| 2007年01月08日(月) |
半月(『カブトネタ』です) |
部屋の窓の外から差し込む月明かりが、 傍らに眠る彼・・・天道総司の端整な顔立ちを照らし出す。
スゥスゥ…と規則的な寝息を立てながら穏やかな顔で眠る天道の寝顔に、 先刻瞳を覚ましてから、ずっと加賀美は見惚れていた。
(やっぱキレイだな・・・コイツ)
もし彼に面と向かって そんな台詞を言おうものなら、 想い切り侮蔑を込めた眼差しで一瞥されるのが関の山だろう。
だから、こうして、 彼が眠っている間に、こっそりと盗み見る。
常日頃、自分の事を“太陽だ”と言って憚らない彼だが、 むしろこうして、冷たく蒼褪めた月光を纏う方が、 彼には良く似合っていると加賀美は想う。
闇月夜・・・ 朧光の元、抜ける様に白い彼の素肌は、 まるでそれ自体が白銀の光を放っているかの様だ。 そう“太陽”と呼ぶよりも、むしろ……
「・・・・ン・・・ッ?」
薄く開けた唇から微かな呻き声を漏らして身動ぎながら、 天道がゆっくりと大きな瞳を開いた。
彼の顔にずっと見惚れ続けていた事を揶揄されるのではないか?と 一瞬、加賀美は“ドキ・・・ッ!”としたが、 天道の瞳は加賀美を通り越して、何か違う物を見ている様だ。
「月・・・」
「へ?」
天道が発した言葉の意味がすぐに理解出来ず、加賀美は首を傾げる。 キョトンとしている加賀美の顔のすぐ真右横に向けて、 天道はスッと人差し指を伸ばした。
彼の指の先には、この部屋を照らしている半月が煌々と輝いている。
開け放たれたカーテンの間から覗くのは、 ちょうど縦半分に割られた様な月齢6.6の月。
「あの月・・・・ 残り半分はどこにあるんだろうな?」
「は?」
彼が発した言葉の意味を掴めずに呆然としている加賀美の事など、 まるで眼中に無いかの様に、天道は独り言の様に呟く。
「子供の頃・・・ あんな風に欠けた月は、 残り半分がこの地上のどこかに落ちてるって話を聴いた事が有る。 その欠片は何日かすると空へ戻ってしまうが、 その前に拾って何処かに閉じ込めてしまえば、 空にある月はずっと半分のままだと云う……」
「へぇ……」
「その月の欠片を樹花にやろうと想って、 オレは一晩中探し廻ったんだが、もちろん見付からなくて、 翌朝おばあちゃんにこっぴどく怒られた」
普段は怖いモノなど何も無いと云わんばかりに威風堂々としている彼が、 祖母に怒られて意気消沈している様を想像して、 加賀美は堪えきれずに笑いを漏らしてしまったが、 天道は特に気にしてはいない様だ。
「そんなの幾ら探したって見付かる訳ねェじゃん」
「そうだな・・・こんなのは所詮、子供騙しのただのお伽話だ」
「あ・・・いや、そうじゃなくてさ・・・」
言い掛けて、加賀美は言葉を飲み込んでしまう……。
天空に煌く半月の下、
白い息を吐きながら半分に割れた月を探す一人の少年、
実は彼自身こそが空から転がり落ちた月の半身なのだと、
彼は知らずに探し続ける。
いつまでも いつまでも 夜が明けるまで……
「俺、もしかして見付けたかもしんないから・・・その、月・・・」
呆然と加賀美は呟く。 だが、天道は不思議そうに瞳を丸くしながら、 形の良い唇に薄く皮肉そうな微笑みを浮かべただけだった。
「何だ?相変わらず面白いヤツだな…… さっきのはただのお伽話だと言っただろう?」
天道の言葉を聴いて、 先程、己がしてしまった想像があまりにも照れ臭くなってしまい、 加賀美はプィ!と視線を外した。
「わ、悪かったな! たとえ月が見付かっても、 お前とは絶対ェ!半分こしてやらねェからな!」
天道は可笑しそうに、いつまでもいつまでも微笑っていた。
夜空に掛かる彼の半身は、 まるで穏やかに微笑む麗人の如く、静謐な白銀の光を湛えて煌いていた。
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