明後日の風 DiaryINDEX|past|will
夏本番。 山頂直下の「肩の小屋」で買った冷たい烏龍茶で体が再生したのをいいことに、高山植物の咲き乱れる最後の尾根を、ホイホイと登っていく。クールダウンの効果は計り知れないというところだろうか。ハクサンフウロや、ニッコウキスゲ、これほど花が咲き乱れる山とは知らなかった。尾根の下には、湯檜曽川が造った断崖が広がっている。 「う〜ん、次はあの尾根を歩きたい」 20年前、この笹原の山並みに触手を動かされたその上信越国境の尾根筋は、同じように続いている。
小屋の外に出ると、真っ青な空が広がっている。 初秋とは違う、初夏の山が、そこに広がっていた。 雲海に富士が浮かぶ。そして、鳳凰三山の最高峰、観音岳への緩やかなカーブが続いている。 言葉は要らない。
古い6件の宿が並ぶ小さな温泉場。 ほどなく道は樹林帯に入り、天狗の露地を見物。 あいにく、曇っていて、下界が見えない。 最後のザンゲ坂を登る頃には、ぽつぽつと雨が降り始め、将軍平の小屋に逃げ込む。 大粒の雨がバリバリと屋根にぶつかっている。 急登続きの道を40分で駆け上がってきたのだ。さすがにつらい。ゴクゴクとペットのお茶を飲みつつ、とっておきの「あんぱん」を頬張る。 ここから岩の続く急登を登れば山頂だ。 雨はすっかり止んでしまい、一面の岩の平地である山頂は一瞬晴れた。奥宮にお参りをする。それまで霧に包まれていた山頂が、一瞬晴れたのだ。 山頂直下の蓼科山頂ヒュッテに入る。 「ピアノ触って行ってよ」 と小屋の管理人さんが声をかけてくれた。 ラベルとショパンを弾いてみた。湿気で不意に鳴らなくなる鍵盤との格闘は相変わらずだが、ここでアコースティックのピアノが弾けるということ自身が幸せだ。 不意に入ってきた一人の若い青年が、ラーメンを食べながら聞いてくれている。たった一人の観客が拍手をしてくれた。ちょっとばかりの気恥ずかしさとうれしさを交錯させて、時間は過ぎていく。
さわ
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