今日の日経を題材に法律問題をコメント

2007年04月27日(金) 経済産業省が、中小企業向けの私的整理指針をまとめる

 日経(H19.4.27)3面に、経済産業省が、中小企業向けの私的整理指針をまとめたと報じていた。


 すでに銀行協会などが私的整理ガイドラインをまとめているが、それは大企業を想定しており、経営者も原則退任することになっている。


 しかし、中小企業の場合、経営者が退任するとその後継者を見つけることが容易でないため、今回の「私的整理指針」では経営者の退任を求めないこととしているようである。


 確かに、債務超過の会社について、わざわざ経営者になろうという人は少ないであろうから、後継者を見つけるのは難しいかもしれない。


 また、経営責任は懲罰とは違うから、債務超過イコール退任というのもおかしいのかもしれない。


 ただ、破産した会社の経営者を見ていると、経営者としての資質に問題があるケースが多いように思う。


 そのため、私的整理においても、経営者の退任を求めざるを得ないのが実情ではないだろうか。



2007年04月25日(水) 競業避止義務は予め特約しておく必要がある

 日経(H19.4.25)社会面に、ライバル会社に転職した幹部社員に対し、東京地裁は、競業他社への転職を制限する規定に違反しているとして、140万円を支払うよう命じたという記事が載っていた。


 会社としては、社員がライバル会社に転職して、そのノウハウ、顧客、人脈等を活用されたら困るわけで、それを制限したいという動機がある。


 ただ、転職する社員には職業選択の自由があるから、無制限に転職を規制するは許されない。


 そこで、競業避止義務を負う契約を締結しており、制限の内容として、必要最小限の制限でなければならないとされている。


 小さな会社では、幹部社員が独立して同じような業種の会社を設立することがしばしばあり、その場合に、独立した社員の営業を差し止めて欲しいと相談されることがある。


 しかし、たいていの場合、競業避止義務を負う契約を締結していないため、(競業避止義務を理由とした)営業の差し止めや、損害賠償請求はできないということになる。


 それゆえ、社員が独立してライバルとなる可能性のある会社では、競業避止の特約をしておく必要があるということになろう。



2007年04月24日(火) オービスは正確か

 日経(H19.4.24)社会面に、オービスの計測で速度違反を問われた事件で、最高裁は、2審判決を破棄して、仙台高裁に差し戻したという記事が載っていた。


 この事件の1審では、検察官が「オービスは正確であり、その測定値は実際の速度より高く測定することはない」と主張し、裁判所もこれを認めた。

 ところが2審では、「オービスは実際の速度より高い測定値を示す可能性がある」として、その正確性に疑問を呈していたようである。


 オービスによって速度違反を問われた事件で、オービスの正確性を問題視して無罪を主張するケースは結構ある。


 運転していてふとスピードメーターを見ると、意外にスピードが出ていてびっくりすることがある。

 そのような経験からすると、オービスの測定は正確であり、運転手だけがスピード違反をしていないと思い込んでいるだけかもしれない。


 ただ、自分でもこの種の事件を弁護したことがあるが、そのとき思ったことは、オービスの正確性の科学的資料をすべて捜査機関が持っているということである。


 そのため、弁護側がオービスの正確性についていろいろと疑問を呈しても、科学的根拠に乏しく、説得力に欠ける主張しかできないというのが実情である。


 オービスの正確性について第三者機関が検証し、その検証過程を公開すれば、その正確性について誰でも納得することができ、無用な紛争が防げると思うのだが・・。




2007年04月23日(月) 統一地方選で電子投票を実施したのは全国で2例

 日経ではなく、朝日ネットニュース(H19.4.23)で、統一地方選挙で電子投票を行ったのは全国で2例だけと報じていた。


 電子投票を実施した白石市では、電子投票導入の理由として「正確な選挙結果の反映」を挙げている。


 しかし、電子投票では、機械が誤作動した場合の影響は計り知れない。

 実際、2003年7月の岐阜県可児市議選では、二重投票や職員の操作ミスなどで大混乱に陥り、最高裁が選挙無効を言い渡している。


 電子投票が「正確な選挙結果の反映」につながるというのは神話に過ぎないと思う。



2007年04月20日(金) 強姦繰り返した少年に懲役5〜10年

 日経でなく、朝日ネットニュース(H19.4.20)で、中学生を狙って強姦などを繰り返した少年に対し、東京地裁八王子支部は、「少年法の有期刑で最も重い刑である懲役5〜10年(求刑無期懲役)を言い渡した」と報じていた。


