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徒然帳 目次過去未来
2011年05月29日(日) .....blind love(庭球/お試し版/改訂)




一一一一崇拝とは怖い。
意味は敬うとなっているのに、実際は違う。
物であれ人であれ、夢中になることである。
一途に想うことは、慕っていることでもあるが、そこに相手への配慮などがあれば言うことはないのだが……そのようなのは稀である。
好きで好きでたまらない一一一。
これは一歩的な心情である。
一一一一の為に、という言葉も。
相手の事を思っているようで、実は自分勝手な思い込みが多い。

恋は盲目一一一ではないが、他のものが目にはいらず、理性的な判断ができなくなるほどの崇拝を、リョーマは初めて知った。

言葉が通じない。
日本語なのに、会話が成り立たないのだ。


これをどのように避ければいのか、リョーマは知らなかった。
彼のもっている経験値では対処できなかったのだ。そのままどうする事もできずに、逃げる暇もなく事態は、周囲の流れを変える事となった。それは当時者であるリョーマをも巻き込んでの変化となって、彼を襲うこととなる。





盲目的愛情 blind love






それは突然、起こった。
誰もが思わなかった事態で、ほとんどの人間が呆然とする事となる。

放課後になり、準備運動が終わった頃である。
氷帝学園テニス部では、推薦枠で出場が決まった全国大会に向けての練習が続けられていた。レギュラーは元より、他の部員達の志気は高い。
せっかくのチャンスだ。このチャンスをいかして優勝一一一一それを狙って、休みを返上して全員が練習に明け暮れていた。
名門・氷帝学園。
今度こそ、負けは許されないのだ一一一と。
そんな高揚感に包まれた現場を切り裂いて、少女が飛び込んで来た。

「跡部!! 跡部!! 出てきなさい跡部!!」
黙々と練習するテニスコートに甲高い声が響き渡る。
周囲が少女の声に、固まった。

それもそのはず一一一少女は氷帝学園でも有名な人物であったからだ。
跡部景吾がそのカリスマで帝王と呼ばれるなら、彼女はその気高さで女王と呼ばれている。その能力の高さは跡部景吾と双璧を成すほどで、跡部自身も認めているほどの存在である。
2年生にして次期生徒会長とも言われている人物。
一一一一御門マリアが、怒りもあらわにテニス部に飛び込んできた。

ありえない状況に、周囲が強ばる。
跡部同様に、彼女に睨まれれば氷帝では生きてはいけない一一一むしろ都内ではまともに外を出歩けなるという黒い噂があったりする彼女の方が怖いかも知れない。

「なんだよ、女王。ウルセェぞ」
「いたわね! この馬鹿ッ!!」
ゆったりと歩いてきたのは跡部景吾だ。
突然の事態でも動揺しないのは流石である。後ろに樺地を控え渋々とやってきた。無視するには相手が悪いからだ。仕方ないと、練習を中断してやってきたのである。
美しい顔を真っ赤にして、普段見られないほどに怒り狂った表情に、跡部が首を傾げた。
「……………女王?」
「自分トコの面倒ぐらいちゃんと見なさいよね!!」
「はぁ……?!」
意味が判らない。
ワケ判らんと、更に首をかしげる跡部のあまりの様子に、ついにマリアの堪忍袋の緒が切れた。鼓膜を突き破るほどの大声だった。

「アンタの所の部員が、障害事件起こてくれたのよーー!!!」

凄まじい怒声だった。
テニスコートにいたテニス部員は、びくっと身を竦ませた。
反射的に「そんなわけあるか!」と突っ込んだ跡部であったが、マリアの様子から本気であることを知ると、途端に表情をあらためた。
様子を見守っていたレギュラー達も側に寄ってくる。
全国大会出場前に、そんな馬鹿なことはない。
あれほどに生徒が切望したのだ。跡部が了承した時には歓喜に沸き上がった氷帝学園である。そのような馬鹿な事をするわけ無い……と、マリアの言葉を聞いた全員が思ったことである。普通ならありえないことだった。

