観能雑感
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2004年08月25日(水) マナーは必要ない?

某所で能楽師本人が「観劇の一般常識(私語や携帯電話)さえあればマナーは必要ない」と述べていた。
呆れた。話の流れが拍手についてであったことを考慮にいれても、首をかしげざるを得ない。
この方、能に限らずご自分が客席に座った経験があまりないのではないかと、疑ってしまう。
私語や携帯電話以外にも、他者の迷惑になる行為は数多くある。
前のめり、貧乏ゆすり、座席での飲食、むやみに音を立てる、肘掛の独占、組んだ足の靴裏を人に向ける、途中退席のタイミング、荷物で通路を塞ぐなどなどなど・・・。
そもそも、複数の人間が会すれば、おのずとマナーは必要なはずだ。マナーとは、互いによく知らない者同士でも不快にならずにすむようにする手段なのだから。

見所のマナーについていろいろ思うところはあるが、ますます暗澹たる気持ちになってしまった。


2004年08月21日(土) 東京バレエ団創立40周年記念ガラI

東京バレエ団創立40周年記念ガラI  東京文化会館大ホール PM6:30〜

 古典から現代振付家の作品まで幅広いレパートリーを誇る東京バレエ団。本日のプログラムも多彩。
 C席、3階舞台向かって右サイド、舞台から遠いエリアに着席。舞台右下端が若干切れるが、ま、こんなものだろう。ほぼ満席状態。


『レ・シルフィード』
プレリュード:斎藤 友佳理
詩人:木村 和夫
ワルツ:佐野 志織
マズルカ:遠藤 千春
コリフェ:大島 由賀子、福井 ゆい
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

 ショパンのピアノ曲をオーケストラ演奏用にアレンジした音楽にのせて、ロマンティック・チュチュに身を包んだダンサー達が優美に踊る。コールドを従えてソロ・ダンスを見せるが、これといった筋書きはなく、クラシックバレエのエッセンスが凝縮されていて、ゆったり楽しめた。
 耳に馴染んだショパンの曲、ワルツとかマズルカとは大まかな区切りは識別できても、OP何番という曲番をすっかり失念していて、少々哀しい。

『パーフェクト・コンセプション』
井脇 幸江 吉岡 美佳 飯田 宗孝 大嶋 正樹

 イリ・キリアンの東京バレエ団オリジナル作品。舞台右側に逆さに吊るされた気のオブジェ。ダンサー達は紺色の着脱可能な四角いチュチュを時に腰の周りで回転させたり、頭にかぶったりと様々に駆使。黄色い照明にカラスの鳴き声、グールドの奏でるゴールドベルク変奏曲(晩年の演奏だと思われる)、配水管の水音などなど音楽も種手雑多。音と動きに包まれて、ついつい自分の思考に沈殿しがち。あの変幻自在なチュチュは、自我なのだろうか、などとぼんやり考える。

『椿姫』
斎藤 友佳理  高岸 直樹
ピアノ 高岸 浩子

 ジョン・ノイマイヤー作。三部構成の最後の部分。日本初公演とのこと。
 自分から離れていったマルグリットの気を引こうと彼女の友人に近づくアルマン。死病を得ている彼女は彼の部屋を訪れ無体は止めてくれと懇願する。
 ショパンのワルツ(例のごとく曲番は失念)はこれほどまでに激しさを秘め、情熱的だったのかと瞠目したピアノ演奏。斎藤は己の本心とあるべき振舞いの間で身を引き裂かれそうになっている女を哀しくも美しく見せる。揺れ動く心の襞を繊細に表現して圧巻。濃紺のドレスからベージュのドレスに早変わりし、直接的な愛の表現を示唆するが、観ていて胸が締め付けられるようであった。本日一番の収穫。

『バクチIII』
シャクティ:上野 水香
シヴァ:後藤 晴雄

 モーリス・ベジャール作。シヴァとその妻シャクティの踊り。バクチとはヒンドゥー語で敬愛を意味するとか。
 今年3月牧阿佐美バレエ団から電撃移籍した上野の移籍後日本初舞台。
 コールドに男性ダンサー数名。女性は上野のみ。全員赤いレオタードとタイツ姿。シヴァの存在感が不思議なほど希薄だが、シャクティはシヴァの一部でもあることを考えると、そもそもそういう構成なのかとも思う。驚くほどに均整のとれた上野の肢体は「踊るシヴァ神」と呼ばれる像を連想させる。音楽と振付もインド舞踊を意識していてその感をなおさら強めた。シヴァのエネルギーがシャクティという姿になって顕現したごとく、力強く幻惑的。本日二番目の収穫。

『エチュード』
エトワール:吉岡 美佳、木村 和夫、高岸 直樹
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

