-殻-

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2004年07月29日(木) 融解

そういえば、ここしばらく君とあの店に行ってないね。
毎週のように、仕事が終わってから二人で行ってたのに。

そうか、最近は出張が多かったからなあ。
出張は大抵君と一緒で、食事は必ず二人でしてるから、
あの店に行ってないことに気付かなかったな。

久しぶりに誘ってみたら、あっさり了解。
ちょっと張り詰めていた空気が、急に緩んでしまう。

僕の調子がよくなくて、ろくに口を利かない時もあって、
君はてっきり僕が君のミスに怒ってると思い込んでいて、
すごくぎこちない時間が一週間くらいあった。

結局は何でもなかったんだけど、
一度微妙な距離を感じてしまうと、
僕らはどうにもそれをうまく修復できないんだ。

まるで付き合い方を知らない恋人同士みたいだと、
僕はそう思ったりするんだけど、

君にとっては、大した問題じゃないというだけなんだろうな。


久しぶりに、馴染みの席で君と刺身を突付きながら、
僕はずいぶん機嫌がよくなってしまった。
言わなくてもいいことも言ってしまったような気がするけど、
君はきっと、それが君のことだとは気付いていないだろうね。

気付いていないならそれでいいし、
気付いているのに気付かない振りをしているなら、
何かのきっかけで転がり始めるだろう。

人生は短い、行くしかない。

なんて、誰かが唄ってたのが、妙に耳について。
確かに時間は残酷に過ぎていくし、僕は年を重ねる。
馬鹿な博打に打って出るのも初めてじゃないし、
失うものは少ない方がいい。

身を任せてみるのも、いいかも知れない。

僕の話を根掘り葉掘り聞いておきながら、
自分のことはほとんど語らない君を見つめながら、
また暴走しかける自分を、必死に抑える。


2004年07月28日(水) 冷房

仕事場の冷房は、天井から吹き降ろす造りになっている。
僕の左隣には君がいて、君の真上に吹出し口がある。

涼やかな風は、君の狂おしい匂いを巻き込んで僕に流れてくる。
溜息をつく振りをして、君の匂いを胸いっぱいに吸い込む。


気が遠くなる。


このまま君を胸の中に留めたいのを堪えて、ふうっと息を吐く。


この季節、空調は一日中、朝から晩まで付けっ放し。
机に貼り付いている間はずっと、君の匂いから抜け出せない。


僕を狂わせる気か、この風は。


君を力尽くで抱き締めて、その匂いを貪りたい衝動を、
この暑い夏の間中、抑え込める自信がないんだよ。

でも、もし僕の理性とか社会性が弾けて、君を抱いてしまったら、
君は二度と僕に笑いかけることはないんだろうな。
それは分かってるんだ。


だから、
血を吐いてでも、僕は耐えなきゃならない。



君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕のものじゃない。
君は僕の




2004年07月25日(日) 着地

目が覚める。

あれ、ここはどこだっけな。
枕が違う。布団の感触も。
匂いがいつもと違うし、朝陽の向きも違う気がする。

目を開ける。

見慣れない部屋。
ああ、思い出した。ここは、島だ。
日常ではない、海の向こうの、小さな島の旅館だった。

いつの間に眠ってしまったのか、よく覚えていなかった。

他のみんなは、まだぐっすり眠っている。
時折、鼾が聞こえたりして、なんだかくすぐったい感覚。
どんなに仲のいい友人でも、ここまで無防備な寝顔を見ることなんて、
そうそうあることじゃないからね。
しかも7人まとめて。

部屋は一室しか借りていないから、あの子も野郎どもに混じって雑魚寝している。
前にも見たことはあるけど、本当に死んだように眠るんだな。
息をしてる感じが全くしない。
ちょっと怖くなったりする。

ずいぶん、髪が伸びたな。

などと思ったりする。

そのうち、また僕もうとうとと寝入ってしまった。

****

「朝ごはんだよ!!!」

あ、はいっ!!寝てませんよ。起きてますとも。

と言いたいところだが、女将さんに起こされるまで僕らは誰一人目を覚まさなかった。
気が付いたら、もう8時半だった。
八割方閉じたまんまの目で、僕らは食堂へ降りた。

昨日はしゃぎすぎてすっかり燃え尽きた僕らは、
それでも朝ごはんをぺろりと平らげた。
顔を洗って、部屋でぼーっとテレビを見ている。
傍から見れば異様な風景だろうが、僕らは何とも思っていなかった。

