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2012年12月25日(火)
あるファミリーレストランのウェイトレスの「もう一つ上のランクのサービス」

『世界一のサービス』(下野隆祥著/PHP新書)より。

【どんな価格帯のレストランであろうと、どんな業態の店であろうと、サービスマンの思い一つでサービスは変わります。「もう一つ上のランクのサービスを実践しよう」と思うサービスマンがいれば、その店のサービスは向上し、雰囲気もよくなるはずです。
 たとえば、かつてよく使っていたファミリーレストランに、こんなウエイトレスの子がいました。私はたまに数人で連れだってその店に行ったのですが、何人で行っても、持ってくる料理を間違えないでサーブできるのです。
 ファミレスですから、オーダーをとる時に「繰り返させていただきます。○○が一つ、××が二つ」と確認していきます。そこまでは他のウエイトレスと一緒なのですが、そうやってオーダーをとっても、普通のウエイトレスは料理を持ってきた時に「○○はどなたですか?」と聞いてきます。オーダーをとる子とサーブするのが別の子なら仕方ないと思うのですが、同じウエイトレスでも同じように聞いてきます。せめてオーダー用紙に席順を書き込むなりして、「どのお客様にはどの料理」と覚えていてほしいものです。
 ところがそのファミレスでは、一人のウエイトレスだけは、そんな確認はせずに「おまちどおさまでした」という笑顔と共に、間違えずに一人一人の客の前に料理を置いていくのです。
 客としたら、それだけでも何か嬉しいものです。すでに書きましたが、お客様が嫌がるのは放置されてしまうこと。無視されること。逆に最も嬉しいのは、「覚えていてもらえること」。
 ファミレスとはいえ、いやファミレスだからこそ、ウエイトレスがオーダーを性格に覚えていたら、それだけで一つのサービスになり得ます。】

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 著者はフランスの超有名レストラン『ロブション』の日本第一号店の初代総支配人などを歴任してきた「サービスのプロ中のプロ」。
 これを読みながら僕が考えていたのは、「もしファミレスでこんなサービスをしてくれる店員さんがいたとして、自分は気がつくだろうか?」ということでした。

 著者は、伊丹十三監督の『タンポポ』という映画のなかで、主人公の女性が「満員の客のオーダーを一瞬で記憶する場面があった:ことを紹介し、「伊丹監督も、この才が客を本当に喜ばせることを知っていた」と推測しています。

 この「オーダーをちゃんと記憶してくれる」というのは、「店に入って黙って座っていると、注文を取りにきてもらえなかったり、滑舌が悪いせいか、オーダーを聞き返されて気まずい思いをしたりしがちな僕にとっては、すごくありがたいサービスだと思うんですよ。

 「誰が何を注文したか」をちゃんと覚えておいてくれるというのは、こういう「サービスのプロ」じゃなければ、なかなかその凄さを理解してもらえないような気がします。
 「○○はどなたですか?」が当たり前になりすぎているから。

 これを実行するには、伝票にちょっとメモをしておくとか、「ひと手間」で済むことのはずなのですが、そこまでファミレスのお客さんは要求していないという判断なのか、それとも、「そうやって覚えたりメモをとる手間とか間違えるリスクを考えると、運んできたときに確認したほうが無難だ」というマニュアルになっているのかもしれません。

 ただ、働いている人の意識としては、こういうふうに「向上心を持って仕事をしている人」のほうが、長い目でみれば、実力をつけていくのだろうな、とは思います。
 「マニュアル通り」にやればいいようにみえるファミレスのウェイトレスという仕事にも、こんな「差別化の余地」があるのだな、と感心してしまいました。



2012年12月07日(金)
Amazonの新しい特許「おばさんからの贈り物はすべて交換する」

『ワンクリック』(リチャード・ブラント著/井口耕二訳/日経BP社)より。

(Amazonの創業者であるジェフ・ベゾスの半生記の一部です)

