Monologue

2010年01月20日(水) dicision(仮面ライダーWネタ)

一年前、翔太郎と共に研究所から逃亡する際、
フィリップは初めてファング・メモリを挿してファング・ジョーカーに変身した。

ガイアメモリを身体内に挿入すると、
メモリ内のプログラム信号(ガイア言語)が神経細胞が異常活性化させ、人間の神経伝達物質(ドーパミン)の分子配列を強制的に覚醒剤物質(ガイア・ドーパミン)に置き替えてしまう。
過剰分泌した『ガイア・ドーパミン』は大脳に刺激を与え、
人間の潜在能力を引き出し増強させ超人に変身させる。
毒性のある強烈で恐ろしいドーパミン分子が人間の脳に大量に入るのは危険である為、
ドライバーに依って脳に負担が掛からない様にフィルタリングする必要が有る。

だがファング・メモリの持つ『牙の記憶』はダブル・ドライバーを介しているにも関わらず、フィリップの理性を吹き飛ばし暴走させた。

『ガイア・ドーパミン』に依って齎される暴力と破壊への衝動をフィリップは抑制する事が出来なかった。

だが、左翔太郎と云う男と合体した時は全く問題が無かった。
身体の奥底から底知れぬ力が漲って来るのは感じつつも、
翔太郎と云う男の視界を通して、自分は冷静に周囲の状況を把握する事が出来た。

フィリップは確信した。

彼と二人ならば・・・きっと出来る。
『ガイア・メモリ』の有害なエネルギーを受ける事無く、
逆にそのパワーを使いこなす超人に変身する事が。

だが、その後、『鳴海探偵事務所』に匿われてから間も無く、
風都の街にドーパントが出現した時、
翔太郎はフィリップと共に『W』に変身する事をかたくなに拒んだ。

“冗談じゃねェ!お前みてェなガキと一緒に闘えるかよ?!”

“不服かい?
僕みたいな『悪魔野郎』と相乗りするのは・・・。”

おやっさんから託された大切な『運命の子』などと口では言っているが、
内心では、
この風都の街の人々を泣かせる元凶『ガイア・メモリ』を何の罪悪感も無く
(むしろ面白がって)製造していた悪魔だと軽蔑しているのかもしれない。

“いい加減覚悟を決めたまえ。
悪魔を倒すには悪魔の力が必要なんだ。
・・・それとも、やっぱり怖いのかい? “

ぐっ・・・と翔太郎は一瞬、言葉に詰まった。

“バカ言うんじゃねェ!
大体、あん時はお前の方がビビってたじゃねェかよ?
あの白いガイアメモリを挿して変身した時は!”

“そう・・・だからキミにボディ・サイドを引き受けて貰うしかない。“

“あん?”

フィリップの発した単語の意味を理解出来ないらしい翔太郎が首を傾げる・・・が、
そんな事は日常茶飯事なのでフィリップは構わず言葉を続けた。

“僕達、身体の相性はかなり良いからね、
ドライバー装着時の神経パルス接続も全く問題無かった。
 ダブルドライバーメモリの開発者は、鳴海荘吉に依頼して、
あらかじめキミを探しておいたのかもしれないよ。“

“どういう意味だ?”

翔太郎は訝しそうに眉を顰める。

“鳴海荘吉があの夜・・・ビギンズ・ナイトの時、
闘いに不慣れなキミをわざわざ連れて来たのは何の為だと思う?
足手まといにしかならないキミを・・・。“
『足手まとい』と云う単語のみに反応した翔太郎の眉がピクッと吊り上がる・・・が、
やはりフィリップは気にしない。

“おそらくキミはダブルドライバーの被験者だったんだ。”

“おやっさんが俺を?・・・実験材料にしたってのか?そんなバカな話が有るか!?”

信じられないと言わんばかりに翔太郎の瞳が大きく見開かれる。


“僕をガイアタワーから連れ出すのは鳴海荘吉にとってもかなり無謀なミッションだったんだろう。
彼一人で来たとしても、僕を連れてタワーから生きて脱出出来る確立はかなり低かっただろうからね。
だから、たとえ危険性は増すとしても、
ダブルドライバーの適格者候補であるキミを連れて来たのは、
万が一にでも僕との合体が成功すれば、
何とか僕を逃がし切れると考えたんじゃないのかな?“

フィリップを研究所から連れ出すと云う依頼人の願いを何としてでも叶える為に・・・。


“そんな・・・。
俺を連れて行った所為で、おやっさんは死んだのに?“

“鳴海荘吉が選んだのかどうかはともかく、キミの身体能力の高さは素晴らしいよ。
知能はともかくとしてね。”

“何だと?”

“知能・・・ソウル・サイドは僕が引き受ける・・・と云うか、引き受けざるを得ない。
僕がボディサイドになる為のメモリはファングしか作られていないようだが、
ファングはもう・・・二度と使わない。“

恐竜型ロボット形態の時は小動物らしい仕草を見せていたファングを、
メモリとして挿入したあの時の異常な精神の高揚感・・・・
人間が人間でなくなる事の『恐怖』を痛感した時をフィリップは苦く想起する。

“・・・一つ尋いて良いか?”
翔太郎が躊躇いがちに唇を開いた。

“もし、合体してる時『W』の身体がドーパントにバラバラにされちまったら、
その・・・何だ、ソ、ソウルサイドになってるお前は一体どうなっちまうんだ?”

“別にどうもならない。
肉体さえ無事ならば、僕の精神はそのまま元の身体に戻るだけだ。
もちろんボディサイドのキミの身体はバラバラになってしまうけどね・・・。“

“つまり、もし俺が死んじまったとしても、お前だけは助かるって訳だな?“

“ああ、悪魔との契約条件はキミにとってはかなり不公平だね。
やっぱり不服かい?。”

“いや、それを聴いて安心したぜ。

“え?”

フィリップは思わず耳を疑った。

“俺一人だけが死ぬなら別に構わねェ・・・
だが、お前はおやっさんから託された『運命の子』だ。
おやっさんの為にも、
いや、おやっさんにお前を託した依頼主の為にも、
俺は死んでも、お前に傷一つ付ける訳にはいかねェからな。“

(僕を・・・傷付けない為に?)

まさか、この男は、
そんな理由で『W』になるのを拒んでいたと言うのか?

“キミは・・・それで良いのか?理不尽だとは想わないのか?”

“ああ!理不尽だぜ!
精神だけとは云え、お前みてェなガキをドーパントと闘わせなきゃならないなんてな!”

『ガキ』と云う単語のみに反応したフィリップの眉間がムッと縦ジワが寄る。

“子供扱いはやめたまえ!”

“そういう処がガキだって言ってんだ!
いいか?これから極力外出は控えろ!
ドーパントと闘っている間は安全な処に隠れて絶〜ッ対に出て来るんじゃねェぞ!いいな!
どんな事が有っても俺はお前を傷付けさせない、お前を守る為に俺は闘う。“

翔太郎は真正面からフィリップを見据えて言った。

その瞬間、
ズキ・・・ンと、胸の奥底に鈍い痛みが走った。

“何だ?お前、なんてツラしてんだよ・・・今更怖気づいたのか?”

フィリップはハッと息を呑む。
自分は今、この男の前で一体どんな顔をしていたと云うのだろうか?

“・・・後悔しても、もう僕は知らないぞ。”

冷たく言い捨てるフィリップに向かって、

“ああ、行こうぜ・・・相棒。”

『相棒』と、
その時、初めて翔太郎がフィリップをそう呼んだ。


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