今日の日経を題材に法律問題をコメント

2004年04月30日(金) 憲法についての2つの考え方

 日経(H16.4.30)1面で、「動き出す憲法改正」というコラムで、憲法改正の動きを伝えていた。

 これまで憲法改正はタブーのようにされてきたが、今日では憲法改正が現実問題となっている。


 ところで、憲法に対する考え方には大きく二つの流れがあるように思われる。


 一つは、憲法は「国民の権利を守り、国家権力を制限するための定め」という考え方である。

 実際、西欧の憲法はそのような歴史をもっている。

 
 それゆえ、国民の権利を認めることに重点が置かれ、国民の義務があまり規定されていないのは必然ということになる。

 また、国家を三権に分け、抑制と均衡により権力の乱用を防ごうとしているのも、国民が国家権力を制限するためという趣旨である。



 これに対し、「憲法を国家のあり方を定める基本法という国家中心の考え方」をすると、国民の義務も重視されることになるであろう。


 実際、自民党では「聖徳太子の17条の憲法などを模範とすべし」とか「日本の文化とか伝統がにじみでるものにすべきである」という意見が強いそうである。


 かように、「憲法とは何か」という考え方がまったく違うのだから、議論がまとまるはずがない。

 結局は、改正されないままになるような気がする。



2004年04月28日(水) 筑豊じん肺訴訟で最高裁は国家賠償を認める

 日経(H16.4.28)社会面で、国と日鉄鉱業に総額約18億7000万円の損害賠償を求めた筑豊じん肺訴訟で、最高裁が行政の権限不行使で初めて国家賠償を認めたと報じていた。

 判決は、国家賠償が認められる要件について、「権限不行使が、許される裁量の限度を逸脱して、著しく合理性を欠く場合は国家賠償法上の責任を負う」と厳しい絞りをかけている。

 そのため、実際に国家賠償請求が認められるケースは非常に稀であろう。


 それでも、国民の生命、健康に影響する事項に限っていうならば、最近の判例は、行政裁量をかつてほど広く認めない傾向にあるように思われる。



2004年04月27日(火) 違法なファイル交換に警告文

 日経(H16.4.27)11面で、日本レコード協会が、インターネットを通じて違法に音楽ファイルを公開した個人に警告文を送付したという記事が載っていた。


 送付したのは60万通だそうである。


 記事では、レコード協会が独自調査でファイルを不正公開している利用者を識別したと書いていたが、60万人分もの不正利用者をどのように調査したのか興味がある。


 記事は続けて、日本でも個人を相手取った訴訟が起きる可能性がでてきたと書いていた。


 しかし、訴訟するには住所が分からなければならない。

 ところが住所を割り出すのは大変な手間がかかるし、調査しても分からないことの方が多い。

 特に、ファイル交換をサーバーを介さずに行っている場合には住所を割り出す手間は大変なものである。


 したがって、訴訟提起にまでは至らないのではないだろうか。



2004年04月26日(月) 取り調べに弁護士の立ち会いは認められていない

 日経(H16.4.26)社会面で、日弁連が刑事事件の取調べの際に、取調べ状況を録画することや弁護士の立会いなどを要求しているが、法務省は難色を示しているという記事が載っていた。


 記事の中で、弁護士の立会いについて各国の状況の一覧表を載せていたが、立ち会いをまったく認めていないのは日本だけであり、アメリカやイギリスでは全面的に採用しているようである。


