-殻-

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2003年10月23日(木) 絶対的な絶望

愛はなく、希望もない。

そんな感情はまやかしで、常に何かに置換できる程度のものだ。
どう名付けるか、それだけが心の揺れに共感と言う幻を喚起する。

分かり合うなど、できるはずがない。
そうありたいと願えば願うほど、ひとりに気付くだけだ。
閉じ込められた監獄の中で、足掻けば壁にぶつかり、
壁を越えようとよじ登れば爪は剥がれ、落ちて傷つく。
動かずにいれば、気付かずに済むかも知れないのに。

孤独。

隔絶。

そして、絶望。

あまりにも正しいその唯一の自己肯定は、満たされることがない。
愛はないと言いながら、君と僕はどうしようもないほど渇望している。

愛されることを。
代償のない感情を。
存在の全肯定を。

僕等は、互いに求めているだけなのだ。
与えることができず、言葉を閉ざして待つだけなのだ。
そして、何よりも哀しいことに、

その絶望的な断絶を共有することが、僕等の唯一の絆なのだ。






2003年10月21日(火) 価値






そんな果てしない絶望を、

肯定して、共有して、生きてゆくと君は言うの?






2003年10月12日(日) 水底の町へ続く道

日本でただ一つという、その小さな列車は、
歯車の軋みと共に急な傾斜の線路を登った。
トンネルを一つ抜けると目の前が突然開けて、
数十メートルの鉄橋の上に僕等はいた。

山の斜面に沿って大きくカーブすると、
巨大なダムが現れる。

列車は、ゆっくりゆっくりと山の中を走ってゆく。
林を抜け、沢山のトンネルを抜け、谷を越え、橋を渡る。
いくつものダムが通り過ぎてゆく。

いくつめのダムだったろう。
列車の窓からダム湖を見下ろすと、
一筋の道が見えた。
僕は、その道から目が離せなくなってしまった。

僕の目を惹いたのは、その道の行く先だった。
アスファルトで舗装されたその道は、
山の斜面に合わせてきつくカーブした後、
ガードレールと共に、ダム湖の中へと沈んでいたのだ。


この水の底には、誰かの故郷が眠っている。
誰一人戻ることのできない、時の止まった故郷が。

この道をゆけばきっと辿り着く、懐かしい町並みがある。
きっとそこでは、老いることを奪われた時間がわだかまっているのだろう。
深く深く、限りなく静かなその場所は、
青い水を湛えて、帰るはずのない主を待ち続けるのだろうか。


雑木林の向こうに、その道は消えた。
列車はまた山の中を、ゆっくり走り続けた。
それからもダムはいくつか姿を見せ、やがて列車は終点に着いた。

そこで列車を降りた僕等は、駅から一番近いダムを見に行った。
ダムの上に立って下を覗き込む。
高さは百メートル近く。足が竦む。

ふと脇を見るとプレートがあって、
ダムの名前、竣工年月日、発電量、ダムの形式の下にこうあった。

「水没家屋 一九六戸」


僕は、名状し難いもやもやを抱えて、同じ列車で山を降りた。
途中でまた、さっきの道が見えた。
遠い遠い水底の町へ続く、一筋の道が。





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