 しかし、少年法は、18歳未満の少年に対して無期刑が相当であるときに、10年以上15年以下の範囲で有期の定期刑を科すことができる旨を規定しているから、最も重い有期刑は「懲役5〜10年」ではなく、「懲役15年」ということになろう。


 それにしても、この少年は、7〜14歳の少女9人を脅して強姦などを行っていたのであり、求刑は無期懲役だから、5年から10年の不定期刑というのは軽いなあという印象を受けた。



2007年04月19日(木) 「おおむね12歳以上」というのは曖昧ではないか

 日経(H19.4.19)2面に、少年法改正案が衆議院法務委員会で可決と報じていた。


 改正案は、少年院送致の下限年齢を、「14歳以上」から、「おおむね12歳以上」とするものである。


 しかし、「おおむね」というのは、法律としては曖昧な表現であり、適切な規定とは思えないのだが。



2007年04月18日(水) 医療事故に患者参加型の調査を活用

 日経(H19.4.18)夕刊に、東京女子医大病院で、医療事故に患者参加型の調査を活用し、示談を成立させているという記事が載っていた。


 この制度は、医療事故が発生した際に内部調査委員会が開催されるが、それに患者が傍聴できるというものである。


 これはすばらしいと思う。


 密室で調査されることに比べて患者側の不信感は薄れ、その結果、早期の解決につながると思われる。


 新規の医療訴訟は年間1000件に上っているらしい。


 しかし、医療過誤訴訟は、訴える側も大変な経済的、精神的負担を伴い、また長期化しがちである。


 このような制度をさらに充実し、早期に解決することが望ましいと思う。



2007年04月17日(火) 学力テスト実施に反対して小中学生が仮処分を申立て

 日経(H19.4.17)ネットニュースで、文部科学省が実施する全国学力テストに対し、小中学生9人がテストを実施しないように、京都地裁に仮処分を申し立てたと報じていた。


 申し立ての理由は、「組や出席番号といった個人を特定できる情報を、採点する受験企業に流すのは個人情報の目的外提供にあたる」「学力テストで学校の序列化が進み、等しく教育を受ける権利が侵害される」ということにようである。


 その意見の当否は別にして、子どもを裁判の当事者とすることには違和感がある。


 親権は子どもの利益のために行使されるべきであるが、小中学生の子どもを裁判に巻き込むことが果たして子どもの利益になるのか疑問だからである。


 もちろん、学力テストの是非については様々な意見があり、反対する意見自体を非難するつもりはない。


 しかし、学力テストに反対するのであれば、親の立場から、「子どもに教育を受けさせる権利が侵害される」として仮処分を申し立てるべきではなかったかと思う。



2007年04月16日(月) パチスロで『体感器使用』は窃盗罪

 日経でなく、朝日ネットニュース(H19.4.16)で、「パチスロで『体感器使用』は窃盗罪 最高裁が初判断」と報じていた。


 体感器とは、パチスロ機の乱数と同期するように一定のリズムを刻み、使用者はそのリズムに従ってパチスロ機のボタンを押して大当たりを出す仕組みである。


 問題は体感器の使用すれば、大当たりが揃いやすくなるのかということであろう。


 体感器の使用と大当たりとに因果関係がないのであれば、窃盗罪は成立しないと考えられるからである。


 ところが、記事によれば、最高裁は、「メダルが体感器の操作の結果で得られたものか否かを問わず、店側の意思に反してその占有を侵害した」という理由づけで窃盗罪の成立を認めたようである。


 大体、裁判の記事は内容が不正確なことが多い。

 そのため、軽々に判断できないが、もしその記事の内容が正確であれば、体感器の操作とメダルに因果関係がなくても窃盗罪が成立するというのであるから、注目すべき判例であろう。