「………それ、詳しく話してくれるんやろ? 女王」
「その為に飛んできたんだもんな」
忍足と向日が神妙な顔でマリアに問いかける。
「おい! その馬鹿いったい誰だよッ!!」
「そうですね……それが本当ならボクも知りたいです」
「くそっ………」
怒り狂う者、冷静であろうとする者、様々だ。
その中、怖いくらいの無表情だったのが、跡部である。その目は異様に静かであるが、彼の本質を知る者は、一斉に引いた。
(((((やべぇ……マジギレ寸前だ)))))
レギュラー陣はこの後に起こる事態に、地獄を予想した。
恐ろしい。
マリアも恐ろしいが、テニス部の面々にしたら一番恐怖なのは、跡部の怒りである。テニス部に所属している者のほとんどが、跡部シンパであるからだ。
彼に嫌われるのだけは一一一一そう、思っている生徒ばかりである。
「どこのどいつや、跡部の機嫌、逆撫でしたヤツわ」
最もである。
こんなこと仕出かせばどうなるかは、みんな知っていたと思っていただけに、忍足の落胆は大きい。下手したらトバッチリがこちらに回ってくるかもしれないからだ。そんなのは嫌である。なんで馬鹿な者の為に………と、レギュラーの誰もが内心でぼやいていた。

「………ここで話せ」
押し殺した跡部の声に、コートが静まりかえった。
聞いたこともない声に、一部の部員が腰を抜かしたほどである。
バサリと髪をかきあげたマリアは「当たり前よ」と、跡部を睨み付けている。よっぽど腹に据えかねる事件なのだと、誰もが理解せざるおえなかった。

「刃物で相手の脇腹を刺した後に、左腕をパイプのような棒で殴って、その後一一一現場は駅前近くのショッピングモールね。その大階段付近から突き飛ばされて、全身打撲。通りかかったサラリーマンに発見されて病院へすぐに搬送されたけど……最悪よ!」
「………………そりゃ……」
「…………おいおい」
「ホンマかいな……」
「嘘だろ……」
「……………」
信じられないというテニス部員にマリアが続けた。
「サラリーマンはあまり見えなかったって言ってたわ。夜の7時頃で、ちょうど他のロータリーでイベントやっていて現場は人は少なかったそうだけどね………」
「けれど証拠があるんだな」
「ええ」
「不確かな情報だけでお前が殴り込んでくるワケねーし」
反論しようとした部員が跡部の指摘に固まった。
確かに一一一一彼女はそんなに甘くない。
いくら事件でも不確かなことで帝王に喧嘩を売るほど酔狂でもないのだ。そんなことをすれば学園は真っ二つである。帝王派と女王派の千日戦争勃発は、氷帝学園の崩壊を意味している。それを知らない彼女ではない。

「最近導入されたのよ、監視カメラ一一一一ショッピングモールとか駅周辺に、氷帝学園の生徒がよく出歩いているでしょう? その為にPTAあたりから安全対策が設けられてね。治安の向上を狙った自治体との協力で、先月から設置されているわ」

その言葉で確信した。
御門マリアは、確実な証拠を知って飛び込んできたのだ。

「監視カメラ一一一一姿もバッチリか」
「襲われている所もよ」
一斉に、テニス部は真っ青になった。
確実に出場停止処分ものである。
たった一つの馬鹿な事件で、あれほど夢にまでみた全国大会の取り消しである。あまりの事実に愕然とするテニス部の綿々に、マリアの氷点下の声が追い討ちをかけた。

「言っておくわ。………被害者は越前リョーマ」
「まさか……」
信じられないと、声がもれた。
氷帝学園ではこれほど有名な人物はいないだろう。
彼の存在によって全国大会へ行けなかったという過去があるからだ。
ハッと、息をのむ。
まさか……と。

「だから……なのか、女王………」
「そうよ。私怨。しかもテニス部っていえば、あんたの崇拝者で構成されているようなものだし………何よりすれ違った人物が聞いたそうよ『あの人の為だ』って」
「………………………。」
「間違いないわよ。『あの人の為、だから正しいんだ』って、呟き続けていた氷帝の生徒を目撃した人は多かったわ」

