今日の日経を題材に法律問題をコメント

2008年04月30日(水) 渋谷の夫殺害事件の鑑定について

 昨日の日経(H20.4.29)社会面で、渋谷の夫殺害事件で、東京地裁は、妻に対し、「犯行時に責任能力はあった」として懲役15年を言い渡したことについての続報が載っていた。


 この事件では、鑑定医2人は「犯行時は心神喪失状態」としているが、裁判所は「鑑定は信用できる」としつつ、「心神喪失」とは認めなかった。


 つい最近、最高裁は、「合理的な理由がない限り、鑑定医の意見は十分尊重すべきだ」とする判断を示した。


 そして、鑑定を否定する合理的な理由として(1)鑑定人の公正さや能力に疑問がある(2)鑑定の前提条件に問題がある場合を例として挙げている。


 夫殺害事件で東京地裁は、鑑定は信用できるとしており、鑑定医の能力に疑問があるとか、前提条件に問題があるとは述べていない。


 そうすると、最高裁の示した基準からすれば、裁判所は鑑定医の意見を尊重すべきことになってしまう。


 東京地裁の判断が誤りであるというつもりはないが、鑑定医の鑑定を採用しないのであれば、その理由を最高裁の基準に照らして示す必要があったのではないかと思う。



2008年04月28日(月) 被告人が黙秘をした場合

 日経(H20.4.28)社会面で、大阪地検は、詐欺罪で、田中元検事を起訴したという記事が載っていた。


 ただ、田中元検事は、事件について黙秘しているそうである。


 この事件では、元秘書たちが「田中被告は金を騙しとるつもりだった」と供述しているようであるから、黙秘しても有罪になるだろう。


 しかし、仮にすべての事件で被告人が黙秘したとすると、少なくとも10%は証拠不十分で起訴できなくなるのではないだろうか。



2008年04月25日(金) 「幇助犯」といえるか

 日経(H20.4.25)社会面で、飲酒運転で、高校生の列に突っ込み、3人が死亡、15人が重軽傷を負った事件で、仙台地検は、道交法違反の幇助として、助手席の男性を起訴したという記事が載っていた。


 この男性は、一度は不起訴となったが、検察審査会が不起訴が不当であると議決し、それを受けて再捜査の上、起訴したものである。


 この男性は、飲酒運転することを知りながら助手席に同乗し、自宅まで送ってもらおうとしたようであり、悪質であることは間違いない。


 ただ、その行為が「運転手の飲酒運転を容易にした」といえるのだろうか。


 「幇助犯」というにはやや無理があるように思う。




2008年04月24日(木) 安田弁護士に、罰金刑の逆転有罪判決

 日経(H20.4.24)社会面で、顧問先の不動産会社に資産隠しを指南したとして強制執行妨害罪に問われた安田弁護士に対し、東京高裁は、無罪とした東京地裁判決を破棄して、罰金50万円(求刑懲役2年)の有罪を言い渡したと報じていた。


 懲役刑となれば、執行猶予がついても弁護士資格を失うが、罰金刑では弁護士資格を失わない。


 また、罰金刑とはいえ、未決勾留日数があるから、それを換算すると、実際に罰金を支払うことはない。


 他方、検察側は、一審無罪が破棄され、有罪になるのだから面目が立つ。


 どちらにも都合のよい判決になるはずだった。


 しかし、「どちらにも都合のよい」判決というのは、往々にしてどちらからも不満が持たれるものであり、実際、被告人からも検察庁からも強い不満が出ているようである。



2008年04月23日(水) 就業規則の規定の仕方の重要性

 日経(H20.4.23)社会面に、うつ病で解雇された東芝の社員が、休職期間終了を理由に解雇したのは不当として、解雇無効確認を求めた訴訟で、東京地裁は、解雇無効としたという記事が載っていた。


