今日の日経を題材に法律問題をコメント

2014年06月30日(月) 相続税対策などで、賃貸物件の建設が急増

 日経(H26.6.30)1面で、住宅市場で賃貸物件の建設が急増しているという記事が載っていた。


 原因は、都市部の地価持ち直しで生命保険会社などの投資マネーが流入していることのほか、相続税増税を控えた個人の節税投資もみられるとのことである。


 相続税対策をすること自体は悪いことではない。


 ただ、賃貸物件は、今後の人口減少によりニーズが減ることが予想され、とくに、都心部から離れた賃貸物件は、投資対象として疑問に思う。


 経済専門家でもないのにこのようなことを言うのは、業務上、建築後10年以上経過して空室が目立つようになり、ローンを抱えて苦しんでいる事例をしばしばみるし、相談を受けることもあるからである。


 投資目的、相続税対策目的で賃貸物件に投資するのであれば、できるだけ都心の物件を対象にした方がよいと思う。



2014年06月27日(金) 公平な裁判という物差しを無視すべきでない

 日経(H26.6.20)社会面で、女児虐待死事件で傷害致死罪に問われた両親の上告審で、最高裁は、検察側と弁護側の双方の意見を聞く弁論を開いたという記事が載っていた。


 一審の裁判員裁判は求刑の1.5倍となる懲役15年を言い渡し、二審もこれを支持していたが、最高裁が弁論を開いたことにより、その判断を見直す可能性が高くなった。


 傷害致死罪で懲役15年となると、殺人罪の平均的量刑よりも重い。


 いかに裁判員裁判では市民感覚を重視すると言っても、公平な裁判という見地からは、同じような事情であれば同じような量刑にすべきであろう。(何が「同じ」かを見極めるのが重要であるが。)



2014年06月25日(水) 詐欺破産の罪は重い

 日経(H26.6.25)夕刊で、出会い系サイトの運営で得た売上金など約2億3700万円を破産手続き前に隠したとして、破産法違反(詐欺破産)などの罪に問われた会社役員に対し、東京地裁は、懲役4年、罰金8千万円の実刑判決を言い渡したと報じていた。


 破産の際に財産を隠すという話は聞くことがある。


 しかし、詐欺破産に対する処罰は重い。


 とくに、その金額が2億円を超えている以上、破産管財人は絶対に告訴するであろうし、実刑判決は当然ということなる。



2014年06月24日(火) 日本でも司法取引か

 日経(H26.6.24)1面で、法制審議会で、法務省が他人の犯罪を明かせば処分を軽くする「司法取引」の導入などを盛り込んだ新たな試案を示したと報じていた。


 司法取引については、自分の刑を軽くするために、共犯者について虚偽の供述をする危険性などが指摘されている。


 ただ、捜査段階で、「この件は事件化しないから、この件については認めろ」というようなことは実際には行われている。


 そのように水面下で司法取引を行うくらいであれば、制度として認めた方がよいのかもしれない。



2014年06月20日(金) 都議会でセクハラのヤジ

 日経(H26.6.20)社会面で、東京都議会で、妊娠や出産を巡る都の支援について質問していた女性都議に対し「自分が早く結婚しろ」「産めないのか」などとヤジが飛んだという記事が載っていた。


 企業から、女性社員が上司からセクハラを受けたと訴えてきているが、どのように対処すべきかと相談を受けることがある。


 その場合、対応の前提として、セクハラの内容や、セクハラをした者とそれた者との職場での関係などの事実関係を聞くことになる。



 事実関係が分からなければ、適切な対処をすることはできないからである。


 ところが、都議会での発言では、発言は自民党の議員が座る席の付近から聞こえたとのことであるが、自民党は発言者の特定はしない方針とのことである。


 そのように事実調査を放棄するというようなことは、企業の場合にはあり得ないことなのだが。



2014年06月19日(木) 法テラスで弁護士の交通費を水増し

 日経(H26.6.19)社会面で、法テラス栃木が2007年8月〜13年9月、弁護士4人に計約66万円の交通費を過払いしていたと報じていた。


 担当副所長(弁護士)が費用を水増しするよう職員に指示していたとのことである。


 水増しをした理由は、「国選弁護士の確保に苦労していたので、減額すると影響が出ると思った」とのことであり、動機に悪質性はないようである。


 ただ、広く薄く交通費の水増しを認めていたのであればともかく、弁護士4人という少人数に限定して水増しをしていた点が気になる。



2014年06月17日(火) 買収防衛策を導入す企業は減少?

