Monologue

2007年02月14日(水) Finger Ball (『カブト』ネタです)

「・・・で、最後の仕上げに飾り用のココアパウダーか粉砂糖を振り掛ければ『オレ様風チョコレート・ブラウニー』の完成だ」

「すご〜い!天道君て、本っ当に何作らせても上手なのねぇ〜!」

『ビストロ・サル』の厨房で、店長の弓子が、
たった今、天道が完成させたハート型の『チョコレート・ブラウニー』に
感嘆の眼差しを向けながら、パチパチと賞賛の拍手を惜しみ無く浴びせる。
「これなら田所さ・・・」と、言い掛けて、ハッ!と慌てて弓子は口ごもる。
「い、愛しいあの人のハートもGET出来るかも・・・ね!」

「当たり前だ、オレの作った『チョコレート・ブラウニー』を一口食べれば、
誰でもこの魅惑的な味の虜になる。
たとえ相手がどんな奴だろうと一発KO間違い無し!だ」

「・・・それって、何かヤバイ物でも混ぜてあるんじゃないのか?」

ボソッと小声でひよりが呟いた時、
“カララララン・・・”と鐘の音を響かせて『サル』の扉が開いた。

「ウィ〜ッス!
 弓子さ〜ん!頼まれてた『義理チョコ』買って来ました〜〜!」

『義理チョコ』がパンパンに詰め込まれた大きな紙袋を抱えた加賀美巡査
(今日は非番らしい)は店に入った途端、
“クンクン・・・”と鼻の穴をヒクつかせると、

「お!スゲェ美味そうなチョコの匂い!」

ダッ!と、瞬時に厨房へオーダーを通す窓の側に駆け寄り、
ヒョイと厨房内を覗き込んだ。

「あれ?天道・・・お前が作ってんのか?」

「ああ、弓子さんに頼まれて、勝負用チョコレートケーキをな」

「え?マジ!超〜美味そうじゃん!
 ねぇねぇ!弓子さん!当然俺の分も有るんでしょ?」

「ああ、加賀美君は買って来て貰った『義理チョコ』の中から
適当に好きなの1個取って良いわよ」

ニコニコ微笑いながら非情な言葉を放つ弓子に
加賀美は不機嫌そうに声を荒げた。

「ええ〜〜〜ッ!せっかく休み返上で買いに行って来たってのに、
俺には一個105円(税込)の『義理チョコ』だけっすかぁ?」

「文句が有るなら借金全部返してから言ってちょうだい!」

ビシッ!と鼻先に人差し指を突き付けられ、
加賀美はグッ!と言葉に詰まる。

「さぁて、ラッピング、ラッピング〜と♪さぁ!ひよりちゃんも手伝って!」
「何で僕が・・・」

“チョコを食べて〜♪ララララ〜♪ついでに私も一緒に食べ〜て〜♪”

どうやら自作らしい歌を高らかに熱唱しながら弓子は
ハート型の『チョコレート・ブラウニー』を片手に、
ひよりと共に店の奥へと消えて行った。

「なぁ天道・・・
 チョコッと位チョコ余ってんだろ?」

チェッと軽く舌打ちしながら厨房の中を覗き込むと、
天道がボールに残ったチョコレート・ケーキの材料を指で掬い取って、
ぺろ・・・と舐めている。

チョコレートソースに塗れた、細く節立った指を咥えてキュッと軽く吸う
形の良い唇に時折ちろ・・・ッと桃色の舌が覗いて・・・


「何だ?」

不機嫌そうな声と共にジロッと鋭い瞳で睨み付けられて、
ようやく加賀美はハッと我に返った。

「いや、あの、その・・・
美味そうだな、と想って・・・あ、え〜と・・・その、チョコが!」

照れ隠しから、つい、しどろもどろした喋り方になってしまう加賀美を
胡散臭そうに眺めていた天道は、

「そうか・・・じゃコレでも喰え」と、
手に持っていたボールを加賀美の手元にグイ!と押し付けて来た。

「わッ!何だよ・・・もう、ほとんど残ってねェじゃんかよ!」

「ああ、もう!いちいちうるさいヤツだ!」

ぷい・・・ッと天道は踵を返して、厨房の奥へ入って行ってしまった。


あの指に・・・

器用そうに動く、あのしなやかな細い指に、
ツ・・・と、自分の舌を這わせてみたくなる・・・『切望』

そんな事を想像しただけで、両耳朶が熱く熱く火照る。
舌がカラカラに渇いて喉が張り裂けそうだ。

(何、考えてんだ?俺・・・)

ふと厨房の中に視線を向けると、
天道は水道でバシャバシャと手を洗っていた。

すっかり穢れが洗い落とされた彼の指に、もし口付けたら、
きっとこのボールの中に残ったチョコと同じ味が、
ほんの少しだけ残っているのだろう。

甘くて、微かに苦い・・・


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