今日の日経を題材に法律問題をコメント

2009年08月31日(月) 更新料無効の大阪高裁判決について

 日経(H21.8.31)朝刊はすべて選挙の記事なので、先週の大阪高裁が「更新料は消費者の利益を一方的に害し、無効」と判断した記事について。


 この大阪高裁の判例は、すでに弁護団によってアップされているので、その判決を読んでみた。


 この事件では、賃料が4万5000円、更新料は10万円を毎年支払うことになっており、更新料が異常に高い。


 ただ、本来であれば賃料がもっと高い物件を、月4万5000円として安く見せ、その代わり更新料を高く取って、総額を変わらないようにしていると考える余地はある。


 そのような商法はあり得るだろうし、総額が変わらないのであれば問題ないようにも思える。


 ところが、大阪高裁は、「家賃を一見少なく見せることは、消費者契約法の精神に照らすと許容されることではない」と判断した。


 ずいぶん大胆な判断だなあと驚いた。



2009年08月28日(金) 大阪高裁が更新料は無効と判断

 日経(H21.8.28)社会面で、大阪高裁が、「更新料は消費者の利益を一方的に害し、無効」と判断したと報じていた。


 朝日新聞では1面トップの扱いであり、影響は大きいと思われる。


 ただ事案をよく読むと、賃料が4万5000円の物件で、更新料は10万円、しかも毎年支払うことになっていたようである。


 通常は、更新料は2年に一度、新賃料の一か月分であるから、異常に更新料が高いケースである。


 その意味では特殊な事案である。


 ただ、更新料無効の判決が出たことから、今後、裁判は増えるだろう。


 いずれ最高裁の判断もなされるだろうが、2年に一度、新賃料の1か月分程度であれば、最高裁は更新料を認めるのではないかと思うが・・。



2009年08月26日(水) 総務省がストリートビューにお墨付き

 日経(H21.8.26)社会面で、総務省の研究会が、グーグルのストリートビューについて、「顔などをぼかす配慮があれば、個人情報保護法に違反しないとの見解を示した」という記事が載っていた。


 私も、ストリートビューは個人情報保護法に違反するものではないと思う。


 また、個々の画像についてプライバシー権や肖像権侵害が問題になるケースはあるかもしれないが、ストリートビューというシステム全体がプライバシー権、肖像権を侵害していると考えることは困難であろう。


 逆に、ストリートビューの有用性はもはや否定できないと思う。


 ただ、ストリートビューに対しては問題視する意見も多数あるのは事実である。


 その中で、なぜ行政がストリートビューにお墨付きを与えるような報告書を出すのかがよく分からない。



2009年08月25日(火) 同乗者を危険運転致死傷罪のほう助で起訴

 日経(H21.8.25)社会面で、酒に酔って車を運転した男が衝突事故を起こし、9人が死傷した事件で、さいたま地検は、同乗していた男2人を危険運転致死傷の幇助罪で在宅起訴したと報じていた。


