を見せた国王。 けれどそれは国王として当然の行動と思う。 王が国を守らずして他の誰が守るというのか。 その立場は推察できたから、マフィは国王を責める気持ちは持ち合わせて居なかった。 世界に対して抱く哀しみと同じ心境で相対するだけ。 責める気持ちが生まれ得るというなら、他の誰よりも先に自分を責める方に使うだろう。 先のことなど見えはしない。 今は嘆き悲しみ続ける自分の心を支えるのに精一杯。 明日のことを思い描いたり、遥か未来に夢を馳せたり、 そんなことはなかなか難しい。 それでも、この心が愛おしいと思う気持ちを感じられる限り生きていたいし、 生きることを止めたいとは思わない。 「楽しいことばかりだったらきっと楽しいことなんて分からなくなってしまうよ」 あの人の言葉を思い出す。 だから、この涙がいつか、優しさに出逢ってあたたかく溶けていくように願う。 聖地を探している。 春を夢見てどこかで眠っている蝶々、その目覚めを待ちながら。 いつかこの冬の果てに、生まれ変わって出逢うその時のために。 【了】 ... つれづれ - 2006年10月25日(水) 買うだけ買った本で、部屋が埋まりつつある……(汗) この頃、またMIXIにちょこちょこ短文を書き綴るようになりました。 長くても20行は越えないねって程度の、 詩とも言えないようなごく短い心象風景です。 11月いっぱいまではお休みの予定だったのですが、 この路線で続行決定かな、と。 受けとかそういうものは考えずに、 自分を満たすためのスペース的な扱いになりそうです。 跡地も十分そうだろう、という突っ込みが聞こえる(笑) ただ、あちらについては文章のみで、 自分の語りに近いものはすべて引っ込めようと思っているので、 その点が違いますね。 ……コメント下さった皆様には本当に申し訳ないのですけれど、 過去のものはゼロ清算で……。 無かったことにするのはなんであれ卑怯だと思うので、 本当はあんまりやりたくないのですが、 残したままというのもバランスが良くなさすぎて微妙なので。 もう11月ですね。 就職してから、本当に時間が経つのが早いです。 (↑自分の誕生日を指折り数えて青ざめているらしい人) ... やーばーいー - 2006年10月20日(金) ……マフィが、マフィが相当バッドエンドルート…… ちょっと待って、ファイナルイベントまであと1週間よ? ……浮上するきっかけが全滅? 自力浮上は、間違いなく無理。 ほんの少し、ほんの少しの優しさと愛情で立ち直れるのです。 が。 ……そりゃ、状況的に相手も煮詰まって、諦観モードだろうしな……。 ふっ(遠い目) *** 追記 バッドエンドルートはギリギリ免れた模様ですが、 きゃー、爆弾発言かまされたー。 (他の人が反応してないのは、立場の違いで知らされてたせいだ、きっと) ……恋愛ルートもギリギリ可能なようにやっとこ視点変えたというのに。 どうも無駄な努力だったっぽい?(汗) さて。 ……何かまた新しい情報がぼっこんぼっこん爆撃されましたよ? ぎゃー、あと1週間でどうすればいいんだー(頭抱え) *** 更に追記 ああ、5歳ってそういう意味か。 びっくりした。 マフィがショタコン!? とか思っちゃいました。 ……でも、一体どう収拾つけたらいいのかなー(ぼんやり) どうにも、マフィってばひとり、明らかに第3の路線に進んでる。 ……あー、向こう側の偉い人たちとも話さないとダメっぽい……。 ホントに時間、足りないっ!! ... ちょっとものかきモード - 2006年10月18日(水) はふー。 というわけで、2本続けて載っけさせていただきました。 マフィのお話です。 『他郷夢想』の方が向日葵マフィで、 『恋舞蝶々』の方が月桂樹マフィです。 文明レベルが違うのでその辺で楽に書き分けられるはずなのですが、 私が情景描写をしない心理描写ばかりの文章を書き連ねているので、 きっとどっちがどっちやら、という感じかと思います。 文明レベルは、向日葵マフィがガープス・マーシャルアーツ(リプレイ)で、 月桂樹マフィがガープス・ルナルって感じです。多分。 (またそんなガープス知らない人には分からない例え持ち出して……) 心理描写ばかりになっちゃうのは、 マフィの気持ちを、お話に転化させることで整理しているためです。 ですが、どうも文章に起こすのが遅くて、 現在のマフィの状況に文章がついていっていません(爆) タイムラグがありすぎ。 『恋舞蝶々』のマフィの心境は、現在ではちょー過去であります。 自分で書きながら「ああ、あの時はこんな気持ちだったのね」と思いつつも、 反映させるには遅いのです……(滅) どうも「ダフネの割には逃げてないなー、この子」と思っていたはずが、 何だかここ最近で急に揺らぎ始めました。 エンディングも間近になってなにやってるのよー、マフィ。 ……って、違いますね。 これは私が出ちゃってるんだな(遠い目) いざとなるとぐるぐる迷っちゃう私。 決めたはずなのに、いざ道を決めれば揺らぎだす私。 