-殻-

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2003年11月26日(水) 平凡

いつの間にかありふれた日々は、
日常という幻想に埋没してしまう。

何が起こっているのかすら分からず、気にもできず。
凪と思っているものは、嵐の前の静けさに過ぎないのかも知れないのに。

偽りの甘さは、僕を狂わせる。
安寧とか平穏とか、ありきたりな言葉で語られて消える。
不安と疑念はそこにあるはずなのに、姿が霞む。

求められているものを探れば、破局しか生まないだろう。
望むものを口にすれば、絶望しか得られないだろう。
それを知っているなら、演じることだけが救いになる。

定められた生活を繰り返そう。
諦めという名の期待を裏切らず、台本に従おう。
今日も僕は君を傷付けました。
君が望む通り、
君が思う通りに。

何も起こらないという暴力の中、
波風のない平凡な日々が僕等の絆を刻む。
時計の針より深く早く、
僕のこころは切り裂かれてゆく。

君がそこにいることを確かめる。
冷たい足を絡ませる。
髪の匂いを吸い込む。

少なくとも、
僕がここにいることが確かなら、
君もここにいるみたいだ。

君が本当にここにいるなら、
僕もここにいるらしい。

それだけを確かめて、僕等はやっと眠りにつける。
明日のことは、明日考えよう。

君はそうは思っていないかも知れないけれど、
今を確かめられれば、僕は今日という一日を完成できる。
それが、平凡な生活というものなのだ。



2003年11月08日(土) 空虚

中身のない言葉に接することが多い。
何の存在意義があるのだろう、その形だけの言葉に。

「頑張る」とか「立ち上がる」とか「夢を追いかける」とか、
そこには僕等が何をするべきかは告げられていない。
耳に心地のよい「響き」があるだけだ。
そして、耳慣れたこの手の言葉たちに、僕等は安心する。

そんな大局的な、抽象概念で人生を決められるほどには、
僕等の世代は世界というものに希望を持ってはいない。
閉じてしまった僕等の夢は、絶望を肯定しない限りは姿すら見せない。

空っぽの言葉は、僕等の隙間を埋められるのだろうか。
埋めたような気がするだけで、いずれは朽ちてゆかないだろうか。

僕が欲しいのは、自分の欠けたココロに擦り寄るような、
切ない叫びであったり、淋しさだったり、郷愁なのだ。
誰のものとも分からず、その存在すら不確かな夢などではない。
積み上げた堰を崩し、行き場のないまま沈黙している感情を、
流しつくしてしまいたいのだ。

中空の言葉の殻を詰め込んだアタマは、
本当の哀しさを隠してしまう。

工場街の煙突の隣に浮かぶ月を眺めて、
不意に湧き上がるどうしようもない衝動も、
僕の表情を変えることすらできない。


涙を、くれませんか。
抑え込んだ切なさが、僕を壊す前に。
閉じ込めた絶望が、僕を殺す前に。



2003年11月04日(火) 信頼性

昨晩、某TV局で大々的にやっていたIQテストに、僕も挑戦してみた。
彼女の部屋で、早めに夕食を済ませ、
ネットから解答用紙をダウンロードして、
ボールペン片手に準備万端。

自慢ではないが、僕はこの手の問題を解くのは概して得意な方だ。
それに、誰しも自分の才能を数値化して、他人と比べてみたい願望があるだろう。
僕も彼女も例に漏れず、食い入るように画面を見つめて問題に挑んだ。

スタジオでは、何とも言いようのないグループ分けをされた集団が競う。
カテゴライズの仕方というのは様々だが、程度が知れるというものだ。
まあ、娯楽なのだからそれでいいと言えばいい。
しかし、結果を見ると、「やっぱり学歴だ」と言っているように感じてしまう。

「これは自分の適性を知るために役立つ」などと司会者はのたまっていたが、
番組の最後では「都道府県別のIQ」「血液型別のIQ」「星座別のIQ」と、結局数字の大小しか比較の対象にならない。
もちろん「適性」云々はTVとしてのexcuseなのだろうから、それもいいと言えばそれでいい。
はっきり言って、視聴者も見たいのは数字だろう。

番組の趣旨や作りに不満を言っても始まらない。
僕自身、その数字を楽しみに番組を見ていたのだから、
それは需要と供給というヤツで、それでいいのだ。

ただ、こうしたデータを集計する際には常に「母集団」が問題になるのは、
社会学者でなくとも知っているだろう。
この番組における母集団はなんだったろうか。

リアルタイムで集計される全国からのデータは、ネットを通じてのものだ。
そこに集まっているのは、当然「ネットに接続できる環境にある人」からのデータにまず限定されている。
これは正しい母集団だろうか?
無論、答えは「否」である。

僕は、正しい母集団の抽出法について議論したいのではない。
要するに、そのデータには信頼性がない、と言いたいのだ。

ある共通項で括られるコミュニティが一斉に動けば、この程度の集計など簡単に操作できる。
某ファン投票事件や、最近話題になった視聴率操作もそう、
取り立てて特別なことのない商品が妙に売れたり、逆に見向きもされなくなったり。
母集団を正しく取らない現象に、僕等の目は欺かれる。
それも、いとも簡単に。

ある種の情報操作は、常にどこかで行われている。
誤差と呼ぶにはあまりにも大きい振れ幅で、世間は偏ってしまう。
何を信じるべきか。
情報とは一体なんだろう?



などと考える一方、僕と彼女はお互いがかなり良いIQを叩き出したことに満足して、
熱い風呂に入って気持ちよく眠った。



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