2007年04月13日(金) 国民投票法案 投票権を18歳以上に付与

 日経(H19.4.13)1面に、国民投票法案が今日衆議院を通過と報じていた。


 この法案については様々な意見があるだろうが、注目したいのは、投票権を18歳以上の国民に付与したことである。


 もっとも、公職選挙法の改正までは投票権は20歳以上となっている。


 しかし、3年後までに公職選挙法、民法の規定などの見直すことになっている。


 そうなると、少年法の「少年」の定義の見直しなど、幅広い影響があるだろう。



2007年04月12日(木) 外国為替証拠金取引で稼いだ4億円の所得を隠す

 日経(H19.4.12)夕刊に、主婦が、外国為替証拠金取引で稼いだ約4億円の所得を隠して、約1億5000万円を脱税したとして国税庁が告発した報じていた。


 このような記事が載ると、「外国為替証拠金取引はそんなに儲かるのか」と思い、被害者が増えるのではないかと心配する。


 以前相談を受けたケースでは、初めて取引をして5000万円を儲け、それに味を占めてまた取引を行って、結局、1億円を損したという事案があった。


 外国為替証拠金取引や先物取引は証拠金の何倍もの取引ができるから、いったん損をしたときに資金力が続かず、挽回ができない。


 そのため、この種の取引はいずれは損をすると思っていた方がいい。



2007年04月11日(水) 無期懲役刑の仮釈放

 日経(H19.4.11)社会面に、無期懲役刑の受刑者が仮釈放され、そのわずか2年後に強盗殺人を行った事件で、最高裁は、被告人の上告を棄却し、広島高裁の死刑判決を維持したと報じていた。


 無期懲役で仮釈放になって2年後に凶悪犯罪を行ったというのであるから、「無期懲役では簡単に仮釈放を認めるな」という声が大きくなるだろう。


 ただ、運用上も、無期懲役刑の仮釈放の基準は厳しくなってきており、受刑期間は平均すると25年以上になっている。


 これ以上基準を厳しくすると終身刑に近い処遇となってしまい、それはそれで問題ではないかと思う。



2007年04月10日(火) 法テラス 発足1年

 日経(H19.4.10)夕刊に、「『法テラス』をもっと使って」という見出しの記事が載っていた。


 法テラスとは、日本司法支援センターの愛称であり、情報提供、民事法律扶助、犯罪被害者支援、司法過疎対策、国選弁護業務などを行っている。


 このうち情報提供業務では、コールセンターを設けて法律相談の窓口となっている。


 ところが、利用者が想定の4分の1しかなく、記事によれば、知名度アップのためにPR作戦を展開しているそうである。


 ところで、法テラスは発足したばかりのため、十分な業務体制ができてないように思われる。

 そのため、知名度不足の問題だけでなく、業務自体もぎくしゃくし、弁護士から、「役所的である」などといった批判的意見がある。


 ただ、まったく新しい組織であるから、もう少し長い目でみないといけないし、われわれ法曹家が育てていくという姿勢が必要ではないかと思う。



2007年04月09日(月) 経済犯罪に対して厳罰化の傾向

 日経(H19.4.9)11面に、経済犯罪に対して実刑判決が広がっているという記事が載っていた。


 実際、ライブドア事件でも堀江被告と宮内被告が実刑判決となっており、厳罰化は間違いないようである。


 その理由として、記事では、裁判所の考えが変わってきており、公正なルールに基づく自由な競争は歓迎するが、ルール違反に対しては厳罰を下す傾向になってきているという見方をしていた。


 なるほど、判決を分析するとそのようになるのかもしれないし、その意味では厳罰化の理由づけとして間違ってはいないのだろう。


 ただ、裁判官は、そのような「公正なルールに基づく自由な競争は歓迎するが、ルール違反には厳罰を下す」という発想から判決を下すわけではないと思う。


 むしろ、最近の経済犯罪は金額が多額な事案が多く、それが判決に影響しているのではないだろうか。



2007年04月06日(金) 東京都知事選挙の政見放送

 日経(H19.4.6)社会面に、東京都選挙管理委員会が、「YouTube」に、東京都知事選挙の政見放送の削除を要請したという記事が載っていた。

 「YouTube」には一部候補者の政見放送が掲載されている。

 しかし、一部の候補者の政見放送だけが閲覧できるのは候補者の平等を定めた公職選挙法に触れるということのようである。


 ところで、「YouTube」に掲載されている候補者もそうであるが、東京都知事選挙には、毎回特徴のある人が立候補する。


 今回も、政見放送の中で、裁判官、検察官、弁護士の実名を挙げて批判している候補者がいた。


 しかし、かつて衆議院議員選挙の政見放送で、ある政党の議員が企業から公害対策費の名目で2億円を受取ったと言ったことについて、名誉毀損が成立するとして損害賠償請求が認められたことがある。