こんなとこで思い知るとは思わなかった……(ごーん) 他人を信じられてない自分が、とても悲しい人間だなと思います。 何かトラウマ抱えてこの世界に生まれてきたんだろうか……。 小さい頃は、そうでもなく無邪気に世界を信じてた気もするのですけど。 とりあえず、もうちょっと。 マフィを見つめて、自分を見つめて、 そんな風に付き合ってみたいと思います。 ... 『恋舞蝶々』 - 2006年10月17日(火) 森からずっと右手に包んだままだった左手を、 自宅の自分の部屋に戻ってようやく解放してやった。 知らぬうちに息をつめていたらしい。 外される右手と共に自然と深く息が吐き出され、肩の力が抜ける。 現れた左手には、薬指に大きな指輪がはまっていた。 はまっているというよりは、通っているといった方がより正しい。 緩いという言葉では足りないほど、リングと指との間に隙間が空いている。 手を下に向けなくても、斜めにした時点で どこに引っかかることもなく落ちてしまうだろう。 その大きな古い指輪は、大好きな人がくれたものだ。 けれどそれには、何の意図も込められていないとその場で知らされている。 何の意図もないどころか、左手の薬指の指輪の意味を知った相手に 「ごめんね」と淋しげに言われたほどだ。 それでも、そのままにして自宅まで戻ってきたのはマフィの感傷だった。 例え偶然だったとしても、浮き立ってしまった心が慰めを欲していた。 現実逃避としか言われなくても、夢を見ていたい気分。 それはきっと相手には重いものなのだろうけれど、今一時だけは許して欲しかった。 泣き出してしまわないように。 「……狡いんだもの」 笑いながら、右手の人差し指で指輪をそっと撫でた。 くるくると回ってしまうそれを苦笑混じりの表情でいとおしく見つめる。 忘れた方がいい。 以前、そんな意味合いの言葉を告げたのは彼だった。 だから、意味も知らずに左手の薬指に与えられた指輪は 本当は外した方がいいのかもしれない。 そうして失くさないように、チェーンに託して首から下げているのがいいだろう。 けれど、忘れられるはずがないと言ったのは自分だった。 (外さない方がいい気がする) それは直感だ。 運命とか偶然の神様とか世界とか、そんな風に呼ばれるものたちに試されている気がする。 覚悟はあるのか、単なる憧れの延長ではないのか、と。 もしそう誰かに問われるとしても、マフィの中では既に答えは出ている。 自覚してからの日は浅いけれど、多分、最初からずっと好きだったのだと思う。 優しい青い瞳も、はにかむような微笑みも、次々に夢を生み出す指先も、 そしてその中に宿る、こころとかたましいとか呼ばれるものも。 理由など無い。 ただ、自分の心が好きだとささやいた。それだけ。 マフィの見えていない部分にどんな疵を負っていたとしても、 ひっくるめて愛せる自信がある。 年齢なんて関係ない、そんな恋愛小説の台詞を思い出した。 今ならあのヒロインの気持ちも良く分かった。 この想いを偽物や思い過ごしだと言うなら、マフィの心すべてが嘘になってしまうだろう。 「好き、ただそれだけ」 そう繰り返す心が、外したくないとささやいている。 理由はそれで充分だった。 したいからする、それでいい。 自分の心には難しい駆け引きも尤もらしい理屈も必要ないのだ。 小物を入れてあるマホガニーのキャビネットに近づくと、 上の扉を開けて、アクセサリーボックスを取り出す。 螺鈿の蝶細工が美しいその小箱は、 去年の誕生日に兄から贈られたものだ。 中には同じ日に姉が詰めてくれた装身具が幾つか納まっている。 少しだけ迷ってから、細い金鎖のペンダントを取り出した。 留め金を外し金細工の蝶のペンダントトップを取り除く。 「エイ様、絶対に忘れろとも外せとも言いませんでしたよね」 指輪の隙間に鎖を通すと、3度絡めてから 余った分をブレスレットのように手首に巻いて止めた。 軽く左手を振ってみると少し心許無いような気がしたから、 もうひとつ、エメラルドの猫のペンダントを取り出し同じように巻きつけた。 ふたつの鎖で指に留められた指輪を見て、マフィは満足そうに微笑む。 「外しなさいって言われるまで、あなたは此処が定位置ですから」 指輪を軽くつつくと、その動きに鎖がぶつかり合ってしゃらしゃらと歌う。 それがまるで返事のように思えて嬉しくなった。 ふたつのペンダントトップを箱の中に戻すと、キャビネットの元の場所に片付ける。 そして窓辺に寄って、未だ暗い空を見上げた。 「どうか……すべての人が、笑顔で暮らせるようになりますように」 祈りの形に組み合わせて目を閉じる。 安逸な世界で幸福に包まれて生きてきたマフィが願えること。 まだ不安定で揺れやすい心ではあるけれど、 世界の幸せを、安寧を、何より願いたいのだ。 あの人の幸福と、同じくらいの重さで。 【了】 ... 『他郷夢想』 - 2006年10月15日(日) ひどくせつない夢を見た。 離れていった体温と残されたぬくもりに一層せつなさを募らせて、 月明かりの下で泣いていた少女の記憶。 彼女はまるでその言葉しか知らないように、 ただひとつの名前を繰り返しつぶやいていた。 