 勤務内容がハードになってきているためか、人間関係が複雑になってきているためか分からないが、社員がうつ病になるケースは増えているように思われる。


 そして、休職しても体調が戻らないこともよくあるようである。


 休職期間が満了した場合の取り扱いについて、就業規則で「休職期間満了後も休職事由が消滅しないときは、自然退職とする」と規定していることが多い。


 ただ、「休職事由が消滅しないときは『解雇する』」と規定していることもある。


 記事では「解雇無効確認を求めた」とあることから、東芝の就業規則は「解雇する」と規定していたようであり、その規定に基づき解雇したと推測される。


 しかし、解雇となると、解雇の合理的事由がなければならない。


 そのため、会社の業務に起因してうつ病になったのに、解雇するのは不当であるということになったのであろう。


 これに対し、もし就業規則の規定が、「解雇する」ではなく、「自然退職とする」としていればどうだったであろう。


 この場合には、労働者側としては、就業規則の有効性を争うか、一般的な権利の濫用法理を持ち出して争うしかないように思われる。


 それゆえ、ひょっとすると結論は逆になったかもしれない。


 就業規則の規定の仕方次第で結論が変わることはあり得ることであり、就業規則の作成に当たっては十分な注意が必要であろう。



2008年04月22日(火) 事後審について

 日経(H20.4.22)社会面で、旧長銀の粉飾決算事件で、最高裁は、旧経営陣に対して有罪とした1、2審の判決を見直す見通しと報じていた。


 「有罪判決を見直す」のだから無罪の方向になるのだろうが、この場合、最高裁は無罪判決ではなく、「もう少しよく調べなさい」として、高裁に差し戻すことになると思われる。


 最高裁が、原審に差し戻さずに自ら判決することを「破棄自判」というが、これは例外的場合とされているからである。


 破棄自判が例外なのは、上級審は、事件そのものを再度審理するのではなく、原審の判決の当否を判断するだけとされているからである。


 原判決の当否を判断するだけだから、原判決が正しければ、「控訴棄却」「上告棄却」となるし、原判決が間違っていれば「原判決を破棄して、事件を原裁判所に差し戻す」ということになる。


 すなわち、自ら事件そのものについて判断しないのである(これを「事後審」という。)。


 理屈ではこのようになるが、裁判はまだまだ続くわけであり、被告人にとってはつらいことであろう。



2008年04月21日(月) 「言い換え用語集」?

 日経(H20.4.21)夕刊に、来年5月から始まる裁判員制度に向けて、日弁連が、一般市民に理解してもらうための言い換え用語集を出版したという記事が載っていた。


 それによれば、『自白の任意性』は「脅かされたりだまされたりすることなく、自らの意思で自白すること」としたそうである。


 しかし、これは用語の解説であって、「言い換え」ではないだろう。


 もちろん、話し言葉のときは、できるだけ専門用語を避けて、分かりやすく伝えるということには賛成である。



2008年04月18日(金) 刑事事件の上告理由には苦労することが多い

 日経(H20.4.18)社会面で、最高裁が、公道上でのビデオ撮影を適法とする初判断を示したという記事が載っていた。


 この事件は、防犯ビデオの適法性について判断したものではない。


 容疑者を捜査する過程で、捜査側が、公道上などでの容疑者をビデオ撮影したことの適法性について論じたものである。


 もっとも、内偵捜査で写真撮影をすることはよくあることであり、裁判になればその写真が証拠として提出されることも多い。


 それがビデオに代わっただけである。


 それにもかかわらず最高裁が判断したのは、弁護人が過去の最高裁判例を引用して、ビデオにより人の容貌を撮影できるのは、「現に犯罪を行っているかその直後に限られる」と主張したからであろう。


 上告理由は憲法違反や最高裁判例違反などに限定されている。


 そのため、弁護人としては認められないと思っても主張せざるを得ないことも多い。


 記事の最高裁判例でもそのような経緯があり、それを受けて最高裁があえて判断したものであろう。



2008年04月17日(木) 名古屋高裁が「空自のイラクでの活動は違憲」

 日経ネットニュース(H20.4.17)で、イラク派遣の差し止めなどを求めた裁判で、名古屋高裁は、原告の請求は棄却したが、「空自のイラクでの活動は違憲」との判断を示したと報じていた。


 憲法9条の文言を素直に読む限り、イラク派遣は9条に反すると思う。


 しかし、裁判所は違憲かどうかの判断を避けるのが通常である。


 それゆえ、「イラクでの活動が違憲」という判断は大胆であり、びっくりした。


 ただ、このような大胆な判断をするのは退官前とよく言われるので、気になって調べてみると、やはりこの裁判長は3月31日で退官していた。



2008年04月16日(水) 判決の訂正

 日経(H20.4.16)社会面に、KSDをめぐる汚職事件で、受託収賄罪に問われた元労相村上被告に対し、最高裁は、上告棄却に対する同被告の異議申し立てを退ける決定をし、これにより実刑判決が確定したという記事が載っていた。


