手繰る
     2006年06月27日(火)

それは
むかし制服の胸ポケットに入れたまま
どこかに仕舞い込んだもの
あるいは
去年手帳から破って捨てた
ページの裏側に書かれていた言葉
あるいは
一昨日わたしのあごの下を
かすめるように飛んだ 蝶

風か翅かが耳を撫でて
ぎくりと首を竦めてももう
あごの下より背中より
見えぬ届かぬ曖昧に
蝶はとけて 消えている

あるいはそれらは
きのう 君に返した
本のあいだに挟まっていた 栞

     喫茶店にて
     2006年06月14日(水)

珈琲のかおりがする
向こうを秋が歩いている

しんとして
目を閉じて
聞いている
ぬるい空気の中でも
後悔のように冷たく濡れる
かおりの向こうに透けるものが
そろりと足を撫でていく

にがい
あまい
ひとり

居心地悪く身じろぎをして
手の中の珈琲が冷えていく
ああ
うん
そう
相槌ばかりの会話のように
かおりは無口になっていく

向こうを秋が歩いていた
窓の向こうに透けていた
夕暮れ
静か

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