 記事では、「2人は、事故を起こした被告の車に同乗し、アルコールの影響で正常な運転が困難な状態だったことを黙認した」と書いていた。


 しかし、黙認したかどうかがポイントではないから、この記事はやや不正確である。


 ほう助とは犯罪を助ける行為であり、不作為でもよいとされている。


 ただ、不作為のほう助が成立するためには、法律上犯罪を防止すべき義務がある場合でなければならない。


 防止すべき義務があるのにもかかわらず、なにもしなかったことが犯罪となるのである。


 したがって、飲酒運転を黙認しただけでは、危険運転致死傷罪のほう助犯は成立しない。


 すなわち、ポイントは、同乗者に、飲酒運転を制止する法律上の義務があったかどうかである。


 この事故は昨年2月に起きており、1年以上も前の事件であるから、この点について検察庁は相当慎重に捜査を進めたのだろう。



2009年08月24日(月) 企業不祥事で安易に調査委員になると名を汚すおそれがある

 日経(H21.8.24)16面で、不祥事を起こした企業が設ける社外調査委員会の報告書の客観性が揺れているという記事が載っていた。


 例えば、不適切な会計処理をしたフタバ産業では、3つの社外調査委員会の報告がなされた。


 このうち、最初の委員会では「不適切な会計処理は意図的ではなかった」というものだった。


 ところが、2つ目の調査委員会では、経営者の責任を認めるものとなり、3つ目の責任追及委員会では「取締役12人への損害賠償責任がある」とした。


 もちろん、最初の調査委員会が、意図的に経営者の責任追及を緩めたわけではないと思う。


 ただ、経営者によって選ばれた調査委員会には、関係者も経営者に不利な情報を上げないと思う。


 その結果として、経営者の保身につながるような調査報告になったのではないだろうか。


 そうは言っても、経営者の保身につながりかねない調査報告をした委員は恥をかいたことになる。


 教訓は、企業の不祥事があった場合に、安易に調査委員になったりすると名を汚すおそれがあるということだろうか。



2009年08月21日(金) 「ネットでの応援 要注意」、なのか?

 日経(H21.8.20)社会面で、「ネットでの応援 要注意」という見出しで、ブログなどで特定候補者を応援すると公職選挙法に問われる可能性があるという記事が載っていた。


 その記事の中で、3年前、沖縄県知事選で特定の候補者をブログで応援していた個人に対し、沖縄県警が「公職選挙法違反である」と警告したと書いていた。


 確かに、行政の見解はネットでの選挙運動は公職選挙法に違反するというものである。


 しかし、その理由は「ネットは文字が表示されるから文書である」という非常に形式的なものであり、裁判でそのような解釈が肯定されたわけではない。


 しかも、ネット利用を解禁する法律の改正案が国会に提出されているほどである。


 そのような中で、ネットでの選挙運動に対して警察が警告するというのは行き過ぎではないかと思う。



2009年08月19日(水) 日の丸2枚で民主党旗をつくる行為

 日経(H21.8.19)2面で、鹿児島県での民主党集会で、日の丸2枚を切り張りして民主党旗をつくった問題で、民主党幹事長が主催者を注意したという記事が載っていた。


 この問題では、外国の国旗を損壊した場合には、刑法92条で犯罪になるとされているのに、日本の国旗についてはそのような規定がないことが指摘された。


 確かに、日本国旗については外国国章損壊罪のような規定はない。


 しかし、外国国旗の場合も、損壊すれば直ちに犯罪になるのではなく、「外国に対して侮辱を加える目的」をもって損壊した場合のみ処罰される。(それ以外に、外国政府の請求も必要である)