確かに跡部は崇拝されていた。
カリスマ一一一と呼ばれるほどに人気が高い。
盲目的に、彼の為ならば……という後輩達は後を断たなくて辟易したこともあったが、それでもそこまで道に外れた事をする非常識な輩はいなかった。
跡部は歯を食いしばって、おもわず唸る。

これは、侮辱だ。
あきらかに跡部の意志を無視した行動だ。
腸が煮えくり返るという、言葉通りの意味を痛感する。

『自分トコの面倒ぐらいちゃんと見なさいよね!!』
彼女の言うことは最もである。
跡部はテニス部のトップにいるのだ。
実力だけではない、統率力も問われているということである。

(……………絶対、許さねぇ………)

彼の怒りも最もであるが、同じくらい……いや、それ以上に怒っているのが彼女であると言うのを知るのは、少し経ってからだ。


「…………どこの病院だ?」
「駄目。私の権限で面会謝絶にしてるからしばらく秘密よ」
「アーン? なんでそうくるんだよ!」
咄嗟に感情をむき出しにする跡部など珍しい。
だが、被害者があの少年であるならば尚更だろう。
氷帝に負けをつけた強敵であるが、それ以上に彼という存在をテニスプレイヤーとして気に入っている跡部である。その想いはどうやら氷帝レギュラーも一緒であったようだ。
「謝罪しなアカンやろぅが……ケジメや」
「謝って済む問題じゃねーけど、しないよりはマシ!」
「面会謝絶って、そんなにひでぇのか……?」
「やはり誠意を尽さないことには……」
「………無事かどうかはこの目で確認したいです……」
彼等は本気で心配している。
マリアもそれを判ってはいたが、許すわけにはいかない事があるのだ。
「…………ねぇ、順番が違うわ」
そう、まずはやってもらわなくちゃならない。
ケジメというならそっちが先である。
「加害者一一一一私の前に連れてきてね」
にこりと、マリアは誰もが見愡れるような、極上の笑みを浮かべた。

「私の大切な従兄弟にしてくれた礼を、たっぷりと……ふふ……私の気が済むまで、しなくちゃならないもの」
















越前リョーマの事件は内々に処理された。
従姉妹である御門マリアの手によって、今回ばかりは誰も……いや本人ですら何も言うことが出来ない。不慮の事故とはいえ、あまりにも酷い怪我であるからだ。放任主義の南次郎もさすがにこれには眉を寄せた。
心血注いで作ったといっていい。リョーマは南次郎の夢の形である。
テニスプレイヤーとして最高のものを与えてきた。
それもこれも将来一一一一息子とテニスを思う存分する!一一一一のを、楽しみにしての事だ。その夢を壊されかけたのだ。南次郎の怒りは見た目より深かった。
これならば御門マリアに任せておけばよかったと、後悔する。
日本に帰国する時に、マリアの世話になるという意見もあったのだ。
物騒なことにはならないだろうと、甘く見て。

息子が自分とよく似ていた事を痛感した南次郎であった。
リョーマは善くも悪くもヒトの目を引きやすい。個性的な性質もそうであるが、本人は自覚はないが、カリスマ性がずば抜けているのだ。その所為で、よくトラブルになったことが多々あった。
けれど向こう(アメリカ)ではリョーマの実力がものをいった。あちらは実力主義である。能力を示せれば誰もが認める世界だ。
ラケット1本持たせて放り出した事もあった。
それで問題を出したことは無い。

困った事になった。
御門マリアは親戚の中ではリョーマ溺愛している。
事件発生から数分で病院に駆け付けたのは流石だ。両親の元に連絡をつけたのも彼女である。病院を御門所有にしたのは、リョーマを外敵から守るためだ。
リョーマの症状は、あまりにも酷すぎた。
加害者が同じ少年で一一一一テニス部に所属している生徒からの暴漢と知るやいなや、手を打って、学校名まで判ると飛び出して行った。
(自分の所の生徒じゃな……ありゃ抹殺するかもな)
手を打ったのはそれだけではない。
青春学園に退学届けまで出している。
これはもう……自分の元で守る気満々だ。