 ときどき、依頼者から、取調べに立ち会って欲しいと言われることがある。

 アメリカの映画をイメージしているのだろうが、残念ながら日本では弁護士が取り調べに立ち会うことはできない。


 取り調べに立ち会う権利が認められていれば、弁護士が活躍できる場面がもっと出てくるのだが・・。

 残念ながら、日本の刑事事件において、弁護士のできることは極めて少ないのである。



2004年04月22日(木) 交通事故で身代わりになって出頭すると犯罪になる

 日経(H16.4.22付)社会面に、交通事故で、身代わりになって、運転していたと嘘の申告をした女性と、実際に運転していた人が逮捕されたと報じていた。

 交通事故で身代わりになって出頭するケースは比較的よくあるようで、ときどき記事になっている。


 記事では、身代わりを頼んだ人は犯人隠避罪の教唆で逮捕されたと書いていたが、実はこの点は刑法理論と絡んで議論がある。


 身代わりを頼んだ人は犯人なのだから、自分を隠すということは概念としてあり得ず、犯人隠避罪の正犯は成立しない(この点は争いがない)。

 とすると、それより軽い犯人隠避罪の教唆犯も成立しないのではないかという疑問があるからである。


 そして、教唆犯の成立を否定する学説も有力であるが、判例、通説は教唆犯の成立を認めている。


 したがって、身代わりで出頭した人は犯人隠避罪となるし、身代わりを頼んだ人は犯人隠避罪の教唆が成立することになる。



 私が学生時代のことであるが、友人(A)が下宿で酒を飲んでいたのだが、ビールが足りなくなり、車で買い出しに行った帰りに、近所の塀にぶつかったことがあった。

 その友人(A)は飲酒運転なので、車をそのままにして、飲酒運転の証拠となるビールを抱えて下宿に戻り、同じ下宿の友人(B)に身代わりを頼んだ。
 
 しかし、身代わりになって「自分が運転していました」と申告したその友人(B)は、警察から事情を聞かれても事故時の詳しい話しをできるはずがなく、すぐにうそがばれて、警察にえらいお説教をされた(逮捕まではされなかった)。