 政見放送だからといって、何を言っても許されるという訳ではない。



2007年04月05日(木) 三和ファイナンスに43日間全店営業停止

 日経(H19.4.4)4面に、金融庁は、三和ファイナンスに対し、強引な取立てなどを理由に、43日間全店営業停止を命じたと報じていた。


 最近、消費者金融に対する過払い金請求が相次いでいるが、その場合、まず取引履歴の開示を求める。


 ところが、長期間の取引の場合には過払い金が多くなるので、業者によっては、「破棄した」などと言い訳をして、古い取引履歴をできるだけ出さないよう抵抗する。


 三和ファイナンスの場合は、弁護士から取引履歴の開示請求があっても、まず3年分だけ開示して、2度目の請求に関しては調査中と回答し、3度目の請求に関してはとりあえず5年分開示するということを社内で決めていたようである。


 「せこいなあ」という気がするが、それだけ過払い金請求に対する危機感があったのだろう。


 実際、過払い金請求を認める判決がなされても、この会社は「一括で払えないので、分割にして欲しい。」と言って来ていた。


 その上43日も営業停止になると、経営は大丈夫なのだろうか。



2007年04月04日(水) 「離婚後300日は前夫の子」に例外を認める

 日経(H19.4.3)2面に、与党は、「離婚から300日以内に生まれたは、離婚した夫の子と推定する」という規定について、例外規定を設ける方針と報じていた。

 記事によれば、DNA鑑定などの証明書を添付すれば、再婚した夫の子と認めることになるようである。


 民法772条の規定では、離婚から300日以内に生まれた子は、離婚した夫の子と推定するとしている。


 そのため、離婚後、再婚禁止期間である6か月(180日)を待って再婚した場合であっても、離婚後300日以内に子が生まれれば、前夫の子と推定されることになる。


 しかし、これは不合理である。


 そのため、記事にあるように、DNA鑑定などの証明書を添付すれば、再婚した夫の子と認めることにしたものである。


 ただ、私は、「離婚から300日以内に生まれた子は、離婚した前夫の子と推定する」という規定がそもそも不合理であり、この規定そのものを見直すべきであると思う。



2007年04月03日(火) 最近の司法試験合格者は親族相続の知識がない?

 日経(H19.4.3)社会面に、最近無罪判決が相次いだため、危機感を持った検察庁が全国の検事長を集めて緊急会議を開くと報じていた。


 その記事の中で、「離婚後300日以内に出産したことは前夫の子と扱う」という民法の規定どおりに出生届を提出した女性に対し、公正証書原本不実記載罪で起訴した事件というについて、検察幹部が「考えられないミス」とコメントしたと書いていた。


 私が司法試験受験生のころは、短答式問題で、民法の親族相続の問題も少しは出題された。


 ところが、最近は親族相続分野のからはほとんど出題されないと聞く。そのため最近の司法試験合格者は親族相続についてあまり知識がない気がする。


 先の「考えられないミス」が、短答式試験に親族相続が出題されないことが原因かどうかは分からない。


 ただ、親族相続は非常によく相談を受ける分野であり、その意味では法曹家として最低限の知識であると思う。


 それゆえ、短答式試験でも、もう少し親族相続の分野から出題してもよいのではないだろうか。



2007年04月02日(月) 民間運営の刑務所

 日経(H19.4.2)社会面に、山口で民間運営の刑務所が誕生したという記事が載っていた。


 「民間運営」といっても、民間が行うのはもっぱら施設運営に関する業務であり、受刑者の処遇については従来どおり刑務官が行うようである。


 その意味では「民営刑務所」ではないが、「民にできることは民に委ねる」という理念に添うものであると思う。


 多少の試行錯誤はあるだろうが、刑務所の過剰拘禁が問題となっていることから、今後もこのような民間運営の刑務所を積極的に採用すべきと思う。


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