「さ、行こうかあ。」

誰ともなく言い出すと、荷物を担いで旅館を出た。

****

この島は本当に小さい。
ふらふらと歩いていると、いつの間にか島の反対側にきている。
昨日さんざんビールを飲んで陽に焼けたビーチの、ちょうど逆側だ。

近くの店で、全員がかき氷を食べた。
何となく暗黙の了解で、みんながみんな違うシロップを頼む。
イチゴミルク、メロン、抹茶、コーラ、ブルーハワイ、レモン、
これでもかとばかりに人工着色料のオンパレード。

キンキンする頭を抱えて、浜辺に行ってみる。
今日もいい陽射しだ。
二日酔いも手伝って、頭がいい感じにぼうっとする。

適当に時間を潰して、昼近くなって帰ることにした。
8人いるなら水上タクシーなるものが安い、と聞いて、お願いしてみた。

乗り場で待っていると、ボートが現れて、
舳先を頭から乗り場にくっつけたかと思うと、
まるでSF映画のように「ういいいいいいん」とハッチが開いた。

「なにこれ!?なにこれ!?」

昨日の酒と疲れで、無意味にハイテンションな僕らは大騒ぎ。
僕らが乗り込むと、また「ういいいいいいん」とハッチが閉じて、
途端にボートはものすごいスピードで走り出した。

「おお、なにこれ!?なにこれ!?」
「はええ、はええよ!!!」

またも無意味にハイテンションな僕ら。
しかし、本当に速かった。
10分もせずに対岸に着いてしまった。ちょっと残念。

****

港の駐車場からの帰りは、日常への帰路でもあるわけで。
週末をこれでもかと楽しんだ充実感と、明日への憂鬱を抱えて、
なんとも言えない複雑な空気。

でも、

束の間日常から切り離されて、
頭を空っぽにできた事実。

久しぶりの深い深い眠りに、
全てを委ねられた事実。

それが、僕の張り詰めた神経を、
ゆるりゆるりと解してくれたんだ。

そうやって僕らは、日常を抜け出してはまたそこに帰っていく。
日常があってこそ、非日常もある。
うまく飛び立って、うまく着地するために、
滑走路をいつも磨いておかなくちゃならないんだ。


また、飛ぼうよ。


また、そんなに遠くない未来に。



2004年07月24日(土) 脱出

今日から1泊2日で、同期8人で旅行。
距離としてはそんなに離れてないけど、何と言っても「島」なのだ。
海を渡るっていう行為は、日常と僕らを切り離してくれる。

みんなは港までの車の中で、ビールを開ける。
旅立ちのテンションというのは、いい感じの逸脱を誘う。
僕はドライバーだったので、ちょっとの間だけ我慢。

港までは一時間半ほど。
混み混みの駐車場で、縦列で無理矢理車を停める。
高速船のチケットを買って、ぞろぞろと船に乗り込む。

今まで我慢していた僕も、席に着くなりクーラーボックスからビールを一本。
隣で酎ハイを開けるかどうか迷っていたあの子は、
「暴走し始めたら止めてね」と断りを入れてから思い切って缶を開ける。
(最近飲み会で泥酔して大暴れしたらしく、公的には禁酒中なのだそうだ)

島まではほんの20分。
その間に僕ら一行は既にほんのりいい気分になっている。
港に着いて、宿の迎えのバスを待つ間、炎天下でぼーっとしている。

すぐ近くの交差点には信号機が立っている。
こんな昼間から、赤点滅・黄点滅。
となりに、何やら書いた看板のようなものがあった。

「この島でただひとつの信号です。
 この島の子供は、これで交通の勉強をします」

と書かれていた。驚き。
そんなこともあるんだ。
でも、そんな大事な信号が動いてなくていいのかな・・・?