 ということで、身代わりで出頭しても、事情を聞かれればうそはすぐに分かるし、頼んだ方も頼まれた方も犯罪になるので、やめた方がいい。



2004年04月21日(水) 商品先物取引制度が大きく変わる

 日経(H16.4.21付)27面に、商品取引所法が改正され、商品先物取引制度が大きく変わるという記事が載っていた。

 改正案では、勧誘を望まない顧客への勧誘が禁止されることになっているそうであり、記事では「多くの証取会社が多用する電話勧誘に歯止めがかかる」と書いていた。


 この改正案どおりになるとすると、先物取引会社はやっていけなくなるのではないだろうか。

 先物取引で被害を受けた人のほぼ全員が、強引な電話勧誘から取引が始まっているからである。


 一流企業に勤め、普段は落ち着いた雰囲気の紳士でも、いったん取引に引き込まれると、どうしていいか分からなくなり、憔悴していくのである。


 よほど知識がない限り、商品先物取引には手を出さないほうがいいと思う。



2004年04月20日(火) 弁護士に頼んだ方が、結局は解決が早いし費用も安い

日経(H16.4.19付)社会面に、弁護士が交通事故の示談金の一部しか遺族に渡さなかったとして、弁護士会から除名処分を受けたという記事が載っていた。

この弁護士は、示談金として3100万円を受け取りながら、遺族には500万円しか渡さず、弁護士費用として700万円を報酬として受け取っていたそうである。


3100万円の示談金を受け取ったことに対し、700万円の報酬というのは多すぎである。

こんな弁護士がいるから、弁護士費用は高いという誤解を受ける。


トラブルになった場合に、当事者だけでだらだらと交渉していると、半年くらいすぐに経過してしまう。

また、へんな人に交渉を頼んだりすると、結局何もしないか、簡単な事件なのに高額な報酬を請求したりする。

 それよりも、弁護士に頼んだ方が、解決は早いし費用も安くつくのである。


 ただ、先の記事のような弁護士がいると、私の主張も説得力がなくなるのがつらい。



2004年04月16日(金) イラク人質事件−政府は要した費用を家族たちに請求できるか

 日経(H16.4.16付)1面トップでイラクでの人質解放を伝えていた。

 この事件で政府が要した費用について、本人たちに負担させろという意見がかなり出ているそうである。


 雪山などでの捜索費用については、遭難者に請求されることが多いが、それは、例えばヘリコプターが飛ぶ前に、その費用を誰が負担するのか確認しているからである。

 遭難者の家族が、自分たちで負担するといえば、そこで契約が成立するから、その契約に基づき費用請求することができる。


では、今回の場合はどうであろうか。


 おそらく、現時点では家族に費用負担することの了解までは確認していないと思われるから、契約による請求はできないだろう。


 では、人質になった人たちに不法行為責任に基づき損害賠償請求をすることは可能だろうか。


 退避韓国が出ているイラクに敢えて入国したからといって、直ちに違法とはいえないだろう。

 なぜなら、移転の自由は憲法22条で保障された権利だからである。

 そうすると、不法行為に基づく損害賠償請求はできないことになる。


 それ以外に請求する場合に根拠となるのは、緊急事務管理の規定だろうか。


 民法は、人の身体等の危険を免れさせるために事務をした場合は、その事務のために要した費用を償還請求できるとしている(民法698条以下)。

 政府はこの規定に基づき請求するのかも知れない。



 その後の報道では、政府は、人質になった人たちに対し、飛行機代(エコノミー料金)と健康診断費用を請求するとのことである。

 それぐらいは仕方ないかなと思うし、家族も支払うと思うけど、政府はいかなる根拠で請求しているのかについては興味がある。



2004年04月15日(木) 井上薫裁判官

 日経(H16.4.15付)13面、週刊新潮の広告が載っていたが、その雑誌に、横浜地裁の井上薫裁判官が、福岡地裁が出した小泉首相靖国神社違憲判決について書いていた。


 井上薫裁判官というのは、10年以上も前であるが、神戸地裁にいたとき、個人破産事件において、借金はギャンブルや遊興費で作ったものであるという理由で、片っ端から免責不許可決定を出して有名になった人である。

 そのすべては、高裁でひっくり返されたから、通常の裁判基準からすると外れていたわである。

 それでも独自の価値観を貫き、免責についての本まで出したのだから、いわば変わり者である。


 週間新潮での論旨は、判決は訴えが認められるかどうかに必要な限度で判決理由を書けばいいのであって、この裁判で違憲であるとことを判決理由に書くことは、司法の政治化であるというものである。

 ひとつの意見であり、間違ではないが、現職の裁判官が週刊誌に寄稿してこのようなことを書くことは異例である。

 やはり変わっている。



2004年04月14日(水) 弁護士は「こうもり」である

 日経(H16.4.14付)2面社説に、「労働審判を骨太に育てよう」という見出しで、2年後に施行予定の労働審判について書いていた。


 労働審判とは、雇用主と従業員の労働紛争を迅速に解決するために新たに作られる制度である。


 その社説の中で、雇用主と従業員と労働紛争が増えていると書いていたが、私自身もその実感がある。

 最近も、何件か相談を受けたり、代理人として相手方と交渉したりした。


 労働紛争が増えている原因として、リストラなどが増えたこともあるだろうが、それ以外にも、インターネットなどによって情報が容易に取得でき、自分のケースがどのようになるのか予測ができるようになったことも大きいのではないかと思う。

