| 2010年04月12日(月) |
こんな王子様はイヤだ! |
「何で照井だけ瞳を覚まさねェんだよ・・・」
『ナイトメア・ドーパント』こと福島元を倒したにも関わらず、 ただ一人『風都大学』の『仮眠室(男)』のベッドで未だ昏々と眠り続けている 照井竜の寝姿を見下ろしながら、翔太郎はハァと溜息を吐いた。
「赤城教授や他の学生達は皆、瞳を覚ましたんだろ? だったら何で照井だけ起きねェんだ?」
「元々、最近寝不足だったみたいです、DVDだか何だかにハマってるらしくって・・・」
「ああ、アレだろ?『風の左平次』・・・まあ確かに面白いけどな・・・」
真倉刑事の言葉を隣で肩つぼ棒を押しながら刃野刑事が受ける。
「へぇ・・・あのDVD照井もハマってたのか。 ま・・・このまま放っときゃその内、瞳ェ覚ますんじゃねェのか?」
「でも、さっきっから耳元で怒鳴っても全然起きないんですよ! もしかして・・・夢の中で違うドーパントに捕まっちゃったのかも・・・」
不安そうに呟く真倉の言葉を聴いて、翔太郎も形の良い眉を顰めて考え込む。 すると、
「照井竜を救う方法が、たった一つだけ有る!」
部屋の隅で『地球の本棚』に入っていたフィリップが突然、大声を上げ、 真倉と刃野は思わずビクッと身体を竦ませた。
「さすがフィリップ!・・・で、どうすりゃイイんだ?」
現実に戻って来た相棒に向かって翔太郎が尋ねると、 フィリップは右手の人差し指をピン!と立てて答えた。
「『王子様のキス』だ!」
「『王子様のキス』ゥ〜?」
翔太郎を始め、真倉、刃野が声を揃えて言うと、フィリップは“ああ”と肯いた。
「まず照井竜が未だに目覚めない理由から説明しよう・・・ 彼の心は、 “夢の中で自分がドーパントに倒されてしまった”と云う、 屈辱的な現実を認める事が出来ずにいる。 その為、覚醒して現実に戻る事を彼の脳が拒絶してしまっているんだ。」
“ふんふん、なるほど・・・”と3人の男達はフィリップの説明に相槌を打つ。 フィリップは更に説明を続けた。
「『王子様のキス』・・・即ち男性のキスには人間の覚醒を促す効果が有るとされている。 『白雪姫』や『いばら姫』の童話に象徴される様に、 親族などに拠る虐待から閉ざされてしまった心・・・ 即ち『眠り』の状態に入ってしまった精神の解放・・・つまり『目覚め』だ。 そして第二次性徴のきっかけとなる性への『目覚め』を促す効果も有る。 つまり精神が目覚めれば、眠っている肉体も当然目覚めると云う訳さ・・・」
艶やかに煌く唇の縁を左手の指先でなぞりながら唱えられたフィリップの説明を “いまいち良く判んないんスけどぉ〜”と云う表情で首を傾げながら、 翔太郎達は聴いていたが、
「何だか良く判んねェけど、 つまり誰かが照井にキスすりゃ、コイツは瞳ェ覚ますって事なんだろ?」
「ああ・・・今日は珍しく察しが良い様だね?翔太郎。」
「珍しくは余計だっ!じゃあ、誰か・・・ 刃さんかマッキーか、どっちか照井にキスしちまえよ!」
翔太郎が事も無げに軽く言い放つ・・・が、 真倉と刃野は二人並んで“イヤイヤ”と呟きながら、 右掌と首を激しく横にフルフル振っている。
「俺には無理だ!絶〜対ッに無理だ! そうだ!真倉!お前がやれ!どうせ彼女いないんだろ?」
「イヤッスよ!俺だって、ちゃんと好きなコいるんですから!」
「あ!あの携帯の待受のコだろ?あの子カワイイよなぁ・・・」
「二人とも何をごちゃごちゃ言ってるんだい?! 照井竜を目覚めさせる方法は他に無いんだ!さっさとキスしたらどうなんだい?」
フィリップがピシャリと言い放つと、真倉はムッ!と不機嫌そうに眉を顰めた。
「そんなに言うならキミがやれば良いだろう?照井さんにキ・・・」
「冗談じゃねェッ!コイツは照井なんかに指一本触らせねェぞッ!」
翔太郎はフィリップの身体を両腕で引き寄せると、眠っている竜から庇うかの様に、 自分の背後に押しやった。
「じゃあ探偵がやれよ!・・・『王子様のキス』!」
スパッと真倉に断言され、翔太郎はグッと言葉に詰まる。
「・・・おい、何で『王子様』なんだ?女の子じゃダメなのかよ?」
ヒソヒソと背後に立っているフィリップに尋ねると、 彼はコクと肯きながらキッパリ“ああ”と言い切った。
「キスをした時に唾液から分泌される男性ホルモンが脳下垂体を刺激して 『覚醒』を促す効果が有るとされている、女性のキスでは不可能だ。」
「マジかよォ?・・・ったく、女の子でイイなら亜樹子にやらせんのに・・・」
その時、 『仮眠室(男)』のドアが開いて、黒いスーツを上品に身に纏い、 黒い帽子を被ってステッキを付いた物腰柔らかな紳士が室内に入って来た。
「おやおやァ・・・ 『ナイトメア』を尋ねて来たのに面白いモノを見付けたぞォ・・・」
「井坂・・・深紅郎!」
翔太郎はすかさず『ダブルドライバー』を装着し、フィリップと並んで素早くスッと身構える。
「な、何なんですか?いきなり入って来て・・・」
真倉は思わず声を荒げて歩み寄ったが、 『ウェザー・メモリ』を首筋から挿入して変身した井坂の身体から発生した竜巻に依って 刃野や翔太郎、フィリップと共に部屋の隅に吹き飛ばされてしまった。
『ウェザー・ドーパント』に変身した井坂は、 ベッドの上でスヤスヤと寝息を立てている竜の傍に歩み寄ると、
「こんな処で照井ユウジの息子がお昼寝とは・・・ じっくり身体を調べたい処ですが、彼はこの前、私の楽しみを台無しにした・・・」
憎々しげに呟くと彼は黒く鋭い爪を光らせながら、右手をサッと大きく翳した。
「私は楽しみの邪魔をした人間を決して許さない主義でしてね・・・」
「やべェ!照井が!」
“・・・・・・・・っ?!”
