-殻-

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2003年03月31日(月) 証拠

束の間、君は繋がっていたんだ。

僕の命と。


春も間近い、白い部屋で、

君は僕を見ていた。



池の向こう岸には、

綻びかけた桜の花。


儚く消えてゆく、

ほんの一瞬の、

夢か幻か。


でもそこにははっきりと、

僕等が残した傷跡がある。

それは実は、

ささやかな共存の証で、

だけど僕等はそれに気付かず、

失くして初めてその存在を知ったのだ。



いつかまた春が巡り、

その時は来るのか。


僕は、

飲み込まれる不安ばかりが溢れてきて、

流れに身を任せられない。


春の風が吹いている。


2003年03月12日(水) 復讐

僕は、図らずも復讐を完成させてしまった。

創製と破壊。
あのひとが背負うものを、僕は君に背負わせた。

それで、つまりは完成なのだ。
僕が背負っていた呪いは、君によって解かれた。
だから今なら、僕はあのひとにきちんと向き合えるのだ。

なのに、あのひとはもうここにいない。

そうやっていつもいつも、
僕は過去を追い駆け続けて行くのだろう。

君はこの復讐には気付いていない。
ただ、自分の価値を自分で知ったことで、
ひとり満足している。

お互いの存在価値は、大きく変わっている。
変わってしまったのだ。

僕が束縛を感じている。
君は依存を許されている。
共に過ごす時間は肯定され、
日常に流れていく。

僕等の知らないうちにどこかに流れていった、
小さな小さな出来事と同じように。

だけどもう少しだけ、
僕は知らないふりをしていよう。
もうすぐ来る春を君と迎え、
忘れ得ぬ傷に君が気付くまでは。




2003年03月03日(月) また春が来る

・・・

・・・。

ん。
アラームの音だ。

あ、僕の携帯だ。

僕は布団から抜け出して、
君の洋服タンスの上に置いてある携帯に手を伸ばす。
いつものように、時計は午前6時を示している。

僕は携帯を片手に、また君の眠っている布団の中に潜り込む。
君はふっと目を覚まして、一つ寝返りを打つ。

僕の方に身を擦り寄せたかと思うと、もうすうすうと寝息を立てている。

カーテンの隙間から、明るくなりかけた空が覗いている。
随分と夜明けが早くなった。
ほんの少し前までは、真っ暗なうちにこの部屋を出ていたのに。

時間は確実に流れ、季節が巡る。
当たり前のことが当たり前に起こっているだけなんだ。


うつらうつらとしては、携帯のアラームに起こされるのを
5,6回繰り返すと、出かける支度をする時間だ。
君を起こさないように布団を抜け出して、シャワーを浴びる。

今は車があるから、朝も前よりゆっくりできるようになった。
無理をするだけじゃ、続けてはいけない。
お互いにやるべきことがあるんだ。
勢いにまかせて、がむしゃらに追いかけていられるほどは若くない。

僕がシャワーから出ると君は目を覚ましていて、
トーストを焼いてくれる。
あまり時間はないけど、インスタントのコーヒーといっしょに、
僕らは焼きたてのトーストをかじる。

もう行かなくちゃ。
コートを羽織って、僕は出かける。
いつものように、出がけに新聞を抜いて君に手渡す。

「いってきます。」
「いってらっしゃい。」

いつのまにか、こんな風に言葉を交わしている。


去年の今頃は、僕はまだこの国に帰ってきていなくて、
忙しい日々を送っていた。
君と再会したのは4月の末だった。
そう、まだ1年も経ってはいないんだ。

君を変え、僕を変え、
残酷なほどに取り返しがつかないまま、
時はざくざくと僕らを刻みつけて行く。

また春が来て、すぐに夏が来て、
君は巡り、僕は巡り、罪も巡る。


いずれ僕は贖うことになる。
ささやかな、ささやかな、この罪を。



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