徒然帳
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2011年06月06日(月) |
.....タイトル未定(銀/魂) |
ザアザアと雨が降る。 春先のまだ少し寒さが残る季節に、冷たい風と一緒に雨が降る。最近雨続きだが湿気はなくどちらかといえば過ごしやすかった。 それでも子供にとっては雨は嫌なもの。開け放たれた窓には沢山のてるてるぼうずがズラリと並んでいて晴れを望んでいるのがまるわかり。外で遊べないとぶぅたれる神楽が新八に教えられて作った最初のてるてるぼうずは普通だった。しだいに面白くなった結果、力作一一一その顔はどこぞで良く見かける顔が揃っていたりする。 よくもまぁ……こんなにと銀時は苦笑する。 (よっぽどヒマだったんだろーなぁ…) 万事屋メンバーに下のババア連中。お妙や真選組……ヅラとエリザベスまで。 (おいおい……) 片目の眼帯にサングラス、黄色の髪の毛を描かれた女の子。 つい最近、ドンパチした相手まで吊るされていて銀時の笑いを誘った。憂鬱な気分がほんの少しだけ浮上する。
昔一一一村塾でもてるてるぼうずを作って軒先に吊るしたなと、懐かしむ。あの頃はちり紙などなかったから先生がいらなくなった大きな布を用意してくれて、思い思いに鋏片手に作ったものだ。 誰が上手だとか下手だとか笑いながら。 何も知らない俺に先生は優しく教えてくれて、不格好なてるてるぼうずが一体出来上がったときは凄く嬉しかったのを覚えている。 それぞれの個性豊かなてるてるぼうずが数十個。 ゆらゆらと揺れて仲良さげの白いてるてるぼうずを自分達は見上げていた。 早く晴れないかと心待ちにしつつ…。
懐かしい……刹那の幸せな時間だった。 穏やかで優しい一一一真綿で包み込まれるかのような、日々。 先生がいて、桂や高杉…塾生達がいて。 こんな優しい日々がずっと続くのだと、幼い銀時は信じていた。 馬鹿みたいに、信じていたのだ。
優しい日々はあっけなく終を告げて、哀しみを綴る。 それぞれが抱える哀しみは、やがて戦場へと駆り立てることになる。
薄暗い曇天の中をがむしゃらに駆け抜けた。 多くの命を屠り、多くの仲間を守れずに失い続ける地獄のような日々が、人間としての何かを麻痺させていったが、それでも倒れるわけにはいかなくて進み続け、結局は多くのものを失った一一一。
銀時は仲間の為に。 一一一けれど守れなかった。 桂は国の未来の為に。 一一一けれど裏切られた。 高杉は復讐の為に。 一一一けれど届かなかった。
何度も流れる血と降り続く冷たい雨の戦場は、敵も味方も屍の山となった。その傍らに佇んで銀時は空を仰いだ。墨汁をたらした色の空一一一白い羽織はどれほどの数の天人を斬り伏せたのか、血を吸い赤黒く染まって見る陰もない。 生き残っている面々も同じようなもの。 誰もが血に染まり疲れ果てても屍の上に立っていた。
『俺達が護ろうが、殺そうが、死のうが世界は関係なく進んでいきやがる………無情にも、全てが無意味にされ、無価値という烙印を押しつけて』 『……白夜叉』 『銀時……?』
多くの仲間を失った。 現実は厳しく敗戦は濃厚一一一護ろうとした相手から掌を返されたのだ。完全な裏切りである。しかも幕府は完全に天人側へと降伏し、今まで幕府の為に戦ってきた攘夷志士をスケープゴートに選んだ。 その先に待っているのは絶望への未来しかない。 カウントダウンはすでに始っていた。
『俺達がどんなに足掻いても世界には届かない……』
悲痛な声も、慟哭も。 いつだって世界は不平等にそこに在る。 幾多の血を流しても大きな力の前には全てが無力でしかないのだと、白夜叉は絶望に目を閉じた。誰かの為に振るった力は意味の無かったものにされた。どんなに強かろうが最強を冠しようが一一一結果は惨敗。 白夜叉という幻だけを残して銀時は戦場を去った。
「……」
先生は世界を愛していた。 なのに世界は愛を返すことはない。 だから天人に迎合した幕府という世界の流れに殺された。
先生を奪った世界を憎んだ。 なのに世界は流れるままに無関心。 いくら戦おうとも見捨てられた攘夷志士達は、世界の流れに押しながされていった。
「俺達がどんなに足掻いても一一一一」