それに、さっきから目の前をびゅんびゅん通り過ぎるスクーター。
誰一人、本当に誰一人ヘルメットを被っていない(実話)。

あ、迎えのバスが来た。

***

とりあえず宿に荷物を置いた。携帯も置いていく。
タオルとサンダル、ビールを詰め込んだクーラーボックス。
それだけ持って、いざ浜辺へ。

ちょうど日が一番高くなる時間。
パラソルを借りて、砂浜に茣蓙を敷く。
4人は早速海に飛び込み、僕を含む4人は日陰でビールを呷る。

僕はぎらぎら照付ける太陽に足を伸ばして、上半身をパラソルの影に入れる。
狭い日陰に四人が犇めき合って、ちょっと異様な眺めかもね。
でもおかげで、あの子の身体が僕の鼻先にある。
日焼け止めの独特の匂いが鼻をくすぐる。

程よく酔ったところで、僕も足だけを洗いに水際へ行ってみた。
じりじりと焼け焦げた砂の上をひょこひょこと歩いて、
貝殻の欠片がざらざらする波打ち際に足先を浸ける。
思ったよりもずっと冷たい塩水が、足元に寄せては引いていく。

ああ、気持ちいいなあ。

ハイネケンの緑色の缶を片手に、少しだけ傾いた陽光を浴びる。
水平線があまりにも眩しくて、目を細めずにいられない。
アルコールも回ってきて、まるで夢を見てるようだ。

頭の芯から、何かが抜けて行ったような気がした。

***

その後もたっぷり飲んで、沁みる日焼けを我慢しながら風呂に入った。
夕食は食べ切れないほどの魚介類。そしてまたビール。
浜辺に出て、お約束の花火。ワインを呷る。
宿に戻って、冷やしておいたスイカに齧り付く。

何故だかあの子がいつも僕の隣にいるんだけれど。
妙に自然にいるから、却って不思議な気分になる。

まあ、僕は君の保護者みたいなものだからね。
と、酔った頭で偉そうな独り言。

何もかも、日々の暮らしではありえない空気。
大したことではないのかも知れないけどね。
日常と違う、ということが大事なんだ。


追加のビールを頼んで、一口飲んだところで、
どうやら僕は眠ってしまったらしい。
とても久しぶりの、深い、深い眠りだった。


2004年07月14日(水) 暴走

君の匂いをかぐと、何もかもどうでもよくなるんだ。


脳髄に沁みる感覚。
ぎゅううん、と、頭の奥の奥が微かに痺れる感じ。


なのに、僕は君を何故か冷たくあしらってしまう。
制御できる領域を越えてしまった。
統一性のない、子どものような、行き当たりばったりな態度。


君を不安にさせたい。
その匂いを纏わり付かせて、僕に擦り寄って。


心配そうな瞳で、僕を見上げて欲しいんだ。
アタシヲキラワナイデ、って、その顔に浮かべてよ。


壊れた欲望は、寝不足のアタマで加速していく。
そうしていつの間にか、目の前にいる君を見なくなっていく。


何度も繰り返してきた、愚かな、暴走。



2004年07月13日(火) 粉飾



みっともない生身の身体を見られたくなければ、

大き目の服を羽織って、

決して脱いじゃいけないんだ。

その醜い輪郭すら、

覆い隠してしまわなければ。

想像の自由を、

確保してあげなければ。


2004年07月12日(月) 挫折

今、テレビで桃井かおりが面白いことを言った。

「自分を持ってる男なんてダメなのよ、挫折するから。

30過ぎるとボキボキ折れてくから。」

なるほど、と思ってしまった。


僕は、30を過ぎて、折れ始めてるのかな。

自分が信じるように進んできたつもりだけど。


「どうしようもなさ」っていうのは、

実にどうしようもないもので、

この無意味な挫折衝動は止め難い。


馬鹿みたいに取り返しの付かない無茶をして、

身体とココロに支障を来たして、

君に抱き締めて欲しいなんて妄想している。


そんな壊れた自分を、欲している。

壊れたい自分に、酔っている。


2004年07月11日(日) 麻薬

いい夢を見るなんて、今までの人生で数えるほどしかないのに。
そんなに僕は君を欲しがっているんだろうか。

はっきりした場面は、僕の夢には出てこない。
僕が普段認識している風景や人の印象が、そのまま見える。

あれは多分、そう、来週出張で一緒に行くはずの、新宿の街だな。
たぶん西側の、どこかの横断歩道だった。
僕等はスーツ姿で、君は僕の左側を、寄り添うようにして歩いている。
僕が左肩越しにちょっと見下ろすように君の顔を見る。
君はいつものように、ちょっと視線を外し気味に呟く。

「例えば、しんくんと結婚とか・・・。」

みたいなことを言っていたはずだ。
(僕の夢の中では言葉すらイメージに過ぎないので、言語化できない。)
僕はあまりにも望んでいたことを君が口にするので驚きながらも、
どこかそれが当然でもあるかのように装って君に微笑む。