普通ならそんなことはしない。
リョーマの意志を無視するのは、彼女の本意では無いからだ。
しかし死んでしまったら意味はない。そのことを深く身に染みて知っている彼女だ。
(アイツの両親は事故だったな……)
突然の飛行機事故だ。
こればかりは注意しても仕方がないが、あの時の事で彼女が失ったものは大きく、背負ったものも大きかった。わずか十歳にして御門家の当主に座らされ、責務を押し付けられた。
それでも彼女は一一一一全うしている。
反発せずに受け入れて、立っている。
その強さは賞賛に値する。
(でも弱いんだよな。リョーマがかかわると……)
意外な弱点とは思わない。
アメリカにホームステイしていた時の事を知っているからだ。
彼女のリョーマに対するそれは、盲目的と言ってよい。

「ま、俺はリョーマとテニスができりゃそれでいいしな」

彼女の元にいようが、いまいが変わらない。
リョーマがテニスをやっていればそれでいいのだ。
病室をのぞけばリョーマが、痛々しそうに眠っていた。その横にはずっと、マリアが心配そうに付き添っているが、普段見せる気丈な姿は見る影もなかった。
(ありゃ……しばらくはべったりだな)

一一一一南次郎の予想通り。
リョーマが目覚めて、マリアは泣き落しにかかった。
昔から彼女に弱いリョーマが、陥落するのは近いだろう……。


安静が必要である状態でリョーマに断る意志はない。
両親もゆっくり静養しろと言ったからだ。それほどの酷い怪我で、左腕が動かない状況なのだ。無理をすれば悪化すると言われ一一一手塚部長を見ていただけに、怪我の養療をに専念することにしたリョーマであった。
テニスはしたい………。
けれど一生できなくなるのは嫌だ。

全力で相手を倒すことは厭わない。
けれどそれは試合中であればこそだ。
試合に臨んだ途中の怪我なら無理をしても、そのあとに後悔しても納得できるだろう。一一一怪我を押し込んでまでする試合なのだ。無二の試合に違いない。
だが今回はテニスでの怪我ではないからリョーマは静養することにしたのだ。

「完治からリハビリまでちゃんとするから安心してね」
「うん」
やっぱり頼りになる従姉妹だと感心するも、
「それと青春学園から叔父さんが経営する御門学園に転校手続きしたから」
「は?」
あまりの展開にリョーマが唖然とする。
寝耳に水。予想外すぎた。
「やぁね。青春学園にそのまま登校してごらんなさい、噂になるわよ」
「…………た、確かに……」
「それで好奇心旺盛な野次馬が『氷帝学園のテニス部』が加害者であることを突き止めて、大袈裟に騒ぎ立てられること間違いナシね。悪くすれば『越前リョーマの敵討ち』って、暴走されてこじれるかもしれないじゃないの」
「………それ、ちょっと大袈裟じゃないの……?」
「何言ってるのよ。氷帝と青学は仲悪いでしょうに……。試合とはいえ手塚部長の肩を壊したと、関東大会以降は空気が悪かったって………」
「…………………。」
「いずれ事件は知られるわ。その時に貴方が青春学園にいるのと、いないのとでは違ってくるのよ。煩わしいことが嫌いなら、諦めなさい」
マリアの言うことはもっともだ。
あまり事件を大きくしたくないが、このまま学校にいれば周りが放っておいてくれないだろう……。クラスメートも部員達も何かとリョーマに構いたがるのは本当だからだ。
仕方ないと、リョーマは目を閉じた。

(とにかく今は治さなくちゃ)

テニス云々は、その後である。


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お試し企画その1。
別の掲示板にアップしていたものを持ってきました
どちらかといえば……夢?


目次過去未来
2011年05月28日(土) .....吉田松陽という人は(銀/魂)



最近拾った銀色の子供に名前をつけました。
ふわふわの銀色の髪にくりくりの赤い目が可愛い子です。
銀時(ぎんとき)一一一似合ってるでしょう?