 雇用主側の立場で労働者と交渉すると、実によく調べていると感心することがある。


 ところで、法律は、基本的には労働者の味方である。

 そのため、労働者側の代理人のときは、強気でどんどん攻められる。

 逆に、雇用主側の代理人になったときは、防戦一方という感じである。

 雇用主が防戦一方にならないためには、最初からハンデイであることを自覚して、十分証拠を収集しておく必要があるだろう。


 それにしても、労働者側の代理人を務めたり、雇用主側の代理人を務めたりで、弁護士はまさに「こうもり」である。



2004年04月13日(火) 草早大教授がスカートを覗いた容疑で逮捕される

 日経(H16.4.13付)社会面に、植草早大教授が女子高生のスカートを覗いた容疑で逮捕されたと報じていた。

 手鏡でスカートの中を見て何が楽しいのかと思うが、この種の犯罪は後を絶たない。

 男の本能なのかも知れないが、その本能を押しとどめるのが理性というものであろう。

 本能のまま生きていたのでは、何のために人間として生まれてきたのか分からない。


 それにしても、この人有名人なのに、そんなことをして目立つと思わなかったのだろうか。



2004年04月08日(木) 小泉首相の靖国参拝に違憲判決

 日経(H16.4.8付)社会面に、小泉首相の靖国参拝が違憲であると判断した福岡地裁の判決要旨が掲載され、2面に社説、3面に解説記事が載っていた。


 この件で裁判所が違憲判断をしたことについては賛否両論がある。


 日本の裁判制度は、原告の請求が認められるかどうかを判断するのであって、違憲かどうかを判断することを目的とはしていない。

 この訴訟では、裁判所は、小泉首相の靖国参拝によって、原告の信教の自由が侵害されたわけではないと認定している。

 そうすると、違憲かどうかを判断するまでもなく、原告の訴えは棄却されることになるはずである。

 したがって、エリートコースを歩む裁判官であれば、違憲判断はしないだろう。

 必要もない憲法判断をすれば、司法の役割を超えているという批判を受けることは必至であるし、この場合に違憲判断をしなくても誰からも非難されないからである。


 それなのにあえて違憲判断したのだから、この裁判官は退官前だったからかなあと思う。

 退官前であれば、誰への気兼ねもなく、良心に従った判断ができるからである。


 そのような考えは邪推かもしれないが、巷間では「退官前にはいい判決が出る」と言われていることは事実である。



2004年04月07日(水) もっと早く提訴してもよかったのでは?

 日経(H16.4.7付)1面トップで、プラズマパネル特許侵害を理由に、富士通がサムスンを訴えたと報じていた。


 富士通はプラズマパネルについて、相当の特許を有しているようである。

 記事によれば、ライセンス契約の締結を求めていたが、交渉が不調に終わったことから、訴訟提起したそうである。


 しかし、すでにサムソンはシェア2位の地位を築いている。

 知財戦略という見地からは、もう少し早く提訴に踏み切ってもよかったのではないかと思う。



2004年04月06日(火) 不正資金の洗浄防止と、守秘義務との板挟み

 日経(H16.4.6付)7面に、不正資金の洗浄防止のために、弁護士や公認会計士など対し、疑わしい取引について届出義務を課すと報じていた。


 しかし、弁護士には法律上守秘義務があるから、安易に通報すると、今度は依頼者から守秘義務違反で訴えられかねない。


 この問題は以前からくすぶっており、弁護士としては板ばさみになって悩ましい問題である。



2004年04月05日(月) 法科大学院が開校

 日経(H16.4.5付)社会面に、早稲田大学などの法科大学院の入学式があったと報じていた。

 どこの法科大学院でも、入学者集めに必死のようであり、授業料のダンピングも起こっている。


 巻き返しに必死の中央大学では、授業料を相当安くしたようであり、その結果、早稲田と中央の両方受かった人のうち、ある程度の人が中央大学に入学したそうで、関係者はほっとしているそうである。


 これらの有力校はまだいいが、入学者がいるのかなと思う大学院もあり、10年後には、いくつかの大学院は閉校になっているのではないかと思う。



2004年04月02日(金) 4月から、重要な法律の改正がなされている

 日経(H16.4.2付)1面の広告欄に、「改正 担保・執行法の解説」「改正 民事訴訟法」の広告が載っていた。

 この広告にあるように、4月1日から、いくつかの重要な法律が改正され、施行されている。


 例えば、離婚調停は家庭裁判所で行うが、離婚裁判となると地方裁判所が扱っていた。

 しかし、今度の法改正で、これからはすべて家庭裁判所で行うことになる。


 また、これまで90万円以下の請求が簡易裁判所の管轄であったが、これが140万円以下まで引き上げられ、簡易裁判所で扱う事件が増えることになった。


 担保・執行法では、短期賃貸借制度が廃止になっている。

 短期賃貸借制度は、民法の大家である我妻先生が、賃借権の保護と抵当権者の利益とを調和したすばらしい制度であると評価していた。

 しかし、制度を乱用して抵当権者に損害を与える事例が後を絶たず、理念倒れになってしまった。


 法改正を知らずに間違ったアドバイスをすると、依頼者に大変な迷惑をかけてしまう。

 勉強は怠れない。



2004年04月01日(木) 週刊文春事件で高裁の判断がなされる

 日経(H16.4.1付)1面で、週刊文春の出版差止事件について、東京高裁が週刊文春の言い分を認め、出版差し止めを取り消したと報じていた。


 当然の判断であると思う。


 この日の日経の社説では、地裁の判断は、最高裁が示した基準を機械的に当てはめたのに対し、高裁は、きめ細かな配慮と慎重な姿勢を示したという趣旨の書き方をして、高裁の判断を評価する口ぶりであった。


 しかし、地裁の判断が機械的であるということは、地裁の判断がなされたときに言うべきであり、「いまごろ言ってもなあ」いう感じである。


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