「俺は全然構わないよ。むしろ嬉しい。」

お互いに、まるでとっくに分かりきっていたかのように微笑み合って、
僕等は横断歩道を渡って行った。


目覚めると、そこは新宿でもなんでもなく、狭い寮の天井が見えた。
夢に落胆することは僕には珍しい。
いい夢、なんてものはまず見ないから。
いつも、夢から覚めたことに安心して、それで現実を止揚している。
なのにこんな夢を見てしまった。

僕の中に結婚願望はあったんだろうか。
それが、何故君だったんだろう。
そこにいるべき相手は、社会的には君じゃいけないんだけど。
一番近いところにいるはずのひとは、夢に出てこない。

何故君だったのか?
現実にはおそらく、決してありえないことだ。
そこまで僕は君を求めているのか。

おかしいのは、性的な夢じゃなく、「結婚」の話をしたことだ。
僕は自分では、君の身体を求めているだけだと思っていた。
そう思い込もうとしていた。
それで解決すると思ってたんだ。

なのに、なんだ、この夢は。

ちょっと待て。冷静になれ。落ち着いて考えろ。
僕は君に何を求めている?

夢でそんなに優しく笑われると、現実はつらくなるよ。
僕の悪夢癖は、現実の毎日を守るためにあるのに。
僕が見たい笑顔で微笑む君は、夢に出てきちゃいけないんだよ。

頼むから、もうこんな夢は見せないでよ。
僕にとっての期待は、麻薬なんだ。
溺れてしまうんだ。現実を見失うくらいに。


2004年07月10日(土) 惰眠

なにもない休日は、ほんとうになにもない。
なにもできない、って言った方が正しいのかな。

君を待っている。
結局は、頼ってしまっている。
なにをしたいでもなく、狭い部屋に寝転がっているだけだ。

昨日の酒が抜け切っていない。
いい年をして、ちょっと機嫌がいいと羽目を外してしまう。
いまひとつすっきりしない。
天気もすっきりしない。

梅雨時の汗をたっぷり吸い込んだ下着を、洗濯機に突っ込む。
そのまま、うつらうつらと眠ってしまう。

なにをしてるんだろうな。

目を覚ますと、もう真っ暗だ。
よく考えれば、今日はなにも食べてない。
サプリメントをぼりぼりとかじる。

くだらないテレビを見ている。
垂れ流される嘘を覚めた目で聞いている。
あってもなくてもいい、情報とすら呼べない情報。
欲しいものを探すのは大変だね。

さあ、どうでもいい一日はもう閉じようか。
体調がよくないときは大してうまくもないけど、
ビールを流し込んで無理矢理眠気を誘う。

どうでもいい夢の続きを、見よう。


2004年07月09日(金) 嫉妬

君の笑顔が僕に向いていないだけで、
哀しくなってしまうのは、
とてもとても危険な兆候だ。

君は僕のものじゃないって、
何度も何度も言い聞かせているのに。

だめだ、一体どうしたらいいんだ。
久しぶりの、困惑。
馬鹿げた空回りを呼ぶ、情けない、嫉妬。



2004年07月07日(水) 七夕

今日が七夕っていう日だってこと、知ってはいるけど。
だからどうということもなく、一日は終わる。

一年に一度会えるとかなんとか、そんなことに意味はあるのかな。
毎日会っていてもこんなにも遠かったり、
4年も会ってなくてもすごく近くにいたり、
ココロの距離は相手次第だよね。

夜空を見上げることを、いつの間にか忘れている。
そんなことに気付いたこの刹那にも、僕は天の川を探そうとはしない。
疲れた頭で、クーラーの音をなんとなく聞いているだけ。

今会いたいのは、一体誰だろう。
隣にいて欲しいのは、誰なんだろう。

君なら僕を、何も聞かずに抱き締めてくれるのかな。
君でなくてもいいことを分かった上で、埋めてくれるかな。
身体ごと沈んでしまいたい。
二度と浮かび上がれないくらい、深く深く深く。

ただどうしようもなく、寂しいんだ。
もうひとりは嫌なんだよ。
僕をひとりにしないで。

お願いだから。

お願いだから。

このくだらない夢を、終わらせてくれないか。



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しんMAIL

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