a Day in Our Life


2007年06月11日(月) 似非レンジャー。(緑→紫(←赤))


 「意気地無し」

 一言、それだけ吐かれた言葉に顔を上げる。意気地なしだなんて、久しぶりに聞いた。それが自分に向かって放たれた単語であることに、グリーンは少し驚いた。
 「驚いた?やって、意気地なしやん」
 瞬きをする間も惜しんで真っ直ぐにこちらを見やるパープルは、怒っているようにも、軽蔑しているようにも見えた。ならば彼はいったい何を蔑んでいるのか。頭で考えようとしたグリーンのそれより速く、正直な胸がちくりと痛む。
 「何で逃げたん。レッドと俺の前から、さっき何で逃げたんや、おまえ」
 ちくちくと痛む胸の疼きが、その時一層痛んだ事で、パープルは間違っていないのだと知った。そして今また顔を歪ませたパープルが、怒っている訳ではなく、実は傷ついていたのだと知る。
 レッドが握った手の温もりが、まだ残っているような気がする。
 ”もう、ええやろ”と彼は言ったのだ。ずっと前からきっと分かっているのだろう、と見え透いた顔で。好きだ、と言うより早く、より感情的な体温が、パープルの皮膚から体内に浸み込む。珍しく茶化す事なく真剣な眼差しが、真っ直ぐに向かってきた。咄嗟に誤魔化そうとしたパープルを尻目に、解いても振り払っても、レッドの腕が懲りずに絡む。まるで逃げる事を許さないように、そうやって、それほどに彼の想いが本当なのだと知れた。
 だから、逃げるようにしてその場を離れてしまったのだ。
 だってその時のグリーンに、他にどうする事が出来ただろう?今まで聞いた事のないレッドの真剣な声に、気圧されるようにして、逃げてしまったのだ。
 だから、縋るようにグリーンを探して顔を上げたパープルが、そこにはいないグリーンに気が付いて、悲しげな表情を向けた事も彼は知らない。
 「俺、は…」
 何か、言わなければならないと思うのに、何を言えばいいのか分からなかった。
 ごめん、と言うのも違う気がする。でもごめん以外のどんな言葉をパープルは求めているのだろう?ごめん以外のどんな想いを、パープルに伝えたいのだろう。
 「…やっぱり意気地なしや」
 澱んだ目でひとつ瞬きをしたパープルは、大きなため息を吐いた。
 「もしおまえが俺を好きなら、黙って抱き締めたらええ事やんけ」
 いっそそうして欲しいかのように、パープルはそんな事を言う。そう言われたグリーンが、いったいどんな言葉を返せば、彼は満足するというのだろう。
 「それすら出来んおまえは、どうしようもない意気地なしや」
 それでも、嫌いにはなれないのだと思った。
 幻滅はしても嫌悪する事はない。それが彼の弱さだと詰っても、優しさにもなり得ると知ってる。
 レッドの想いに応えられない事と、グリーンに想いが届かない事。自分にとってどちらがより辛いのだろう、とパープルは思った。思って、ひどく泣きたくなった。今ここで泣き喚いたら、きっとグリーンはまた困るに違いない。だけど、決して困らせたい訳ではないのだ。パープルは、ただ、
 「ただ、好きなだけやのに」
 「…え?」
 「俺はただ、パープルが好きなだけやのに、やけどそう言ったらパープルは困るんやろ?レッドとどっちを選ぶ事も出来へんのやろ?」
 実際どっちを選ぶん?と問い詰める事も出来たけれど、グリーンはそうはしなかった。だから本当は、告げるつもりもなかったのだ。正に目の前のパープルが、自分の言った事を棚に上げたままぽかんと驚いて、考える顔をしたから。
 「困る…困るけど、」
 「けど?」
 毅然と背筋を伸ばしたパープルは、けれど折れる事はない。

 「でも、嬉しい」
 晴れやかに笑った。



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和歌山公演初参戦記念。

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