私の名前は吉田松陽。
十数年続く天人との戦いに辟易して田舎に引っ越してきました。
物凄く引き止められましたけど、先が見える戦いに興味ありません。
え? どちらが勝かですって?
あんなもの八百長試合ですからね。勝ち負けなど幕府の弱腰対応を見れば明らかですよ。思想家仲間のうちでは圧倒的に賭けにならないと、幕府の負けは当然のものとして語られてます。
今は抵抗して見せているようですが、すぐに降伏して天人に媚び諂う姿が目に浮かびます。元々腐った根性の老人が権力の座にしがみついている『お達者クラブ』的な幕府でしたからね。老後の年金を生み出すためだけと化している幕府に天人に対抗する術などありません。
まともに政をしていなかったし、自分達が甘い汁を啜れるならどうでもいいとでも思っているでしょうし。でなければ権力を天人などに譲渡するなどありえませんからね。
裏取り引きでもしたのでしょう。
天人の上位の存在によって作られた天導衆などという一一一怪しい集団がトップに現われたのが良い証拠です。

すでに幕府は天人の手に堕ちたも同前。
攘夷派の思想家仲間は身の危険を感じて各地へと散っていきました。流石にすぐに処刑はないでしょうが、天導集という輩がかなりの強行派であるのは、幕府を開国させた状況を見るかぎり否ともいえませんから困ったものです。
臭いものには蓋をしろ理論ですか。まったく。

ふふふ。
でも良い機会です。
私の下僕……教え子達をつくって未来ある若者達を育て上げるのも暇つぶ……楽しそうですからね。
ちょっと本音が……いえいえ。なんでもありませんよ。




そんなこんなで、未熟な子供達を集めて私塾を開いた私です。
私の名は田舎でも通用するほど有名らしく、イイ所のお坊っちゃんお嬢さんが通ってくれることになりました。
おかげで資金にはまったく困りません。ありがたいですね……金蔓……援助してくれる裕福な家庭があるっていうのは。

それにしても穏やかな日々です。
江戸で闊歩する天人などド田舎で見かけることはまずありえませんからね。戦いも江戸の周囲や大名のお膝元では勃発しているようですけど……此処はド田舎ですからね。まったく戦の気配などありません。天人も幕府を支配したばかりですし、今は権力ある藩を集中的に掌握するのに手をさいているでしょうから。戦争と呼べるほど本格的に広がるにはまだ少しばかり時間がかかるでしょう。

しかし一一一。
のどかも良いですが、そればかりも困りものです。退屈は人を殺すと言うのは名言ですね。老後を迎えた老人じゃあるまいし……少々の刺激があってもいいじゃないですかと、内心思っていたら信じてもいない神様が願いを叶えてくれ私に銀時一一一銀色の子供と出逢わせてくれました。
戦争孤児らしく独りで居たところなんて震えるウサギのようでした。村の人達は鬼だなんだと言ってますが、わたしにはピピピときました。運命の出合いです。間違いナシ。
人に慣れていないところなんて初々しくてグッドです!
一番の心配だった誰かに暴行されている気配もナシ。
あんなに可愛いのに誰かに手を出されていなかった事が奇跡だとまったく信じていない神様連中に感謝してみたり。
それにしても見る目ないですね。こんなに可愛いのに。もったいない。
ええ、私でしたら速効です。
可愛すぎて実際、お持ち帰りしてしまったでしょう?

おや? どうしました晋助? 小太郎?
銀時を背中に隠して………何ですかその目は。
いやですねぇ、私をそこら辺にいる破落戸と一緒にする気ですか?