攘夷浪士となった篝火はいまだ燻っている。 桂も高杉も諦めてはいない。 ただ自分だけが立ち止まったまま。 あの日から、動けずにいた。
「世界には届かない……ってか?」 「!!」
蠱惑的な声にゾクリとした。 窓辺にいた銀時が室内へと視線を巡らせば、予想通りの人物が事務所の机に腰掛けて煙草を吸っている。けだる気な退廃的な雰囲気が男の口元が歪む。深い碧の隻眼が銀時を捉えた。
「懐かしいじゃねーか。テメェが唄うように口にした、一番残酷な言葉だったよなァ」 「……………高、杉…」
カタリと煙管を置いて、窓辺に身体をぐったりと預ける銀時による。銀時の顔色は優れない。紅桜の事件でみせた懐かしい強さは全く見当たらなかった。儚く脆さを垣間見せる目の前の銀時が、昔の事を思いだしているのだとその様子から高杉は確信した。 銀時の背後に見えるけぶる雨。 先ほどよりも建物を叩く音が強くなっている。
あの日も曇天で、同じように雨が強く降っていた。 壊れかけた白夜叉一一一銀時の、絶望の声を零した忘れられない日だ。
「俺達が護ろうが、殺そうが、死のうが世界は関係なく進んでいきやがる………無情にも、全てが無意味にされ、無価値という烙印を押しつけて……か。確かに真理だな」 「…………」 「世界は残酷なまでに無関心だァ」 「っ…」 「誰が死のうが生きようが知ったこっちゃない。善も悪も関係なく、世界はただそこに在るだけだ。テメェが苦しもうがどうなろーがなぁ……」
ペタリと裸足の足音を響かせて。ゆっくりとした動作で高杉は銀時の前に跪いて顎を掴みとる。彷徨う虚ろな赤い目を自分の方に強制的に視線を合わせた。赤と碧が交差する。どちらも闇を孕む美しい瞳だ。
「なぁ銀時。世界が無関心でどうなろーが構わねーならよォ…どう動いてもイイと思わねーか?」 「………?」 「どうせ何やっても無関心で無関係な世界なんだろ?」
一一一一なら、破壊してもいいじゃねーか。
その言葉に目を見開く。 なんて解釈するんだろう……。 自分は絶望して動けなくなったのに。
「な、な、な……」 「護っても関係なく進む世界なら、壊しても関係なく進むんだろ? あの日、白夜叉は仲間を護る為に生きて世界に絶望した一一一なら今度はその反対をいってもイイんじゃねーか?」
テメェが完全に壊れる前に、と囁いて高杉は抱き締める。腕の中に囲われた銀時は少しだけ身じろぎしたが、抵抗することはなかった。 もはや抵抗など出来ないほどに、追いつめられていた。
雨が降るたびに壊れてゆく銀時。 大切な人を奪った世界を憎んで、それでも世界の中にまだ護らなければならない相手が生きていて。残っている大切なものを護る為に動けない。そうして微睡むように生きていく中で、一人…また一人と銀時の周りに護るべき人間達が増えてゆく。 強いと思われ、縋られて一一一一誰かに縋られると己を捨てて護ってしまう性質の銀時は、紅桜の騒動でかつて仲間であった高杉と対峙するはめとなった。同じかつての仲間だった桂に巻き込まれ、刀を巡る刀鍛冶の少女の懇願を切り捨てることが出来なかった為に。 どちらも大切な、護るべきと銀時自身が決めた相手だ。高杉も桂も同じ幼馴染みで、背中を預けた相手。心を許した相手でもある。その片方に刃を向けた銀時の心に大きな亀裂が入った。
あの日から少しずつ壊れてゆく銀時。 耐えて、耐えて。動け無いから耐えるしかなくて。 高杉は己に刀を向け立つ姿に、銀時の限界を感じていた。
ああ……壊れちまう。 壊したいのに壊せず一一一ただ自身が壊れるのを待つしかねぇ銀時。 周りはそれに気付いちゃいねェ。 赤い目の奥が揺らいでいたのを確かに見たのだ。
それだけ銀時の絶望は深い処に在る。 このまま捨て置けば、失ってしまうだろうと一一一。
「だから我慢するこたねェ」
嫌いなら嫌いでいいじゃねぇか。 衝動のままに動いて世界が壊れようが存続しようが世界はそこの在るだけ。なにかをするのは人間のほうだ。好き勝手に都合良く一部の人間が、さも世界を動かしたかのように振る舞っているだけだ。 世界は何もしない。何があろうともただ流れるまま。
「壊れるならそれが世界の運命さなぁ」
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