薄の穂が淡く揺れる野原。 光沢をもった黒いマントにその身を包んで、 けれど寒くてたまらないのだと言うように全身を震わせて。 夢にしてはあまりにも真に迫った感情が流れ込んで、 マフィの胸も震えていた。 彼女の止まることを知らない切なさと淋しさと、 マフィの感じた痛ましさと労わりの気持ち。 自分には重過ぎる2人分の感情を持て余す。 硬い寝台の上で何度か寝返りを打ってから、 マフィは再度眠りに戻るのを諦めた。 自分の身に掛かっていたタオルケットを剥がして上体を起こす。 心が騒ぎすぎている。 せめてほんの少し、この煩いほどの鼓動が収まらなくては、 眠りは訪れてくれそうも無い。 サイドテーブルに置かれている時計に目を走らせると、 丑三つ時を過ぎた頃合だった。 寝乱れた長い髪に手櫛を通しながら、呼吸を落ち着かせるため深く息を吐いた。 本当は兄に髪を梳いてもらう方がずっと安心感があるけれど、 今、隣で眠っている彼を起こすには忍びない。 軍属の兄は、更にマフィの面倒を見ることで、 多忙に過ぎるスケジュールの日々を送っている。 申し訳ないとは思うが、幼い頃から兄に頼りきりのマフィは 彼の手が無くては生活できない。 それは身体的なものではなく精神的な問題であったが、 今更直すことも出来ないと思う。 甘えることで存在を許されていると感じる自分と、 甘やかすことで自分の存在理由を見つけ出す兄。 それはひどく歪ではあったけれど、いっそ完璧な凹凸だった。 兄の深く低い寝息に耳を澄ませながら室内を見回す。 光度を落とした天井の夜間照明が、薄明るく部屋中を照らしている。 天井へ視線を向ければ、ぼんやりと丸いオレンジの色合い。 それは夢に見た月を思わせて、マフィは目を細めた。 きっと、ただの夢ではない。 マフィのさまよう思考が創り上げた想像の産物ではなく、 多分、あちらの世界の、もうひとりのマフィが経験したことなのだ。 そう思えばまた胸の痛みがぶり返してきそうで、 緩やかに思考を逸らせた。 考えを逸らせるのは、動揺を抑えるだけの意味ではない。 今、ふたつの世界は繋がりかけている。 世界を渡ったこちらの上位階級者たちが、扉を開こうとしている。 壁が薄くなっている今は、 不意の瞬間に簡単にお互いの位相が変わってしまいかねない。 普段は越えるために途方もない力を必要とする境界が ひどく脆くなっているのだ。 それは、ふたつの世界にまたがる空間の異能。 世界そのものが空間の異能を発しているのかもしれない、 マフィはそんな風にも思っている。 ふたつの世界の同じ細胞が繋がり合い、 その中に在る魂が入れ替わる。 感応の能力者として、マフィは自分たちがひどく危ういところに居ると想像できた。 お互いをお互いから隔てあう壁が、きっとものすごく薄くなっている。 それは多分、あちらの彼女に由るところが大きい。 彼女が境界の間近に居るから、 透き通りかけている壁の向こうに姿が垣間見えてしまうのだ。 そうして自分も彼女を思うことで、更に壁は透明になっていく。 破綻の時が訪れるまでの、止まらない循環。 「……それは、嫌」 思わず、吐息のようなささやきが唇を突いて出た。 「マフィ……?」 直後、かすれた声と共に手を引かれて、マフィはそちらへ視線を向けた。 軽く指先に絡んだ大きな手。 力はほとんど入っていなかったから引き抜くことは雑作も無かったけれど、 体温が心地よくて抗うことなくそのままにしていた。 薄く目を開いた兄がマフィを見つめている。 その意識の大半を眠りの中に残したまま、訝しげに顰められた表情。 薄闇の中でほとんど黒に見える真緑の瞳を見つめて、微かに首を傾げる。 「あかり。消したらだめ?」 吐息に混ざるような小声で尋ねると、腑に落ちたのか兄は微笑んだ。 構わないよと短い答えが返る。 マフィは手を繋いだままもう片方の手を伸ばした。 小さなボタンを押すと、電子音と共に照明がフェードアウトしていく。 暗闇の中で、何度か瞬きする。 暗闇はあちらのせかいの夜と同じようで、 けれどまるで違っていた。 星明りに月明かり、息を潜める獣たちの気配、密やかな植物たちの呼吸。 命の密度が違いすぎる。 今この部屋にある命は、マフィと兄とふたりだけのものだ。 そう思えば無性に物寂しさが襲ってきて、 タオルケットを手繰り寄せながら兄の傍へと寝転がりなおす。 ぬくもりがひどく恋しくて、大きな懐に入り込むように姿勢を変えた。 「マフィ?」 「……さ、むい」 淋しいとは何となく口に出せなくて別の言葉にすりかえる。 それでも思いは伝わったのか、自然な動作で腕の中に抱え込んでくれた。 近くなった鼓動の音が嬉しい。 その規則的な音に耳を傾けながら、誘い込まれるように目を閉じた。 そうしていると、苦笑する気配と共に肩があたたかくなる。 まだマフィの体温を残したタオルケットのかすかな重み。 おやすみ、と優しく告げる声音が頭を撫でていく。 目覚めた時とは違って充足感に満たされたマフィは、 うつらうつらと眠りの淵を漂い始める。 離れかけた思考の狭間に、彼女も満たされれば良いのにとマフィは願う。 