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2009年10月29日(木) プチ連載「一護とルキアの立場が逆だったなら/出逢い編(仮)」その9

鍔鳴りが小さく聞こえて数秒。
どさり、と背後で何かが落ちた。

「ギヤアアァァァ!!!」

右腕を肩から失った化け物が断末魔の叫び声を上げている。
が、さほど苦しがっているようにも見えないので単なる怒りの咆哮か。

「これでも死なないのか」

「お前・・・何者なんだ?」

飛ばされたはずの少年がすっかり体勢を整えて隣に居た。
相変わらず移動手段は分からないが、そんなことはどうでもいい。

「それよりも貴様、さっさとトドメをさせ!また来るぞ!」

「お前に言われなくても!」

しばらく咆哮していた化け物は私達の姿を見つけると、即座に向かってきた。
私と対峙した時は油断していたのか、単に今は頭に血が上っているだけか、そのスピードは格段に速い。

目の前を少年の影が過ぎる。
化け物の動きを読み、攻撃を全て見切ると一気に跳躍した。

「観念するんだな、魚ヅラ!!」

奴が刀を振り下ろす。

化け物の顔が縦に貫かれた。

「ギヤァァアァアァァァ!!!」

耐え難い悲鳴をあげて、化け物は静止した。

パラパラと体が崩壊していく。

例の髑髏が剥がれ、そしてゆっくりと闇に溶けていく。

「次はどこだ!?」

「今のがラスボスってとこだな」

構えを解かない私の肩を少年がぽんと叩いた。

夜がいつもの静けさを取り戻す。
残ったのは、私と、少年と、少年の側を舞う黒揚羽だけだった。


2009年10月18日(日) プチ連載「一護とルキアの立場が逆だったなら/出逢い編(仮)」その8

「そんな訳だからお前、家の中に逃げてろ!」

再び少年は化け物と対峙する恰好をとった。
日本刀が柄の部分まで血(体液?)に塗れている。それは多くの化け物を切ってきた証か。

(刀・・・?)

ふと何かひっかかるものを感じた。
そういえば少年はあの刀で戦っていたのか。

「お前とお前の姉貴、まとめて俺が護ってやる!」

私は玄関の中へ引き返した。
言葉が頭の中に蘇る。

『何かあったらこれで自分を護りなさい』

階段を勢いよく上がって部屋に飛び込みクローゼットを開けて検討を付けた場所に腕を差し込む。
手に当たった感触に満足して引き寄せるとそれを左手に抱えて再び玄関に向かった。

化け物と少年は先ほどと何ら変わらない状態で対峙している。

「何やってんだ!逃げてろっつっただろ!!」

私に気をとられこちらを振り向いた瞬間、化け物が動いて少年の体を横から打った。
転がるように民家の壁に打ち付けられる少年。
その行方も気にせず、化け物はこちらを見据えていた。

私は抱えたものをしっかりと左脇に固定するように握りなおした。

それは1本の薄汚れた日本刀。

腰を落とし、抜刀の構えをとって神経を集中する。

閉じた瞼の裏に、体の底から溢れ出すような気の流れが映る。

それを制御する感覚がどんどん研ぎ澄まされ高められていく。

(倒せる・・・!)

私は目を開いた。

「莫迦!お前なんかでどうにかなる相手じゃ・・・」

「五月蝿い」

体勢も立て直していない少年にそれだけ言うと同時に駆け出した。

化け物もこちらへと迫ってくる。

奴の動きは少年との戦いでなんとなく把握した。

自分の見込みが正しければ、左足を出した後に右手が振り上げられるはず―

案の定踏み込まれた左足を避けるように跳躍すると、視界にちらりと右手が写りこんだ。

―斬!


2009年10月12日(月) プチ連載「一護とルキアの立場が逆だったなら/出逢い編(仮)」その7

言葉はどちらが発したものとも分からなかった。

いつの間にか家から飛び出していた私の前には、化け物の姿があった。

少年が首だけこちらに向けている。

何かを言われている気がしたが、何も聞けず何も答えられなかった。

呆然と佇むしかない、その威圧感の前には。

私はただ殺されるのを待つ、ちっぽけな人間に過ぎなかった。



化け物が動いた。

(やられる・・・!!)

その瞬間、視界が真っ赤に染まった。

化け物が真ん中から綺麗に左右に分かれて倒れていく。

その間から現れたのは、先ほど別の化け物と戦っていた少年の姿だった。

「ふぅ!間に合った!」

さすがに最初の立ち回りの時のような余裕は消えていたが、
それでも体力はあるらしい。利き腕を大きく一振りすると軽く肩をならしている。

「お前、自分が狙われてるってのにまっっったく自覚がねーんだな!」

「・・・は?」

意味の分からないことを言われて、私は曖昧に聞き返すことしかできなかった。
まだ先ほどのショックから抜けきれていないせいもあるのだろう。

「簡単に言うとだ、この祭の原因はお前だよ」

「は!?私がどうして・・・」

「さっきの虚・・・化け物だけど、あいつらは霊力の高い人間のところに来る習性があるんだ。その霊力の高い人間がお前!」

びしっと指を差されて言われてもピンと来なかった。

「それも相当な霊力の高さのな!」

少年は言いながらくるりと私に背を向けた。
その先にはまた化け物が姿を現していた。


2009年10月04日(日) プチ連載「一護とルキアの立場が逆だったなら/出逢い編(仮)」その6

訳も分からずに私は姉の寝室を出た。
側にいた方が、という気はあの言葉を聞いて消え失せた。
おそらく姉は一人でも大丈夫だ。
根拠はないけれど、そんな確信が私の中を占めている。

それはそうと、『行け』とはどこへ行けというのだろう?
開け放たれた玄関の向こうでは、少年が戦っていた。
相手は先ほど見た化け物とは背格好がまったく違う。

「くそ!どんどん湧いてきやがって・・・今日は何の祭だってんだ畜生が!」

毒づきながらもあっという間(と言うと間抜けなようだが)に化け物を倒していく。

(まさかあの場?)

そんなこと生身の人間、しかも大人でもない、ただの高校生にできるわけがない。
一応体力も気力もついでに度胸もそれなりにはあるつもりだが、
さすがに化け物相手にまともに戦えるようにはできてはいない。

ふらりと、新たな化け物と戦う少年の背後に違う化け物が現れた。
本当にどこから生まれてきているのか分からないけれど自然に、
ゆっくりと少年に近づいていく。

少年は気づいているのかいないのか。

化け物が手を振り上げた。

「逃げろ!!!」


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