 日経でなく朝日(H26.6.17)朝刊で、ゲームソフト会社のカプコンの株主総会で、会社側が提案した買収防衛策が否決されたという記事が載っていた。


 買収防衛策は、一時もてはやされ多くの企業が導入したが、果たしてそれが必要かについては疑問がもたれている。


 株主にとっては、買収によって高値で株式を買い取ってくれれば利益を得ることができるし、買収によって企業の業績が上がれば、従業員にとっても悪いことではない。


 結局、買収防衛策は、既存の経営陣の防衛策ではないかと批判されても仕方がない面がある。


 そのようなこともあり、今後、買収防衛策を導入する企業は減少していくのではないだろうか。



2014年06月16日(月) 社長(代表取締役)の選任権者

 日経(H26.6.16)「私の履歴書」でアサヒビール元社長の福地茂雄が、「樋口廣太郎会長から、ちょっとしたへまをする度に、『君を専務にするんじゃなかった』『副社長にするんじゃなかった』『社長にするんじゃなかった』と言われたと書いていた。


 社長(代表取締役)を選任するのは取締役会である。また、「専務」「副社長」は会社法上の役職ではないが、その選任は取締役会の決議事項になっているはずである。


 しかし「社長にするんじゃなかった」という福地氏の話から窺えるのは、実質的な選任権は社長一人にあるということである。


 そんなことは改めて指摘する必要もないことであるが、それが具体的に分かるエピソードではある。



2014年06月13日(金) 予備試験を制限せず

 日経(H26.6.13)社会面で、政府の法曹養成制度改革推進室は、法科大学院を修了しなくても司法試験の受験資格が得られる予備試験の受験資格を制限するのは困難との見解を示したという記事が載っていた。


 予備試験は、経済的事情などで法科大学院に通えない人を想定して導入されたが、実際は現役学生が法曹への近道として受験しているため、制度の見直しを求める声が出ていた。


 ところが、政府は、法曹志望者の減少につながるとして、予備試験を制限するのは困難と結論づけたようである。


 しかし、予備試験を制限したからといって、法曹志望者全体が減少するとは思えない。


 予備試験を制限して減少する可能性があるのは、法科大学院までいって法曹になろうとは思わない、優秀な人たちであろう。


 それゆえ、予備試験を制限しない本当の理由は、優秀な人が裁判官や検事になる道を制限したくないということではないか、と勘繰ってしまう。



2014年06月11日(水) 「監査等委員会設置会社」制度は不要である

 日経(H26.6.11)27面で、会社法改正案の「監査等委員会設置会社」制度の創設について解説していた。


 「監査等委員会設置会社」制度とは、3人以上の取締役でつくる監査等委員会が取締役の職務執行を監査するもので、現行の監査役会設置会社、委員会設置会社に次ぐ第3の制度として、企業が選択できるようになる。


 しかし、現行制度で十分であり、新しく第3の制度を作る必要があるとは思われない。


 「監査等委員会設置会社」を創る必要性としては、次の点が言われている。


 取締役会での議決権を持たない監査役による監査制度は世界的に見ても珍しく、諸外国の投資家からの理解を得にくい。

 一方、委員会設置会社では、過半数の社外取締役で構成される指名委員会及び報酬委員会で役員人事や報酬が決定されることには抵抗感が強く、この制度を採用する会社が少数に止まっている。

 そのため、監査役会設置会社と委員会設置会社の中間的な制度を創る必要があるというのである。


 しかしそれは、「外国の投資家には理解を得たいが、役員人事や報酬の決定権を委員会に委ねるのは嫌だ」という経営者の自分勝手な考えに過ぎない。


 しかも、委員会に役員人事や報酬決定権がない「監査等委員会設置会社」というのは、いかにも中途半端であり、外国の投資家から理解が得られるのか疑問である。


 現行でも監査役の独立性は高く、制度設計としては問題があるとは思えないし、外国の投資家の理解を得たいのであれば委員会設置会社に移行すればいいだけである。


 それゆえ「監査等委員会設置会社」という新しい制度を創る必要性はないと思う。



2014年06月10日(火) 取り調べの可視化を都合よく使っていないか

 日経(H26.6.9)夕刊で、栃木小1女児殺害事件で、殺人容疑で逮捕された勝又容疑者は、殺害や遺体遺棄を認めているものの、具体的な方法や場所については供述を二転三転させており、全容解明には至っていないという記事が載っていた。