 日本では三審制だから、上告が棄却されれば刑は確定するはずである。


 ただ、刑訴法は、上告審の判決であってもまったく誤りがないとはいえないという理由から、判決の内容に誤りがあることを発見したときは訂正を申し立てることができると定めている。


 もっとも、内容が誤っているとして訂正が認められたことはないようであるが、この訂正申立てにより判決の確定は少し延びる。


 村上被告の場合、3月27日に上告が棄却されており、訂正申立てをしなければ10日間で確定していたところ、訂正申立てにより4月14日に判決が確定している。


 したがって、判決確定が延びるといっても10日間程度である。


 それでもそのような制度がある以上、弁護人としては、被告人に、判決訂正の申し立てができるということを説明すべきであろうし、被告人から「お願いする」と言われれば、訂正の申立てを行わざるを得ないだろう。



2008年04月14日(月) 精神科医による供述調書の漏洩事件

 日経(H20.4.14)夕刊で、 奈良県の医師宅放火殺人の供述調書が漏えいした事件で、医師の長男を鑑定した精神科医が秘密漏示罪に問われた事件で、精神科医は無罪を主張する方針と報じていた。


 精神科医としては、供述調書を漏らしたのは、長男に殺意はなかったことや、広汎性発達障害に対する社会の認識を是正したかったためであり、正当な目的があったと主張するようである。


 しかし、たとえそのような目的があったとしても、口頭で伝えればいいのであって、供述調書をそのまま渡すというのは軽率とのそしりを免れない。


 有罪はやむを得ないだろう。



2008年04月11日(金) 渋谷の夫殺人事件で懲役20年の求刑

 日経(H20.4.11)社会面で、渋谷の夫殺人事件で、殺人罪などに問われた妻に対し、検察側は懲役20年を求刑したと報じていた。


 懲役20年というのは求刑であるから、判決ではもっと軽くなるだろうが、それにしても重いなあと思った。


 世論は犯罪に対して厳罰化を望んでいると思われ、それを受けて検察庁は求刑基準を引き上げているようである。


 その結果、判決でも、従来は殺人罪では懲役8年から10年の実刑判決の割合が多かったが、最近では懲役10年から15年の割合が増えている。


 裁判員制度が始まると、さらに厳罰化傾向は強まると思われる。



2008年04月10日(木) 刑事手続きと入管手続きの不整合

 日経(H20.4.10)社会面に、海外から覚せい剤を持ち込んだとして覚せい剤取締法違反に問われた外国人女性の控訴審判決で、東京高裁は、1審に続き無罪を言い渡したという記事が載っていた。


 この事件では、刑事手続きと入管での手続きに整合性がないことが問題となった。

 
 被告は1審無罪判決後に釈放されたが、在留期間が過ぎていた。


 しかし、在留期限が過ぎたのは刑事手続きで勾留されていたためであり、被告のせいではない。


 ところが、入国管理局は、在留期限が過ぎている以上、被告を施設に収容し、出国手続きをしようとする。


 そうすると、裁判所側は、「出国すると裁判に支障が出る」として再度の勾留を認める。


 その結果、控訴審中も身柄拘束が続くが、1審で無罪となっている以上、日本人であれば身柄拘束されることはなかったであろう。


 結局、2審でも無罪となったが、今度は再び入管施設に収容され、強制退去になる。


 被告は外国人であるということで手続きに翻弄される結果となっているのであり、刑事手続きと入管での手続きに何らかの整合性を持たせるべきではないかと思う。



2008年04月09日(水) 裁判員の辞退は広く認められるのではないか

 日経(H20.4.9)社会面で、裁判員制度が来年5月から施行されることになったが、「市民には責任の重さへの不安が依然大きい」という記事が載っていた。


 確かに、「参加したくないが義務なら参加せざるを得ない」が45%、「義務でも参加したくない」38%であるから、参加したくない人が80%を超えているから、裁判員制度の適正な運用には懸念がある。