 ハラルド・ランダー作。基本的なバーレッスンから段々高度な技になり、最後は超絶技巧で締めくくる、バレエ・ダンサーの成長過程を通して古典的なバレエのテクニックをこれでもかと見せる。女性ダンサーは黒と白のクラシック・チュチュ、男性ダンサーは白とグレーのタイツ姿。音楽はツェルニーのピアノ練習曲をオーケストラ演奏用にアレンジしたもの。人気のある作品だし、何も考えずに楽しめるのだが、やや退屈してしまった。自分は単なる技の披露にはあまり興味がないのだと思う。

 ロビーでは久々にウラジーミル・マラーホフが王子役を踊る『ジゼル』と『白鳥の湖』のチケット先行予約を受け付けていた。観たいけれど、何かと出費の多い昨今、少々厳しい。来年の『SWAN LAKE』にはぜひ行きたいし。舞台は観始めるとキリがなくなるなぁと、ふと嘆息。


 


2004年08月09日(月) 討死

 今日は国立能楽堂9月公演のチケット発売日。目当ては11日の普及公演。能は『野宮』でシテは塩津哲生師、笛は藤田大五郎師。ぜひ観たい。が、某狂言方がアイで出勤。厭な予感。
 予感は的中し、電話は全く繋がらず、ぴあも発売から15分の時点で既に完売。10:50頃念のために再度電話するも、完売とこのと。
 舞台を観る理由は人それぞれだが、間狂言だけが目当ての人々のために(某狂言方ファンが全てそうだと言うつもりは全くない)能一番見逃すのはどうにも侘しい気持ちがする。
 願わくば、間語りが終了したらさっさと帰ったりせず、能の世界を味わっていってもらいたい。大五郎師の命を削るようにして紡ぎ出す、美しい音とともに。


2004年08月01日(日) 観世会定期能

観世会定期能 観世能楽堂 AM11:00〜

 豪華出演者に面白い番組構成ということで、出かけることに決定。
 発売日の午後1時過ぎに電話をすると、一般区画自由席は売切れとのこと。止む無く正面区画自由席を購入。12000円。高い。電話に出た係員は売切れだと告げるのみで、他はどうなのか一切言及せず。仕方がないのでこちらから尋ねる。チケットを売ろうという意識が全く感じられない(そもそもないのであろう)。初めて問い合わせた人ならば、戸惑うのでは。

 いろいろ不調。持病は騙し騙し。観賞に適した状態ではないのをひしひしと感じつつ、会場へ。予感は的中する。

 見所を前後に分断する通路を挟んで後列の前から2列目、目付柱寄りの端に着席。視界良好。
 隣に座った方がなぜか体をこちらに傾けてきて(その方の前列は空席だったので、観難いからという理由ではないと思われる)、肘掛けも占領され、かなり鬱陶しい。上手くはいかない。あああ。

 時間が経過し、気力体力ともに不足しているので簡単な記述にとどめる。

能 『賀茂』
シテ 寺井 栄
前ツレ 上田 公威
後ツレ 木月 宣行
ワキ 村瀬 純
ワキツレ 村瀬 堤、中村 弘(番組に記載なし 誤っている可能性あり)
アイ 山本 則重
笛 一噌 幸弘(噌) 小鼓 幸 正昭(清) 大鼓 高野 彰(高) 太鼓 小寺 佐七(観)
地頭 谷村 一太郎

 賀茂神社縁起にまつわる脇能。二系統ある縁起のうち、秦氏系のものを題材にしている。前シテ、ツレが若い女性という珍しい構成。金春禅竹作。今回初見。

 本曲のにみ使用される矢立台が正先に置かれる。中央に矢が刺さっている。 
 真ノ一声で前シテ、ツレが登場。無味無臭ですっきりとした幸弘師の笛が良い方向に作用して、まことに爽やか。大小はそれに比していまひとつ。前シテ、若竹色の唐織で、季節感もあり、涼しげ。この後、抗し切れない眠気に襲われ、半覚醒状態に。疲労の蓄積を実感。川づくしのあたりで覚醒。かすかな面の動きに川の流れを感じる。ツレは何故か女性という感じが出ず、残念。
 アイは末社の神。則重師、面をかけていても全くこもらない声。キビキビとした所作と舞。若手のこうした姿は観ていて本当に気持ちがいい。
 後ツレ、長絹、黒垂の天女の出立。御祖神であるので、もう少し重々しさが欲しかった。謡も舞もいま一歩の感あり。かけていた小面は実に愛らしく、観ているこちらもつられて微笑んでしまいそう。
 天女ノ舞の後、早笛で後シテの別雷が神登場。赤頭、唐冠、袷狩衣、半切、大飛出。手に幣を持つ。
詞章では矢が別雷であると取れるが、縁起では氏女が産んだ子供が別雷。詞章と同じ内容を持つ伝承もあるが、本文中に誤りであると指摘されている。作者が何ゆえこの支持されない説を採ったのか、気になるところ。単なる勘違いなどではないだろう。颯爽とした舞振りだが、もう少し強さが欲しかった。揚幕前で幣を捨てる際、狩衣の袖が裏返ってしまったが、特に何事も起こらず。
 曲中の季節と実際の季節が重なり、猛烈な暑さに辟易している身には、作品中の涼しげな空気がありがたかった。