届くかどうかなど分からない祈り。 そして彼女自身に届いてしまってはいけない祈り。 けれど、彼女にも自分と同じように満たされて欲しかった。 やがて、暗闇に押し包まれた部屋の中。 ふたつの寝息だけが静かに響いていた。 【了】 ... 太陽の娘 月の娘 - 2006年10月07日(土) ……予告するとやっぱり変わっちゃうなぁ。 えー、トップ短文は、 マフィはマフィだけどマフィじゃないマフィです。 マフィ・ベイリーフは月の娘です。 ベイリーフは英名で、月桂樹=ローリエのことです。 今回のマフィは、マフィ・ヘリアンサス。 太陽の娘です。 ヘリアンサスはサンフラワー、向日葵のこと。 (正式には、向日葵の学名はヘリアンサス・アナウスと言い、 ヘリアンサスだけでは、ヒマワリ科の多年草を指しますが) 向日葵の花言葉は、あなただけ見つめてる。 ヘリアンサスの花言葉は、あこがれ・崇拝・誘惑。 一方、月桂樹の花言葉は、光・輝ける未来・勝利・名誉。 ……まあ、何と言うか……。 ふたりのマフィに、ピッタリすぎるほどピッタリです(苦笑) 対の世界のマフィの設定が必要になって急遽作ったのですが、 最初はどんな子にしようか迷いました。 候補 1.今度こそツンデレのマフィ →リベンジしてみる? 2.酷薄なくらいクールなマフィ →世界には似合ってるが演じなきゃなんないとしたら想像がおっつかない 3.マフィと全く同じマフィ →GMさまがイチオシしてたけどあの世界で同じマフィは育たないだろう ……ピンとこないんですよね。困ったことに。 私の場合は、ピンと来るものがなければ何も生まれないという 超直感型イタコ系創作人なものですから、 神さまが降りてこないとちっとも進みません。 ぼんやりと考えているうちに、 ふと浮かんだのは「眠り続けるマフィ」でした。 綾波みたいな感じ(古くてごめんなさい) そのセンでこねこねしているうちに、 マフィ・ヘリアンサスが出来上がりました。 彼女のコンセプトは、水の精クリティです。 クリティは向日葵の花物語に出てくる妖精。 太陽の神さまアポロンに焦がれて太陽を見つめ続け、 やがて向日葵になってしまった……という物語を持ちます。 一方、月桂樹の花物語はと言えば、 河の神さまの娘ダフネが有名ですね。 太陽の神さまアポロンの求愛から逃げて、 自分の父である河の神さまに樹に変えてもらったという物語。 クラシックや絵画の題材になってます。 同じ水に属しながら、 片方は同じ神さまから逃げ、片方は同じ神さまに焦がれて。 そして樹と花とに姿を変えます。 今回、あんまりにもぴたりぴたりとはまったピースは、 完全に後から加わってきたものです。 「マフィが月桂樹だから、もう片方は日のつく樹木がいいな」とか安直に思い至ってのこと。 日桂樹なんてないよな。 日々草は、あれは毎日咲くって意味だしな。 ああ、向日葵って日がつくし、あれは日に向かう花だと思い、 調べてみた学名もヘリアンサスって一見花っぽくないし、と採用しました。 こういう偶然があるから、設定作りは大好きだ!(宣言) ベイリーフのマフィは、動物が好きです。 特に猫が好きで、犬も好きです。 魔導で作るのは蝶々と小鳥です。 ヘリアンサスのマフィは、植物が好きです。 公園で、植物に寄り添って寝る以外の自主的行動はあんまりしません。 毒なのに花を食べちゃって死にかけちゃう、不思議ちゃんです。 どちらも可愛い娘です。 ヘリアンサスのマフィは設定上だけの存在になってしまうかもしれませんが、 ベイリーフのマフィを浮き彫りにさせる存在として とても綺麗な対になったと絶賛自画自賛中です。 ……と、ここまで語っておいてなんですが。 GM様には、ヘリアンサスのマフィは現在確認中です。 丸ごとリテイク食らったら目も当てられません(苦笑) ** (追記) 向日葵マフィの設定は無事に通ったのですが、 1点、上記以外にくっつけた設定のところで引っかかったので そこをどうにかしなくちゃ。 シンくんの役割は譲りたくないんだよね……むー。 どうにか報われない保護者の位置に立たせたいんですが。 ともあれ、太陽と月はちゃんと対になるようなので嬉しいです。 そして早速、太陽のモノローグから 月のせつなさ全開モードへ切り替えました。 ばりっばりにお約束のせつない演出が堪えましたね……。 ちくしょう、絶対幸せになるぜ!(拳にぎって決意) 月下の野原で泣く少女。 こんなに素直に泣いた事って、ここ久しくないかも。 そんなことを思ってみるPL、24の秋。 ぼやぼやしてるとすぐに25になっちゃうなぁと思いつつ、 しみじみと今日の月を見上げるのです。 ... へろへろ。 - 2006年10月06日(金) 体調を崩したかなぁ、という感じです。 職場でみんなが風邪引きまくりなところへ持ってきて、 今週はちっとも仕事が捌けなくて(片付けても片付けても積み上がっている感じ) いつもにも増して疲れてもいたし、 寒かったりもしたし。 他にも色々と重なった挙句、昨日今日と明らかに体調が悪いです。 