竜巻に煽られて倒れていた翔太郎が身を起こした瞬間、 『ダブルドライバー』の装着に依って繋がっていたフィリップの意思が伝わって来た。
“行くぜフィリップ!”
“ああ!”
二人はアイコンタクトを交わすと、 今にも竜に向かって右手を振り上げ様としている 『ウェザー・ドーパント』の背後に向かって猛ダッシュで突っ込んだ。
「ライダー・ツインスリッパ!!」
“こんな王子様はイヤだ!・・・けど照井だから、ま、いっか!”と、 金文字で書かれた緑のスリッパを、 “パッコ〜〜〜ンッ!!”とタイミングをピッタリ合わせて叩き込み、 かつ『ウェザー・ドーパント』の頭をそれぞれ左右から掴んで、 竜の顔面に思いっ切り、ギュゥゥゥウゥウウウウッ!と強く押し当てた。
「う・・・うぅッ?」
やがて苦しそうな呻き声が上がり、 竜の瞼がピクピクっと動くのが『ウェザー・ドーパント』の頭越しに見えた。
「やった!」
声を揃えて言った二人の腕から、ホッと力が抜け、 その隙を突いた『ウェザー・ドーパント』が二人の身体を振り解いた。
「うわぁッ!」
吹き飛ばされこそしなかったが、大きくよろめいた二人の瞳の前で、 『ウェザー・ドーパント』はゼェゼェと肩を上下させると、
「び・・・美食に慣れた私の唇にこんなゲテモノを食させるとは・・・ は、早く口直しをしなければ・・・そうだ!あの猫を・・・」
噛み締めた歯の間から絞り出す様に言うと、 “ゴォォォッ”と竜巻を発生させながら身を翻して、 『仮眠室(男)』のドアから出て行ってしまった。
「アッ・・・!」
竜巻の強風に煽られ、 バランスを崩したフィリップは竜の身体の上にバサッと倒れ込んでしまった。
「うんッ?お・・・重いッ?!」
ぱちっと大きな瞳を開いた竜は、 すぐ瞳の前にあるフィリップの顔を見ると、 まるで花が開く時の様に嬉しそうにニッコリ微笑んだ。
「フィリップ・・・キミの身体は思ったより軽いんだな?鳥の羽根かと思ったぜ・・・」
「は?」
「さっき“重い”って言ってたじゃねェかよ?」
背後でブツブツ毒づいている翔太郎など全く視界に入れず、 竜は呆然としているフィリップの顔を見つめながらうっとり瞳を細める。
「そうか・・・さっきの優しいキスはもしかして・・・」
そう言いながら“ポッ”と恥ずかしそうに両頬を朱赤に染めると、 竜は、まるで乙女の様に可愛らしく呟いた。
「俺の王子様はキミだったんだな?フィリップ・・・」
「はぁぁ?」
“ちょ、ちょっと翔太郎?照井竜は完全に勘違いしてしまったよ?”
フィリップは『ダブルドライバー』を通して翔太郎の意識に訴え掛ける・・・だが、
“黙ってろ!フィリップ! もし・・・本当の事を言っちまったら、照井の奴、腹ァかっ捌いて死んじまうぞ!”
“だけど・・・”
そんな会話が意識下で行われているとは露知らず、 竜はスッと伸ばした両手でフィリップの白い両手を大切な物の様に うやうやしく握りしめながら、嫣然と微笑した。
「フィリップ・・・やはり俺のパートナーはキミ一人だけしか考えられない。 左みたいな男とはもう別れて・・・」
「なんだと!?照井!てっめェェェ〜〜〜ッ!」
それまで苦々しそうな表情で沈黙していた翔太郎は、 まるで火が点いたかの様に怒鳴りながら、竜が寝ているベッドに向かって歩み寄ると、 フィリップの手を掴んでバッ!と振り解かせた。
「何だ?左・・・邪魔をするな!」
竜の言葉が翔太郎の逆鱗を直撃したのを すかさず感じ取ったフィリップは思わず声を上げる。
「ちょっ!翔太郎!それを言ったら照井竜は腹を・・・」
「うるせェ!切腹の介錯は俺がしてやらぁ! やい!照井! 耳の穴かっぽじって、よぉ〜ッく聴きやがれ!お前の王子様はなァ・・・!」
次回『Aの乱心/王子様を叩っ斬れ!』
大切な家族に加えて、大切な唇まで井坂に奪われてしまった照井竜に励ましのお便りを・・・ 『風都ミステリーツアー・赤い無人バイクの男』宛
目撃情報もお待ちしております(違)
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