 ただ、最高裁の指針では、例えば「子どもの宿泊行事がある場合の主婦」や「相場乱高時の証券会社社員」について例を挙げていた。


 私の感覚からすれば、その程度の理由では辞退は認められないと思うのだが、最高裁は、ケースバイケースとのことである。


 参加したくない人が80%を超えている現状では、辞退理由を緩やかに解さざるを得ないのであろう。


 来年からの実際の運用に当たっても、ある程度広く裁判員の辞退を認めることになるのではないだろうか。



2008年04月07日(月) 田中元弁護士を逮捕

 日経(H20.4.7)社会面で、石橋産業手形詐欺事件で懲役3年の実刑判決が確定し服役中の田中森一元弁護士が、知人から9000万円をだまし取った疑いが強まり、大阪地検が詐欺容疑で逮捕状を取ったと報じていた。


 田中元弁護士は「5千万円は弁護士報酬で、残る4千万円は相談者を紹介してくれた知人2人への紹介料だ」と説明したそうである。


 しかし、報酬が5000万円というのは巨額すぎる。


 しかも、9000万円を田中元弁護士に渡した人は、民事訴訟で返還請求をしているくらいであるから、田中元弁護士の言い分はまったく通らないであろう。



2008年04月04日(金) 問題ある映画かどうかは上映しなければ分からない

 日経(H20.4.4)社説で、ドキュメンタリー映画「YASUKUNI 靖国」を劇場側が次々と上映を中止していることについて論じていた。


 右翼団体はこの映画が反日的だとして反発しているそうである。


 しかし、一般の人は映画を見ていないから反日的かどうか分からない。


 表現の自由とは、表現行為を『思想の自由市場』に出すことを保障し、議論の対象とすることであろう。


 それゆえ、『思想の自由市場』に出る前に中止することは表現の自由を危うくする。


 混乱が予想されることから「劇場も営利企業だから」という理由で中止したい気持ちは分からないでもないが、劇場側も表現者としての矜持が必要なのではないかと思う。



2008年04月03日(木) 広島弁護士会は光市母子殺害事件の被告人弁護士を懲戒処分せず

 日経(H20.4.3)社会面に、山口県光市の母子殺害事件で、被告人の弁護団に対し大量の懲戒請求が出された問題で、広島弁護士会は弁護士を懲戒処分しないことを決定したという記事が載っていた。


 すでに、東京弁護士会などでも懲戒処分しないと決定しているようである。


 被告人の弁護団の弁護のやり方について批判があることは理解できる。


 ただ、マスコミは弁護団の主張を正確に伝えておらず、それが弁護団に対する誤解を生じさせているように思われる。


 弁護団の主張を実際に読んでみると、その弁護活動は誠実であり、懲戒事由にあたるとは到底思えない。


 懲戒しないとした各弁護士会の結論は当然であろう。



2008年04月02日(水) 司法修習生の就職難

 日経でなく朝日(H20.4.2)社会面トップで、首都圏の弁護士事務所への就職を目指す司法修習生が厳しい就職戦線を迎えていると報じていた。


 埼玉弁護士会主催の就職説明会では、採用予定数12人に対し、司法修習生は100人も集まったそうである。


 おそらく東京はもっと競争が激しいだろう。


 原因は合格者を増やしすぎたためである。


 ただ、修習生も、大手事務所希望など安定志向が強すぎ、そのため競争が厳しくなっているように思う。


 記事の中でも「大きな事案を扱いたい」と述べている修習生がいたが、「小さな事件をこつこつと誠実にやりなさい」と言ってやりたい。



2008年04月01日(火) 医局員たちが内部通報者の責任追及を求める

 日経でなく、朝日(H20.4.1)夕刊に、横浜市立大学医学部の医学博士号の謝礼金問題で、准教授などの医局員たちが、内部通報者の責任追及を大学側に求めたという記事が載っていた。


 横浜市大では、医学博士の学位を取得した大学院生らが、医学部部長に謝礼として現金を渡しており、内部通報によって発覚した。


 謝礼金は慣習として行われていたようであるから、問題になったときの医学部長だけが責任を問われるのは可哀想と思う。


 しかし、学位取得のお礼に何十万円も出すという感覚は世間の常識とはズレているのではないか。


 その点の反省もなく、内部通報者の名前を明かせというのは、その医局員(准教授たち)はどういう感覚をしているだろうか。


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