それでも今日は無理押しして出勤して、 (どうしても今週中に上げなきゃならない仕事があったので) 午前中から「後はやるから、帰って良いよ?」と相方に気を遣われ、 デスクで死んでたお昼休みの頭に 隣の席の解析者さんに「ゆきの(仮)さん、大丈夫ですか……?」と言われ、 それでも残り半日頑張ろうとしていたのですが、 13時半頃にギブアップして途中退社してきました。 家に帰ったら「あんた顔が青いよ」と母に言われる始末です。 それから夜まで、お部屋でくったりとお休みしてました。 この頃は、アルコールとカフェインの類を 意識してほとんど口にしていなかったのですが、 こういう時には、 インスタントの珈琲をあたためたミルクだけで淹れて、 少しだけお砂糖を落とした飲みものが愛しいです。 ほんのりの安心風味です。 今も隣に置いて、ぬくぬくしながらこの日記を書いています。 それほど長引かないとは思いますが、 土日はゆっくりお休みの時間を取ろうかなぁと思ってます。 >みゆちゃんへ もう遅いかも? 私は無花果得意じゃないですが、 親は(特にうちのままんは)好きですよー。 みゆちゃんのお菓子だったら、食べてみようかなと私も思う。 作っちゃったけど里子先が無いわーとかあったら、 特にままんが喜ぶと思います(笑) 月曜日のデートは……安城、豊橋、田原。 移動だけで結構時間取りそうなので(おしゃべりドライブも好きだけど) お昼&夜がお外でご飯になりそうなのだけど。 予算的に結構大変かな?(私は平気だけど、お安い感じに上げるプラン考える?) それか、お買い物とカラオケ、どっちかだけにする? 両方コースなら、 午前中に安城に出て、ちょっと遅めのお昼くらいで豊橋のメランザーネ、 お昼の後、田原に戻ってきて歌って、 夜をどうするか……ってところかな? 歌って、お昼にメランザーネ、午後から安城でとかってのもアリかもだけど。 そしたら、お昼のイタリアンは止めて、 お夕飯を安城のパスタのお店っていうもプランも考えられる。 豊橋のお店は、少なくとも年内中は比較的出かけやすいだろうし。 どうしようー? ... つれづれ - 2006年10月04日(水) というわけで。 いつものペースで、かきものの翌日の解説コーナーです。 こんなもの要らないと言えば要らないんですが、 言い訳せずには居られない、そんな私です。 『誓い』。 率直と言うか、何ともストレートなタイトルです。 書きあがったときにはこれしか無いと思ったのですが、 打ち込んでみると非常に照れくさくて仕方ありません(苦笑) 不器用なくらいに真っ直ぐなのがマフィなんで、 その辺りは表現できてるかなーって気もしますが。 お話の中身は、以前に日記で軽く話題にした、 マフィ・ベイリーフを題材にしたものです。 絵にするとせららんになってしまう、 15歳つるぺったんのおかっぱ少女です。 大方の方が気付かれたのではないかと思いますが、 (分かってもらえるように書いたつもりなので、 気付いてもらえなかったら私の筆力不足) トップの短文と同じモチーフです。 モチーフというか、トップの短文がマフィなのです。 今回と、記憶に残っている方が居るかどうか分かりませんが、 前回の分と2回分、マフィの心象スケッチです。 これから最長で約一ヵ月半くらい、 マフィで引っ張る予定で居ます。 本当は最後までマフィと言うことは内緒にしようと思ったのですが、 純真印のひたむきで一生懸命なマフィは、 今回も前回も非常に乙女回路大爆発で、 自分のキャラだと言うのに 転げ回りたいくらい照れくさくなっちゃう感じです。 なので、もし万が一、誰か一人にでも 「何かゆきのさん、恋する乙女(と言う年齢でもないかも)?」 とか思われたら……と想像すると、 七転八倒してのたうちまわって逝きかねない恥ずかしさだったので、 先に「これが犯人です」をしておくことにしました。 まへ(マフィのこと)は、 15歳だから許される不器用さと率直さが特徴の少女です。 その特権を、大バーゲンで放出したいと思います。 マフィと言う少女は、very likeとloveの差が分からない、 そんな無邪気で真っ白な少女のままで行くつもりでした。 そして『初恋とは気付かないままに失恋』、 もしくはレベルアップして『叶わない片恋に殉じて死にフラグ』、 どちからのお約束を踏襲しようと予定していたくらいで。 なのですが、どうも周囲の状況や 私の演技力が無理っぽい感じで、 (最初は純真系じゃなくてツンデレ系の予定だったしなぁ……) どうも恋愛感情自覚し始めましたよこの子という感じです。 かと言って、シェリス・アジャーニ系路線(性格除く)も無理っぽいし。 ……でこちゅーは衝撃的でした……。 いや、まあ、半分は私が招いたことでもあるんですがね。 保護者モードに寄れる余地を残しておいたつもりなので、 残り半分はお相手様の選択によるものです(たぶん) 野原の真っ只中、やってる本人がギブアップ寸前の リリカル砂糖菓子めるひぇん。 青息吐息で演じてましたよホントに。良く正気が保ったなー……。 春の野原で綿毛が飛びまくる、そんな幻影が見えました。 