ちゃんと育てるに決まっているでしょう。
すでに養子として手続きも終ってますから。この子は私の子供ですから。名前は銀時と名付けました。

今日から一一一吉田銀時ですね。


「せんせぇ、あのね、ぎん、せんせぇすき!」
「ふふふ。ありがとう。私も好きですよ」
「ほんと! うれしー」

あれから数カ月。
笑わなかった子供が笑うようになった。
何の感情も写さなかった赤い瞳が、絶望に諦めた瞳がきらきらと輝くようになると、もの凄く可愛らしい。当社比2倍です。
なんですかあのイキモノ。あの可愛らしさは犯罪級ですよ。
一一一一おかげで苦労もちょっぴし増えましたが…。
このまえなど見知らぬオヤジに森の中へと連れていかれそうになって押し倒されたそうです。私の下僕……生徒である晋助が通りかかり慌てて助けに入ってくれたそうで、ホントに助かりました。ホント、イイ手駒……生徒です。
え? 問題のオヤジ?
さぁ…今頃借金抱えて海の藻屑となっているんじゃないですか?

自分を守るための意味で、銀時に剣術を教え始めたのもこの事件が切っ掛けでした。本来ならば剣など握って欲しくないのですが……世の中なにかと物騒です。変質者とか犯罪者とか……。
とにかく自衛手段ぐらいはさせないと心配で、心配で。いつでも晋助や小太郎が側にいるわけでもないですし…。

………………なんですか、晋助。
一生守る?銀時を嫁にくれ?
ちょっと裏庭まで顔を貸してもらいましょうか。ふふふ、話し合いですよ。いやですねぇ……なに、怯えてるんですか?


一一一一自主規制一一一一



話の続きですね。
一番の心配事を解消するために銀時に剣術を教えました。こればかりは甘やかしては銀時の為にならないと、持てる全てで我が子を鍛え上げてやりましたとも。
………かなり強くなってしまったのは計算外でしたが……。
おまけに晋助と小太郎もしごいて……鍛練させました。
あの子の側にいるというのなら強くなってくれないと困りますからね。


「しんすけー、ヅラァー」
「ヅラではない! なんで名前で呼ばないのだ! 最初は小太郎って呼んでいたではないか!!」
「うるせぇよヅラ……ほらよ銀。今日のおやつ持ってきてやったぞ」
「お、お前がヅラと呼ぶから銀時が真似して一一一」
「うわぁ! 苺大福ぅー! しんすけあんがとー」
「こらっ! 急いで食べるな! 誰も取らないからゆっくり食べんか………って、高杉……お前、何あたりまえのように銀時を膝に乗せてるのだ。ききき……キスだとー?!! 私だってフニフニほっぺにしたこと無いのに!」
「うっせぇヅラ! 一一一ほらこっちにも餡子ついてるぞ」
「ま、ま、ま、またキスしたぁぁぁー!!」


………晋助も懲りないですね。
つい先日お仕置きしたばかりなのに。
何をですって? フフッ…それは秘密です。

小太郎はなんやかんや言ってもヘタレですから心配はしてません(←酷い)
晋助はその面構えのように男女に好かれるのを自覚している遊び人ですからねぇ(←偏見)

銀時に悪い影響を与えないように監視しているつもりですが……若い子は未熟です。持て余した熱を爆発させてしまったらと思うと……気が気でなくて。
いえいえ。銀時はいいんですよ。心配してません。あの子が恋だのなんだのと自発的になるのはきっと遅いでしょう。色々と手をつくして純粋に育ててきましたからね。手を出そうとする晋助をボコボコにしながら箱入りに育ててきましたよ。
天然無自覚っ子って理想でしたから(笑)
だから心配なのはそんな銀時を無理矢理襲ってしまうかも知れない晋助の方でしょう。
私だって大人です。両思いならば文句は………言うかもしれませんが反対はし、しません。残念ですが……こんちくしょうですが……銀時の幸せなら仕方ありません。
ですが何も知らない自覚無しの銀時に手出すのは問題外です。あの子は今は笑っていますが、かなりの人間不信ですから。今も人間不信は続いています。表面に出さないようになっただけで、身内や友達、塾仲間以外には今だ人間を恐れている節があります。こればかりは克服してくれるのを待つしかありません。