 そのため、日本国旗について仮に同様の規定があったとしても、今回の民主党旗を作った行為は犯罪にはならないであろう。


 もっとも、日の丸2枚で民主党旗をつくろうという発想自体に政治的センスがないとは思うが。



2009年08月18日(火) 「最高裁裁判官の国民審査も告示」

 日経(H21.8.18)夕刊1面トップは「衆議院選挙公示」であったが、その下に小さく「最高裁裁判官の国民審査も告示」と載っていた。


 最高裁裁判官の国民審査は、国民による民主的コントロールのためである。


 国民から遠い裁判官に対し、民主的コントロールを及ぼそうとする趣旨は素晴らしいと思う。


 しかし、これまで国民審査により罷免された最高裁裁判官はなく、国民の関心もほとんどない。


 つまり、理念と実態が離れているのである。


 憲法改正の機会があれば(当分はないだろうが)、この制度は見直したほうがよいのではないかと思う。



2009年08月17日(月) 取り調べの全面可視化について

 日経ではなく昨日の朝日(H21.8.16)社説で、捜査における取り調べの全面可視化について論じていた。


 基本的論調は「全面実施へ議論急げ」というものである。


 もっとも、取り調べの可視化に対しては、警察、検察庁などから強力な反対論がある。


 録画すると、暴力団などの組織犯罪では、後が怖くて自白しなくなるというのが一つの理由である。


 しかし、裁判では録画したものを公開禁止とすることも可能であるから、「全面可視化すると自白が取れなくなる」というのは杞憂だと思うが・・。



2009年08月14日(金) 外国為替証拠金取引の証拠金倍率

 日経(H21.8.14)夕刊で、外国為替証拠金取引(FX)の規制について書いていた。


 証拠金倍率は、一年後に50倍、最終的に25倍に下げられるが、それでも規制として緩やかなのではないかと思う。


 取引で100%勝つことは絶対にできない。


 ところが、証拠金の何十倍もの取引をしていると、一度でも負けるとばん回が効かないおそれが高い。


 何でも規制することは問題であるが、ここは規制を強める場面ではないだろうか。


 そうでないと、「自己責任の原則」と言ってられないくらいの消費者被害が出るおそれがある。



2009年08月13日(木) 裁判員に対する質問に裁判所職員が回答を制止

 日経(H21.8.13)社会面で、さいたま地裁での裁判員裁判で、判決後のマスコミによる裁判員への質問に対し、裁判所職員が「守秘義務違反にあたる可能性がある」として回答を制止したと報じていた。


 回答の内容次第では守秘義務に反する回答になる恐れがあったかも知れない。


 しかし、裁判所職員が回答を制止するのは行き過ぎではないか。


 ただ、制度定着のためにはいろんな問題が生じるだろうし、一つ一つ解決していくしかないだろうとは思う。



2009年08月12日(水) 「酒井法子 不起訴」?

 日経でなく昨日のネットニュース(H21.8.12)で、「酒井法子 不起訴か」という記事が載っていた。


 覚せい剤の所持量は微量だったので、所持罪については不起訴であろう。


 しかし、使用罪での起訴は可能と思う。


 使用罪で起訴する場合に問題になるのは、尿検査での反応がなかったため、覚せい剤を使用した日の特定ができるかということである。


 この点は、夫と一緒に使用したことがあると報道されており、そうであれば、覚せい剤を使用した日についての夫の供述と、酒井容疑者の供述が一致すれば特定としては十分であろうと思う。


 言いかえれば、酒井容疑者が覚せい剤の使用を徹底的に否認し、夫も否認すれば、起訴はできないことになる。



2009年08月11日(火) 収賄容疑で警察官を逮捕

 日経(H21.8.11)社会面で、風俗店に取締まりの対象から外す便宜を図り、見返りに礼金を受け取ったとして、収賄容疑で警察官を逮捕したという記事が載っていた。


 謝礼をもらって取締り対象から外すというのは、かなり悪質な行為であるから、逮捕は当然であろう。


 ただ、警察官が被疑者の周辺の人間に捜査情報を漏らすということはしばしば聞く。


 捜査情報といっても、ほとんどは捜査に悪影響を及ぼすものではないが、それにしても警察は情報管理が甘い気がする。



2009年08月10日(月) 毛髪鑑定は万能ではない

 日経(H21.8.10)社会面に、酒井法子逮捕の続報が載っていた。


 尿検査で反応しなかったため、捜査機関は、毛髪鑑定を検討しているようである。


 この事件では、酒井容疑者は覚せい剤使用を認める供述をしてるし、夫も酒井容疑者の覚せい剤使用を認めている。また、ストローなど使用した跡もある。


 その上で、毛髪鑑定によって覚せい剤使用の証拠を補強することはあり得るかもしれない。


 しかし、尿検査に反応せず、被疑者も否認しているケースで、毛髪鑑定だけで有罪の証拠とすることはできないだろう。


 毛髪鑑定で覚せい剤の使用歴が裏付けられたりしたとしても、それだけでは使用した日時を特定することができないからである。(もちろん、使用日時のある程度の幅は認められるが、あまりに漠然とした日時では公判を維持できない。)