そんなマフィの現状は文章の通りで、 リリカル砂糖菓子乙女回路は一時封印中で、 がむしゃらなくらいひとりで動き回っています。 のんびりしてると、「彼」が逝っちゃいそうで逝っちゃいそうで……。 近く、おっかない山場と対面する予定。 殉職しないと良いなー(遠い目) マフィ自身は、恋だと気づいたとしても 成就させる気は無さそうな感じの子ですが、 (相手が幸せなのがいちばんの幸せ、って思う性格に設定してるので、 自分から積極的にアタックしていくタイプじゃないのです。 恋愛以外には結構アクティブだと思うんですけど) 今後どうなるのか、私自身非常に楽しみにしています。 (乙女回路に耐性つけないと……ふふふ) では、最後にマフィの現在の言葉をー。 (また昨日の文章とは一転してますが) 「いちばん大事なもののこととか、 ずっとずっと考えてるうちに思ったことがあるのです。 騎士と魔導士の印であるこの天秤は、 どちらかへ傾けるためにあるのではなくて、 両側をつりあわせることが本当の役割なのではないかと。 だから、片方だけを選ぶなんて、マフィはしないことにします。 欲張りでも、両方手に入れたいのです。 心の天秤がつりあっている以上、どちらも大事なのだから。 ……え? エイ様? ええと、エイ様はちょっと次元の違う、特別です。 天秤のお皿に乗る存在じゃなくて、……そうですね、天秤の要なのです。 マフィの天秤にとって、無くてはならないものなのです。 だから、絶対に失くせませんのですよ。 要が無くなった天秤は、使い物にならなくなってしまうのです。きっと」 ... 『誓い』 - 2006年10月03日(火) 羊皮紙に走らせていた羽ペンの動きを止めると、 知らぬうちに前屈みになっていた背を伸ばした。 目を閉じながら胸を逸らすと、 上半身に凝っていた疲れがすっと消えていくような気がした。 ついでにペンを机の上に転がすと、 天井に向けて腕を上げて伸びをしてみた。 そうして、息を吐きながら一気に力を抜く。 書類の文面で埋め尽くされていた思考回路から何もかも抜け落ちて、 視界までも綺麗になったような気がしたから、 マフィは嬉しくなって思わず笑ってしまった。 幼い面立ちに浮かんだ無邪気な微笑みは、 けれどすぐに消えてしまう。 魔導士団の資料室。 マフィが占領した窓際の一角からは静かな佇まいの離れが良く見えた。 淡いグリーンに塗られた壁が目にも落ち着くそこは、 主に騎士団の団員が利用する救護室でもある。 激しい訓練の合間や後に、怪我をした騎士たちがひっきりなしに訪れる。 騎士団専用の施設と言うわけでもないのだが、 騎士と対に扱われる魔導士団の専任業務はいわゆる文官仕事が多く、 日常的に怪我をする団員があまり居ないのだ。 勿論、騎士のように武芸を磨こうという魔導士も居ることはいるし、 魔導の研究に熱心になるあまり寝食を忘れて倒れる人間や、 危険な薬学の研究で計り知れない被害を出したりする者も 多少ながらに存在するが、 それはあくまで一人握りである。 魔導は、慣れた者ならばぶつかっても大した衝撃にはならないため、 実戦向きの魔導の訓練でも、治療が必要なほどの怪我を負うことはほとんど無いのだ。 今朝方、マフィは救護室へ届け物をしてきたばかりだった。 届け物は都の外にある森の泉で汲んできた水。 薬の調合にも、傷口の手当にも使えるような新鮮な水。 一抱えもある籐のバスケットいっぱいなるほどの 汲みたての水をつめた陶器の瓶は、 通勤時間が倍になる程度には重い荷物だった。 いつもよりもずっと早い時間に起き出したはずなのに、 泉まで足を伸ばし、帰りは大荷物を抱えての徒歩は 思ったよりも随分と重労働だった。 余裕を見るつもりで、 今朝の朝ごはんは片手で持てるサンドウィッチを作って 泉で水を汲みながらいただいたのだが。 何もしないでは居られなかった。 重傷を負って寝込んでいる上司の姿を思い浮かべるだけで、目じりに涙が滲む。 本当に目の前にしたら絶対に泣いてしまうと思ったから、 彼が倒れて数日経った今も、マフィはまだお見舞いに行けずにいた。 その知らせを聞かされた日に、泣かないと決めた。 薄いヴェールを被ったまま、 ちっとも正体を掴ませないこの不可解な事態が解決するまで。 ……せめて、彼に降りかかる問題の欠片でも掴めるまでは、と。 数日前まで、不安定な事態に心を砕き迷っていられたのは、 世界が揺らごうとも彼が笑っていてくれるからだったのだと思い知った。 一番大事なもの。 それは自分を生んでくれた両親でも、仕事で遠方に不在の兄でもなく、 幸せそうに、時にからかうように、マフィの前で笑って見せてくれる彼だ。 今は間違いなく、そう断言できた。 他のものと迷ったりなど出来るはずも無い。 本格的に滲んできた涙を堪えるために、 マフィは窓に向けていた視線を膝の上に戻してきゅっと目を閉じた。 空の両手でワンピースの裾を握り、唇をかみ締める。 呼吸を止めた。 胸の中で暴れている気持ちに手綱をつけて、衝動を堪える。 泣いちゃダメ。 泣いちゃダメ。 泣かないって決めた。 