【アマゾンがイノベーションや特許申請をやめる日はこないだろう。2010年12月には、また新しい特許のうわさが流れた。アマゾン経由で贈り物をもらった人が、商品が配送される前に返品できるようにできるシステムだ。特許申請書によると、おばさんがいつもいらないものを贈ってくるといった場合に便利なように、「おばさんからの贈り物はすべて交換する」というオプションを用意するというのだ(特許申請書には、架空であるはずの親戚の名前が書かれている)。このシステムが実装されれば、親切な親戚がギフトを買ってくれたとき、ギフトが発送される前に受け手が把握し、自分が欲しいものに交換できるというわけだ。このほかにも、「ウールの洋服はいらない」「あるおばさんからの贈り物は、確認後、すべてギフト券に交換する」などさまざまなルールを「ギフト交換ルールウィザード」から適用できる。この特許も、ベゾスのみが発明家となっている。
 もちろん、エチケットにうるさい人から見れば、これはぞっとするほど醜悪なシステムだ。「贈り物の精神を踏みにじるアイデアです」と、エチケットの権威、エミリー・ポストの玄孫でエミリー・ポスト協会のスポークスマンでもあるアンナ・ポストは指摘している。これに対してベゾスは、送り手が気分を害するかどうかは別として、こうしたほうが贈り物の世界がよくなると考え、「受け取り手に気に入られないかもしれないと心配し、送り手がギフトの鑑定に慎重になることも考えられる」と従来の方法にも問題があることを特許申請書で指摘している。
 いずれにせよこれは、こうるさい受け取り手を喜ばせるだけでない。アマゾンにとっては何百万ドルものコスト削減になるアイデアだ。ギフトが返品されると、倉庫で作業員が開梱して返品されたギフトを棚に戻し、新しいギフトを包んで梱包し、発送しなければならない。また、他人が驚くようなイノベーションで一歩先をゆくというベゾスの姿勢にも合致している。この姿勢は、いままで、アマゾンにとってプラスに働くことが多かった。】

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 僕はこれを読みながら、スタジオジブリの『魔女の宅急便』の、ある場面を思い出していました。
 おばあちゃんが孫のためにつくった「ニシンのパイ」を、魔女のキキが一生懸命届けるのですが、孫娘は「このパイ、嫌いなのよね」と、ありがた迷惑な様子で受け取る場面。

 僕は『魔女の宅急便』を見るたびに、おばあちゃんの気持ちが届かないことが悲しくなるのですが、現実的に考えると、ああいうことは、少なからず起きているはずです。
 おじいちゃん、おばあちゃんから、あるいは、親からの「心のこもったプレゼント」というのは、若い世代からすれば、「なんかズレている」「時代おくれ」「どうせだったら、現金のほうがよかったのに」というケースは、少なくないんですよね。
 とはいえ、プレゼントというのは、「こんなものをあげたい」という贈る側の気持ちやセンスが問われるものではありますし、「現金では、なんだか殺伐としている」と考える人も少なくないはずです。
 「お金であげると、あんまり役に立つことに使われないんじゃないか」と危惧する場合もあるでしょうし。

 それにしても、このジェフ・ベゾスの「新しい贈り物のシステム」の、よく言えば「合理性」、悪く言えば「身も蓋もなさ」には、驚かされるばかりです。
 こういうことを考えつくというのも、これまでの常識やマナーに縛られない人だから、なのでしょう。
 受け取って気に入らなかったから、というのならともかく、「受け取る前に、リセットできるシステム」っていうのは、贈る側からすれば、けっこう傷つくのではないかなあ。
 それとも、「相手が喜んでくれるのが一番だから、イヤイヤながら受け取られるよりは、他の品物やギフト券に換えてもらったほうがいい」と考える人のほうが多いのでしょうか。

 このシステム、少なくとも日本ではまだ実装されていないようです。
 この本に書かれているように、Amazonにとってはコストが省け、梱包材などの資源の節約にもなるので、「気持ち」の問題さえなければ、素晴らしいアイデア、とも言えるのですが……