狂言 『棒縛』(大蔵流)
シテ 山本 則俊
アド 山本 則直、山本 泰太郎

 酒を勝手に飲まれるのを防ぐため、次郎冠者に棒術を披露させている間にその腕を棒ごと縛めてしまう。協力した太郎冠者も直後に主により後ろ手に縛られるはめに。2人で協力しあって楽しい酒宴となるが、主が帰宅。怒った主を逆に追い回す。狂言と言えば真先に思い浮かぶくらい有名な曲だが、今回初見。
 
 シテは次郎冠者。則直師が太郎冠者、泰太郎師が主。
主の前で得々と技を披露する次郎冠者が微笑ましい。次郎冠者を縛った後、まさか自分もと驚きを隠せない太郎冠者は哀れ。異様な熱心さで酒を飲もうとする2人は、何か障害があったほうが真剣に事に当たるという例の見本。苦労して飲んだ酒はよりいっそう美味しかったことだろう。舞ったり謡ったりと、実に楽しそう。
次郎冠者が主に反撃するところは、積もり積もった鬱憤を一気に解放するがごとしで、爽快。
 曲自体が中だるみしない構成で面白く、山本家ならではのテンポの良さと卓越した身体技能で、楽しめた。

能 『誓願寺』
シテ 梅若 六郎
ワキ 森 常好
ワキツレ 舘田 義博、梅村 昌功(番組に記載なし)
アイ 山本 東次郎
笛 藤田 六郎兵衛(藤) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 亀井 忠雄(葛) 太鼓 助川 治(観)
地頭 観世 清和

 何と梅若六郎師のシテを拝見するのは今回が初めて。我ながら吃驚である。避けていたわけではないのだが。
 前シテ、藍地紅入唐織。面は増。橋掛かり二の松あたりに立った姿は不思議なくらいほっそりと感じられて可憐。ややクモラセた面は憂いを帯びて、はっとするほど美しい。謡の良さは言うに及ばず。この後、またまた急激に眠気が押し寄せ、我ながら厭になるのだが何としても抗えず、悲しい。
 後シテ、白舞衣に白紋大口。蓮華を頂いた天冠。長葛。面は増。菩薩であるという点を前面に押し出した出立。華麗。序ノ舞、充実していてあっと言う間に終了。
 この『誓願寺』という曲、短い期間に二度観たが、自分の中で未消化なまま。どうにもピンとこない。宗教的法悦というものを理解できないからか。舞を観ながらそんなことを考えた。
 六郎兵衛師の葛物を初めて聴いたが、しっとりと叙情的で優しく響く。こういう表現もまた良いものだと思う。いろいろな笛方が作り出す世界を楽しむことができるのは、嬉しい。
 どこか甘美で軽やかな空気を漂わせつつ、終曲。

仕舞
『通盛』  関根 知孝
『遊行柳』キリ  関根 祥六
『鐘之段』  武田 志房
『女郎花』  観世 芳伸 

能 『善知鳥』
シテ 野村 四郎
子方 観世 智顕
ツレ 吉井 基晴
ワキ 福王 茂十郎
アイ 山本 則秀
笛 寺井 久八郎(森) 小鼓 幸 清次郎(清) 大鼓 亀井 実(葛)
地頭 坂井 音重

 「三卑賤」と呼ばれる曲の中でももっとも陰惨な内容。作者不明。今回初見。
 前シテ、上品な様子であまり下層の人間という気がせず。袖を僧に託してすぐに中入。猟師の家に場面が移ったあたりで眠気揺曳。悲しい。
 後シテ、黒頭、面痩男、縷水衣、羽蓑。殺生を生業にせねばならない我が身を嘆くところは、どうにもならない閉塞感に包まれる。他の身分に生まれたいと思っても、それを自分で選択することはできない。猟を再現する場面では、緊迫した空気の中に、愉悦が見て取れた。獲物を捕らえるのに懸命になるのは猟師の性。そこに喜びを見出すのは当然であろう。これこそが業か。僧に救いを求めて消えてゆくが、その願いは叶えられることがない。誰にも、どうにもできないのだ。
 付祝言が重い空気を打ち払ったが、個人的にはその重さから逃げたくなかった。生きるために派生するどうにもならない不条理。

 疲労が溜まっている感強し。体力なしなので健康面にはあれこれ気を配っているのだが、どうにもならないこともある。求む!!!体力。
 


こぎつね丸