今まではこれで収まったのに。 なぜだか今は、言い聞かせたぶんだけ余計に涙が零れてきそうで、 マフィは混乱した。 泣かない、と胸の中で繰り返し言い聞かせる。 強くなりたかった。 泣いてもどうしようもないのだ。 どうにかしたいと思っても、 思っているだけでは、現実はすぐに姿を変えていってしまう。 掬い上げた手のひらの水のように、ひっくりかえした砂時計の砂のように。 待っているだけでは、 見えない刃のように襲い掛かってくるそれを、 魔導士団を仕切る立場にある彼が一身に受けなければならないのだ。 嫌だった。 もうこれ以上、傷ついて欲しくない。 刃物で襲われて、目を覚まさないほどの重傷を負った。 それでもマフィには充分過ぎるほどなのだ。 左手を上げて、額に人差し指で触れた。 額の中央。 まだ覚えている感覚。 彼が襲われる前日、おまじないと言って、ここに触れたものがあった。 ほんの束の間だったくせに、 とんでもない衝撃をマフィにくれてしまったそれ。 無意識に怖がって見えないようにと作っていた壁を 一気に吹き飛ばしてしまったぬくもり。 選びたいもの全部選んじゃえばいい。 そう言って、マフィは出来ると、保証してくれたから。 泣くことなんて選ばない。 もっと選びたいものはたくさんある。 ひとつも見逃さないためには視界を滲ませている暇なんてない。 世界に掛かった薄いヴェールを潜り抜けて、 出来るなら全部引き裂いてみせる。 嘘なんて嫌い。 なぐさめるための仮のぬくもりなど要らない。 真実を伝えていないかもしれない噂も信じない。 震える胸を宥めるために、大きく深呼吸した。 もう一度。 もう一度。 そして何度でも。 やがて吐き出されるように消えていった衝動が落ち着くと、 マフィは顔を上げた。 真緑に見えるほど強く鮮やかな瞳。 意思のこもった眼差しで前を見据える。 泣かない。 額に残されたぬくもりと同じように、 それは自分が自分に架した誓いだ。 もっと安心できるようになったら、その時に泣けばいい。 あのひとの役に立ちたくて魔導士になったのだから、 今の状況を止めることも、 倒れたあのひとを守ることもしてみせる。 何度目かになるその誓いを心中でつぶやくと、 マフィは静かに羽ペンに手を伸ばした。 早く仕事を終わらせてしまおう。 今日こそ、見えないヴェールの端を掴みたいと思うから。 開け放たれた窓から入り込んだ初秋の風が、 静かに少女の黒髪を揺らしていった。 【了】 06.10.03 ... 博物館日和 - 2006年10月01日(日) 今日は地元の博物館の無料開放日だったので、 桃缶がお休みになって予定の空いた日曜日、 雨にも負けず、てふてふとお出かけしてみました。 田原というと、幕末の偉い人(もうちょっと日本語表現考えろ)、 ……ええと、今日ちゃんとお勉強してきた肩書きだと、 田原藩の家老をつとめ、画家で蘭学者でもあった渡辺崋山の出身地です。 (生まれたのは江戸にあった田原藩のお屋敷ですが) 絵画のことは良く分かりませんが、 日本画に西洋画の遠近の技法を取り入れたのは崋山なのだそうです。 飢饉に備えて「報民倉(ほうみんそう)」を設置し、 江戸時代の何だったかの飢饉で、全国で唯一餓死者や流浪者(だっけ)を 出さなかったので幕府に褒められました。 で、蛮社の獄(蘭学者の弾圧事件だそうです)で捕まってしまい、 『慎機論』というご本を書いたことであわやピンチだったんですけど、 画家仲間や弟子が東奔西走、 勉強のお師匠様が病気の老体にムチ打って偉い人に手紙を出してくれたりした結果、 藩に戻って蟄居しなさいの軽い罪で済んだのですが、 (一緒に捕まった高野長英は投獄されてます) 色々あった挙句、田原藩のお殿様にご迷惑掛けちゃなんねぇ、と 2年後に自刃によって最期を遂げました。 高校の日本史の教科書に出てくれば出てくるかも、くらいの あんまり全国的に有名ではない気がする、 そんな田原の偉い人、渡辺崋山。 困ったことに、私、あまり知らずに育ちました。 というか、半ばムキになってあんまり情報仕入れないようにしていた感があります。 ……というのも、私が住んでるのは田原でも隅っこの方で、 田原の町中ではなく、田んぼとか畑の方なのですね。 田原藩で偉い人だった渡辺崋山は、郷土の旗印になるわけなのですが、 うちの地元の場合、特にその教育が顕著なのは小学校です。 田原の町中にあるいちばん大きく歴史の古い小学校では、 毎年、学芸会で崋山劇と呼ばれる渡辺崋山の劇をやっています。 で、どこにでもあることかなーと思うのですが、 特に私の通ってた小学校は、 入学当時、創立10年にも満たなかったような新しい学校で、 町中のその小学校の子達からは格下扱いされていました。 (彼らにかかると、他の小学校は全部格下みたいですが) ……まあ、そんなこんなで意地を張ろうとすると、 こちらの言い分は「歴史の教科書に載ってないレベルの人じゃん?」と。 それでおおっぴらにケンカするようなことは無いのですけれど、 町中の子達やいわゆる当時の城下に当たる部分に住む人々が 誇らしげに「崋山」と言う度に、 ちょっと冷たいもの漂わせる子が出来てしまうことになったわけなのでした。 