 捜査本部は取り調べの過程すべてを録画しており、そこには、事前の捜査で得ていた状況と一致する内容を供述する勝又容疑者の姿が記録されているとのことである。


 仮に、公判で容疑者が否認に転じた場合、そのような供述の録画は、有罪の重要な証拠となるだろう。


 もちろん、この事件で取り調べを可視化することはまったく問題ない。


 問題があるとすると、捜査機関が、都合のよいときだけ取り調べを可視化していることであろう。



2014年06月09日(月) 小学校校長が、勤務先の女子トイレで盗撮

 日経(H26.6.9)夕刊で、高崎市立小学校の校長(56歳)が、勤務先の小学校の女子トイレで盗撮していたという記事が載っていた。


 とんでもない校長だと非難することは簡単だが、56歳でしかも自分の勤務先の小学校でこのようなことをすることは病気である。


 「病気」というのは比喩的に言っているのではなく、実際に病気なのだと思う。


 それゆえ、こういう人には治療こそ必要なのであるが、治療法が確立しているとはいえず、裁判でも量刑事情としてほとんど考慮されないのが実情である。



2014年06月06日(金) 出生前診断の誤った告知で、医院側に賠償命令

 日経(H26.6.6)社会面で、胎児の出生前診断結果の誤った説明を受けた両親が人工中絶の選択権を奪われたとして、産婦人科医院に損害賠償を求めた訴訟で、函館地裁は、計1千万円の支払いを命じたという記事が載っていた。


 胎児の染色体異常の有無を調べる羊水検査でダウン症の陽性反応が出たが、院長は、母親に「陰性だった」と誤って伝え、赤ちゃんは生後、ダウン症と診断され、3カ月半後に死亡している。


 判決では、「羊水検査で染色体異常があったという結果を正確に告知していれば、中絶を選択するか、選択しない場合、心の準備や養育環境の準備ができた。誤った告知で両親はこうした機会を奪われた」としている。


 病院側に過失があることは間違いない。


 問題は、その損害として1000万円が妥当かということであり、両親側の悲しみは理解できるが、その金額の妥当性については疑問が残る。



2014年06月05日(木) 諫早湾干拓事業 最終的には現状を維持する判断になるのでは

 日経(H26.6.5)社会面で、諫早湾干拓事業の堤防排水門の開門調査を巡り、長崎地裁は、開門差し止めを命じた仮処分決定に従わず開門した場合、国が干拓地の営農者らに1日49万円の制裁金を支払う「間接強制」を認める決定をしたと報じていた。


 この事件では、佐賀地裁が、開門しない場合は開門派の漁業者側に1日49万円を支払うよう国に命じている。


 その結果、国は開門してもしなくても制裁金の支払い義務を負うことになった。


 いずれの決定も福岡高裁に不服が申し立てられているが、最終的には最高裁で決着がつくことになる。


 ただ、それは間接強制についての判断である。


 開門すべきとの福岡高裁の判断は確定しているが、開門を認めなかった長崎地裁の事件はまだ係属しており、開門するか否かの最終判断はさらに先になる。


 混迷は続くが、すでに現状の下で多くの人々が生活を送っており、それを元に戻すのは抵抗が大きいのではないだろうか。


 したがって、最終的には、司法としても現状を維持する方向での判断になると思う。



2014年06月04日(水) 日本航空の整理解雇 東京高裁は乗務員の請求を退ける

 日経(H26.6.4)社会面で、日本航空の会社更生手続き中に整理解雇された元客室乗務員71人が、解雇取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は、一審と同様に、乗務員側の請求を退けたという記事が小さく載っていた。


 日本航空は現在V字回復しているから、解雇された従業員にとっては「本当に解雇する必要があったのか」という気持ちは強いだろう。


 ただ、会社更生手続き中の解雇ということになれば、通常は整理解雇の要件は充たしているはずであり、解雇を有効とした裁判所の結論はやむを得ない。



2014年06月03日(火) 記者の取材源の秘匿

 日経(H26.6.3)夕刊面で、アメリカ最高裁は、情報源を守るために記者が法廷証言を拒むことができるかどうかが争われた訴訟で、証言の拒否を認めるよう求めた記者側の訴えを退ける判断を示したと報じていた。


 記事には、自由な報道が保障されているアメリカで記者の証言拒否が認められなかったという驚きのニュアンスが窺われる。


 しかし、アメリカでは、従前は取材源の秘匿には厳しい態度を取ってきており、ただ比較的最近になって記者の取材源の秘匿特権が拡大してきたと言われている。


 しかも、記者が証言を求められたのは、「情報漏えいの罪に問われたCIA元職員の裁判」ということだから、刑事事件であろう。


 日本でも、刑事事件では、最高裁は、記者の取材源の秘匿は認めていない。(民事事件では、原則として認められている。)


 そうすると、それほど驚くべき判決ではないように思われる。


 < 過去  INDEX  未来 >


ご意見等はこちらに
土居総合法律事務所のホームページ


My追加
-->