 今後、鑑定技術が進めばどうなるか分からないが、いまのところ、毛髪鑑定は、他の証拠の補強程度の役割しかないといえるだろう。



2009年08月07日(金) 初の裁判員裁判 懲役15年の判決

 日経(H21.8.7)社会面トップは、やはり裁判員裁判であった。

 判決は、懲役15年。

 求刑が懲役16年だったから、やや重いと思う。


 弁護側は被害者の落ち度を主張したが、この事件でそれは無理筋であろう。裁判員の理解も得られなかったようである。


 裁判員裁判第1号ということで、弁護人も力んだのだろうか。


 私だったら、72歳の被告人を刑務所に16年も置いたら終身刑と同じになってしまい、更生の意欲を失ってしまう、ということを前面に出したと思う。


 そのような主張がどれだか功を奏するかは分からないが、裁判員にアピールするという意味では、被害者の落ち度を強く主張するよりはまだよいと思うのだが。



2009年08月06日(木) 弁護側も具体的な刑を主張したほうがよかったのでは

 日経(H21.8.6)社会面は、毎日、裁判員裁判の記事が掲載されている。


 昨日の裁判では、検察側が懲役16年を求刑したのに対し、弁護側は寛大な判決を求めたようである。


 しかし、裁判員にアピールするためには、具体的に「懲役何年にして欲しい」と言った方がよかったのではないか。


 もっとも、この事件で弁護側が「懲役10年にして欲しい」と言ったら、被告人は、「10年も刑務所に入れろと言うのか。おまえは誰の味方なんだ」と思うかもしれない。


 そのため、弁護側が「懲役何年が相当である」と具体的な刑を主張するためには被告人との十分な打ち合わせが前提となるだろう。



2009年08月05日(水) 飲酒運転だけを理由に免職や解雇することは難しい

 日経でなく朝日ネットニュース(H21.8.5)で、酒を飲んで運転したことを理由に懲戒免職処分にされたのは不当だとして、佐賀県の元県立高校教諭が県に処分の取り消しを求めた裁判で、福岡高裁は、処分を取り消した一審・佐賀地裁判決を支持し、県側の控訴を棄却したと報じていた。


 つまり、懲戒免職処分は認められなかったわけである。


 このケースでは、酒気帯び運転にならない程度のアルコール量に過ぎなかったという事情はある。


 ただ、かりに酒気帯び運転に該当する場合であったとしても、それだけで懲戒免職処分にすることは難しいだろう。


 もちろん、飲酒運転は重大事故につながるものであり、許されるわけではないが、行為の違法性と、懲戒免職という処分とのバランスがあまりに悪いからである。


 飲酒運転は免職と定めている自治体は多いかもしれないが、早急に見直したほうがよいと思う。



2009年08月04日(火) 裁判員裁判が始まる

 日経(H21.8.4)社会面は、ほとんど「裁判員裁判が始まる」という記事であった。


 裁判員制度については賛否両論があるが、「始まった以上やるしかない」というのが、弁護士、裁判官、検察官の大方の考えだと思う。


 ただ、危惧されるのは、分かりやすくすることを重視すればするほど、情報量が低下するということである。


 詳細な証拠を裁判に提出し、裁判官がそれを読み込むという『精密司法』は、それ自体が悪いわけではないと思うのだが。



2009年08月03日(月) クレームと思わない方がいい

 日経(H21.8.3)16面「リーガル3分間ゼミ」で、「顧客からのクレームがしつこく、業務にも支障」ということについて書いていた。


 解説では「度が過ぎれば恐喝罪になることもある」としていた。


 しかし、クレームを受けている側の相談を受けると、こちら側にもそれなりに落ち度があることが多い。


 私は、顧問会社には「クレームと思わないほうがいい」とアドバイスすることが多い。


 クレーマーだと思うと、そのような対応になってしまい、ますます問題がこじれるからである。


 もちろん、業務に差し支えがあるほどひどい場合には録音をしておくなどの対応は必要である。


 しかし、基本的には、是正の機会を与えてくれるありがたい指摘と思って対応したほうがうまくいくと思う。


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