ですが、この頃は外へ外へと出て行くに従い、 (トヨタ系列に勤めてますので、全国各地の出身の人が居ます) 自分の地元のことをちゃんと話せない人間って 恥ずかしいんじゃないかと思うようになりました。 というわけで、ほてほてと出かけた今日のこと。 博物館は田原城址の中にありまして、 同じ敷地内には、巴江神社という神社もあります。 (先日日記に書いた田原のかさぼこ祭は、この神社のお祭りになります) 駐車場から、緑でいっぱいの外堀(という看板が立っているところ)を通り、 古井戸の前を抜け、階段を上がります。 今日は雨でしたけれど、水と緑の匂いがとても気持ちのいい場所で、 また晴れた日にゆっくりしたいなと思ったり。 ……ところで、皆様、東三河が邪馬台国だった、って説、ご存知ですか? 九州と畿内の二説が定説で争われているのですけれど、 持統天皇の三河御幸をきっかけにした(?) そんな説を紹介したご本も出ていたりするのです。 (そして地元愛ゆえに、買ってしまう私。読みきってないけど) そのご本に、巴江神社も載ってたなーと思い、 そういえばお参りしたことないやと思って、 博物館に行く前にそちらへご挨拶を優先することにしました。 朝から雨で神社の敷地内びしょびしょなんですけど、 革靴履いてたのでめげません(笑) 鳥居の端っこをくぐり、 お手水で手を洗って、 また参道の隅っこをてくてく歩いてお社へ。 お賽銭入れて、二礼二拍一礼。 それから、お隣にあるお稲荷様のお社を覗いて、 お社の隣にお稲荷様の奥の院と看板があったので 朱色の鳥居がだだだだだだだーっと並んでいるそれも覗くだけにして、 (結構暗いんですよ。途中曲がってるし、先が見えないのが怖くて) 更にお隣の大きめのお社も覗くだけ。 こちらは戦没者の方の名前を刻んだ碑が傍にありましたので、 そちらの関係のお社かなと思いますが。 祭神が気になりつつも、 雨なのであまり長居するとそそっかしい私は 博物館に寄れないレベルの濡れ方をしてしまいかねないと思って、 すごすごと引き返しました。 そうして歩いていると、横っちょから声がかかりました。 社務所の所に、男の方が座っていてその方のようでした。 最初からそこにいらっしゃるのに気付いては居たのですが、 (それも怖いの一因で、奥の院に足を踏み入れなかったのですが) 雨が結構激しく降っていて、 傘にぼこぼこ当たるせいで何を言っているのか聞き取れず、 無視するのも微妙なのでそちらへと足を向けました。 近づくと分かったのですが、どこから来たのかと尋ねられていました。 こんな雨の日にわざわざお参りしてる一人の小娘。 そりゃ地元の人としては気になるわ、と思いましたので、 (特に、町に住んでる人はお祭りもあって神社を大切にしてますしね) 素直に住んでる地区の名前をお答えしました。 小父さま(30後半から40前半くらいの年齢にお見受けしました)は、 雨で区のソフトボール大会が中止になってしまって、 お弁当を配って、何か連絡を待っているそうでした。 不意の一期一会はいいものですね。 そんなこんなで少し田原のお話をしてあったかい気分になったところで、 お別れして博物館へ。 今の時期の特別展は、 崋山のお弟子さんの一人であり、 崋山が自刃する切っ掛けのひとつを意図せず作り出してしまった 福田半香(ふくだはんこう)という画家さんの展示です。 これを見る目的もあって、今日、足を運んだのです。 企画展の博物館、入館料に500円掛かるんですよー。 他に交通費が掛かるわけでもないし、 お財布にそれほど響く額ではないですけど、 折角無料開放日に行けるのですしね。 福田半香は遠州の方で、山水画を得意とする画家さんです。 同じく崋山門下の椿椿山(つばきちんざん)が花鳥画を得意としたため、 師匠に褒められた山水画の研鑽を積んだのだとか。 西洋画はおろか、日本画も全然分かりませんが、 とりあえず、自分の眼力を鍛えましょうという感じです。 何でも見ておこうの精神。 見ておけばおのずと本物が分かるようになるさ、みたいな。 (えらく希望的観測ですが) ……やっぱり良く分からなかったので、 もう一度観に行こうかと思います。 今日は崋山のこと覚えるのに一生懸命で、 先にそっちの方で脳みそ使い果たしちゃったような感じでした。 (休憩入れて見るとかすればよかったですね) ああ、頑張れ私のお脳。 麻婆豆腐になるのはまだ早すぎてよ! 誰かと比べても仕方ない。 つい比べてしまうのは、悪いクセ。 羨んでも仕方のないことだから、 それより、ちゃんと自分自身と付き合っていきましょう。 いつもめげちゃうけど。 つい逃げるクセがついちゃってるけど。 見失っている大切なものを、取り戻しに。 見えていない大切なものに、気付くために。 誰の中にも光の価値はあるのだから。 ……そう、私の中にも。ね。 ...
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