きゃいきゃい戯れる三人を見つめる。
最初は何の反応をしない銀時に対して2人もどうして良いのか解らず遠巻きにしていましたからね。

「せんせー」
「はい、なんですか」

駆け寄ってくる愛しい子供を抱きしめる。
銀時の後ろから喧嘩をやめ慌てて2人が寄ってきた。ホントに銀時が好きなふたりですねぇ……。

「せんせーも、いっしょ」

はいと出された小さな手には、苺大福が乗っている。
いつの間にか小太郎がお茶を用意してて、縁側に座った私の手に苺大福を乗せると、銀時はへにゃりと笑って隣に腰掛けた。その隣に陣取る晋助は重箱を開いている。まだぎっしりと苺大福はあるようで……銀時にまたひとつ手渡していた。

「おいしーね」
「あたり前だろ。俺がマズイもん持ってくるわけないだろ」
「うん。いっつも、おやつ、おいしーよ」

むぐむぐ頬張る姿に癒される。
なんか小動物みたいで可愛い。
ホントに純粋に育ってくれて嬉しいです。
そして凄く心配です。
銀時の世話をいそいそとする晋助は最近、餌付けというスキルを覚えて着々と銀時を手懐けている。塾生の中でも頭の回転が早いだけはある。ただ甘やかすのではなく、時には喧嘩もしてぶつかり合い。一人の人間として対応する一一一一銀時が一番欲しいものを与えてみせたのは未だ晋助一人だけである。
小太郎も叱るが、あれは母親だから論外。
対等に喧嘩をしてあげている晋助はやはり油断ならない子供だと松陽はそっと溜め息を噛み殺す。

よりにもよって銀時を選んでしまうとは……。

多くの女子に好意を寄せられているというのに、本人は無関心を貫いている。銀時といるのを邪魔されれば途端に牙を剥いて嫌悪を露にするほどだ。

晋助の銀時に対する感情が恋情なのは見て間違いない。
けれど一一一ねぇ。
私の目の黒い内は手を出させる気は毛頭ありませんよ。これ以上進もうとするならば、私が立ちふさがらなければなりませんね。恋に障害はつきものです。

「せんせぇ、どうしたの? たべないの?」
「なんでもありません。少し考え事をしていただけです。ふふ…美味しそうな苺大福ですね」
「すっごくね、おいしかったのー」

よしよしと頭を撫でれば嬉しそうに笑う可愛い子供。
やはりしばらくは……このままでいて欲しい。
可愛い、可愛い私だけの銀時で一一一。


「今日も一緒にお風呂入ったら寝ましょうか、銀時」
「むぐっ! んぐぐぐ……」
「やったー! せんせぇ、だいすきー!」
「おぃ! 大丈夫か高杉ッ!! お茶飲め!」




晋助も可哀想に……。
銀時でなければ恋の成就もすんなりいったでしょう。

それでは親として、宣誓でもしてみましょうか。





「この子が欲しいなら私を倒してごらんなさい」



ふふふ。
真っ青になった2人の子供に気分が上昇する。
当分、銀時は私のものでいてくれるようだ。良かった良かった。














(先生を敵に回すなんて……死ねと?)
(銀時ィ一一一一なんでお前、先生に拾われたんだー!)



目次過去未来
2011年05月17日(火) .....300文字SS/4-1(桂独白)

『銀時…大丈夫か?』
『あ? 何がよ?』
『……いや、何でもないならいいのだが……』
『へんなヅラだなー』

飄々と歩く後ろ姿はいつもと同じ。
けれど一一一。数え切れないほどの戦いの中、多くの敵を殺して多くの仲間を失ってきた。特に銀時は白夜叉と呼ばれ、先陣を切って戦いの中に身を投じなければならない。

白夜叉という名と仲間の期待が逃げることを許さず。
その強さに縋って押し付けて。
雁字搦めで動けなくさせたのは間違いなく…。

夥しいほどの死体と大量に流れた血の匂いが、ヒトとしての部分を狂わせていった。



先生……。
俺達は間違ってしまったのかも知れません。

友が、銀時が泣くはおろか最近では笑う事もなくなってしまいました。


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